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転生斡旋所

転生斡旋所#7

作者: 灰色

「えー、相討ちになった勇者と魔王さんですね。あなた方は各自の立場を全うしているので、一度あちらで相談してきて下さい」

そう言うと、先ほどまで壁だった所に扉が現れる。

本人達の感覚では少し前まで殺しあっていた為、ぎこちないまま言われた部屋に入る。

扉が閉じられると直ぐに壁に戻る。

「今日はいつもより忙しいなぁ。次の方、どうぞ」


ビジネススーツを着た30代の女性が建物の前に立っている。疲れを隠すためか、少し濃いめの化粧が目立つ。

気付くと良くわからない建物の前に立っており、一先ずその建物の扉を開けようと試みたが開くことが出来ず、次の手を考えていた。

「次の方どうぞ」

と言う言葉が聞こえ、扉の鍵が開く音がした。

特に名案も思いつかなかった為、先ほど開かなかった扉の前に立つ。現状を把握するには情報が圧倒的に足りない。促されるまま扉の中に入り、臨機応変に対応するしかない。そう割りきり、扉を開くのであった。


「いらっしゃいませ。ここは転生斡旋所です」

扉の中は応接室のようになっており、一人の人物が立っていた。中性的な風貌をしており、性別はわからない。公務員のような印象を受ける。危険は無さそうだと判断する。

「初めまして、⚫⚫と申します」

女は挨拶を行い、情報収集を開始しようとした。

「失礼ですが、転生斡旋所と聞こえましたが、ここはどこで、どういった業務を行っているのでしょうか?」

「そう焦らずに、一先ず座って話しませんか。疑問については資料がございます。そちらを一読いただいた上で、ご質問にお答えしますので」

確かに、立ち話を続けるよりも資料があるのであればそれを読む方が手っ取り早い。資料の内容の真偽は別として。

「では、失礼いたします」

そう言い席に着き、資料を受け取り、自身の現状把握に勤めるのであった。


「私は死亡し、そしてここで次の生について相談し決めることが出来る、と言う事ですか。因みに、死亡理由を伺う事は可能でしょうか?」

資料に一通り目を通した後、得た情報の裏付けを取る為に質問を行う事にした。何故なら、あまりにもこちらに都合が良すぎるからだ。質問を行い、信用出来る相手かどうかを知りたい。

「死亡理由は、過労死となっています。御愁傷様です」

その返答を聞き、直近の激務を思い出した。世界的に大変な状況であり、仕方が無かったとは言え無理を続けすぎたのは自分でも把握している。同僚と「過労死したらどうする?」と冗談のように話していたが、本当になったようだ。

「そうですか。過労死。納得は出来ます。では次ですが、転生を斡旋していただけるそうですが、それによりあなた方にどういったメリットがあるのでしょうか?」

メリットとデメリット、両方を把握した上でこれまで意志決定を行ってきた。自身のメリットが多すぎるのは、逆に信用できない。

「私共のメリットですか。んー、全てを説明する権限を私は持っておりません。言える範囲でよろしいですか?」

女性は頷き、続きを促す。

「死んだ時に満足出来る、世界にとっても良い結果を残せる人が最近減りすぎておりまして、その結果不都合が生じています。その為、本人が望む世界や立場で転生出来れば、満足できる生き方をおくれる人が増えるのではないか、と考えた方がおりまして」

「どういった不都合かを言える立場ではないが、そちらにもメリットはある、と言う事ですね。答えられる立場の方に会わせて頂きたい所ですが、恐らく無理でしょうね」

「はい。ご理解いただき、有り難うございます」

正直、まだ完全に納得したわけではないが、相手にもメリットがあるのなら、と割り切る。そもそも、死んだ身で相手の裏事情を知ったところで、何が出来ると言うのか。猜疑心が強すぎる自分を恥じる。相手の意図より、これから先の事を考えた方が建設的だ。

「こちらこそ、有り難うございます。そちらの都合を考えず、疑ってばかりの私に丁寧に接していただいて。ここからは、もっと前向きな話をしたいのですが、何点か質問させて頂いてもよろしいでしょうか」

