巨大ネズミ戦開始
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「チュアアアアァァァ!!」
巨大ネズミは威嚇するように叫んで二本の足で立ち上がりました。
「まじかよ」
ハルさんは背丈ほどある大きな武器を抜いて構えます。前にハルさんにどうして、そんなに長い武器を使っているのか聞いたら、下水道では障害物も動ける場所もそれほどないので、お互いにどちらが早く攻撃を当てるかにかかっている。だから、この場所ではなるべく射程が長い武器が有利になるそうです。
でもあの巨大ネズミには通じるのは分かりませんし、ハルさん達の表情を見るに初見の敵の様です。
「あの、逃げるって選択肢はないんですか?」
私は皆さんに逃げないのか聞きます。
「そうね、本当なら逃げたいけど、明らかにあのネズミよりも強力なのは見てわかるから、逃げても追いつかれる可能性が高いわ」
書いていた道具を仕舞ってクロスボウを構えながらラアさんが答えます
「…逃げたいなら、別に止めない。僕のせいだから攻めない、でも残った方が皆で生き残る確率が上がるからいて欲しい」
瓶のふたを閉めてから、杖を振って辺りに強風を吹かせました。微かに卵が腐ったような匂いがしましたが、それも少しの間だけで、すでに下水道の匂いしかしません。
「大丈夫ですシアさん。皆さんが残るのなら、一人で逃げ出すわけにはいきません」
腰の剣を抜いて構えます。
「そうか、じゃあ行くぞ!」
先手を切ったのはハルさんでした。大きく振りかぶって突進するハルさんに合わせるようにシアさんとラアさんがネズミの左右に魔法と弓を放ちました。魔法は火を放っています。ハルさんに当てないようにしながら左右を塞ぐように放って、ハルさんは背後を任せて全力で切りかかっているのに、長年三人がパーティであることの絆を感じます。
そう思っているうちにハルさん剣が届く距離まで近づいていました。ハルさんは力強く剣を振り下ろしてネズミに切りかかりました。左右は塞がれていて逃げ場はないので大丈夫だと思いましたが、ネズミは背を向けて後ろの扉を駆け上がって回避しました。空振りをしたハルさんの剣は先が扉に当たったことで甲高い金属音が辺りに響きます。
そのことを気にしていないかのようにネズミは巨体に似合わず天井をかけています
「…逃がさない」
シアさんが弱い魔法を連発して唱えていますが、なかなか当たりません。私も剣を片手でも持って、もう片方の手でナイフを取り出して投げますが、私の投げナイフの技術は所詮付け焼刃。動かなかったネズミならまだしも、素早く天井を駆けているネズミに当てることは出来ません。
「すばしっこいわね」
クロスボウの再装填が終わったラアさんも狙いを定めていますが、クロスボウは一発撃つと装填に多少時間がかかってしまうので慎重になっています。
巨大ネズミは少し天井を駆けるとシアさんの方を見ると大きく口を開けました。
「…!『ウォール!!』」
何かを感じたのかシアさんネズミの方向に壁のような物を作り出しました。直後にネズミの周囲から炎が作り出されて放たれました。放たれた炎はシアさんの作り出した壁に直撃して爆発しました。
そのまま突撃してくるかと思いましたが、ネズミは方向を変えてラアさんの方を見ました。そしてそのままラアさん目掛けて突撃してきました。
不味いです。ラアさんが持っているクロスボウでは魔法を防げません。私は全力で走り出してラアさんに接近します。
「このっ!」
ラアさんもクロスボウでネズミを狙って放ちました。天井から突撃したので、ネズミは空中にいるので回避は出来ません。しかし、ネズミは口を開けて矢が当たる直前で口を閉じて矢をかみ砕きました。
「うそ?!」
流石にそれは予想外だったらしく、ラアさんは動揺して回避が遅れています。
「どいてください!」
ネズミが当たる前にラアさんを突き飛ばして、代わりにネズミの前に出て剣を横に構えます。本当なら被弾覚悟のクロスカウンターを狙いたかったのですが、この剣は