「どうぞ。質問に答え、満足の行く転生をお手伝いするのが私共の仕事ですので」

そして、いくつかの質問の後、転生先を決めて行くのであった。


「では、以下の内容でよろしいでしょうか」

要望についてまとめたものを提示され、確認する。

・乙女ゲームの世界

・無能な第一王子(ゲーム内の悪役)

・生まれた時点で現在の記憶を持つ

確認し、彼女は返答する。

「はい。問題ありません。よろしくお願いいたします」

資料の細部まで確認し、転生について珍しい位に前向きに意見調整を繰り返した彼女。その要望がたったのこれだけである事に興味を持ち、つい業務外の質問をしてしまう。

「興味本位で申し訳ありませんが、少し伺ってもよろしいでしょうか?」

彼女は即答する。

「どうぞ」

「どうして、あえて悪役への転生を選ばれたのですか?」

その質問に対し、彼女は少し恥ずかしげに答える。

「私にも学生の頃があり、その頃はゲームに興じる時間がありました。選んだゲームはその中でも悪役の王子の酷さが記憶に残っていまして、自分が主要キャラになるより、王子がもう少しまともなら全員幸せになれるのではないかと思いまして。まぁ、私にどこまで出来るのかはわかりませんが」

回答を聞いた後、担当者は転生の手続きを終了させる。

「お忙しい所、理屈っぽい私の面倒を見ていただき、有り難うございました。過労死しない程度に精一杯生きてみます」

そう言い終わると同時に、彼女は消えていった。


確かに忙しく、時間がかかる相手ではあった。だが、久しぶりに良い仕事が出来た、という手応えを感じる。最近の自分の仕事が雑になっていた事に気付く切っ掛けにもなった。反省し、次の作業に戻るのであった。



結果を把握し、今後の業務に活かすのも仕事のうちである。

成功を確信してはいるが、万が一という事がある為、恐る恐る確認してみる。


・第一王子として生まれる

・子供の頃から利発であり、周囲から期待される

(それに対して、反発する貴族も存在する)

・第二王子が生まれる

・第二王子も利発であり、兄弟仲も良い

(傀儡に出来る王子を求める貴族は、どちらかが愚鈍である事を望んでいた。双方利発であった為、若い分扱い易いと判断し、第二王子派を形成する)

※元のゲームとは全く逆の派閥構成となる

・貴族の問題行為を掴む為に、前世の経験を活かし、同年代の孤児を中心とした自分専属の潜入工作員を育成する

・第一王子がゲームの舞台となる学園に入学する

・ゲームの知識と潜入工作員が掴んだ情報を元に、第二王子派の貴族に対し、切り崩しを図る

・第一王子派に対し、王位は第二王子に譲る旨を伝え、弟の手助けをするように要請する

(一部の貴族に対しては、脅迫する。自分の派閥とは言え、清廉潔白な貴族ばかりではない)

・第二王子が入学する

・貴族の粛清を進めた結果、ゲーム開始時点での初期設定が異なるため、ゲーム知識通りに進まないイベントが多発する事を懸念する

・潜入工作員を学園に入学させ、工作員達に教育の機会を与えると共に、各種イベント状況を調査させる

・全てのイベントを管理する事は不可能と判断し、必須イベントのみに注力する

・自身を除き、ほぼ理想的なエンディングに導く事に成功する

・ゲームではライバルとして登場していたサブヒロイン(悪役令嬢)については、同じく悪役担当であった自身と添い遂げる事で、破滅する事を防ぐ

(実はサブヒロインの方が好みであり、彼女の破滅を防ぐ事も転生した理由の一つであった)

・弟を王位につかせ、自身は影の存在として潜入工作員を統率する事に専念する



「流石は元工作員のリーダー。前世の経験を有効活用し、目標を達成しましたね。上手くいくと信じてはいましたが、無事に目標を達成でき、安心しました。以降どうなるかまで調べるのは野暮ですね」

そう呟くと、次の作業準備に取りかかる。同僚と会う機会が減り、独り言が増えたな、と自嘲しながら。






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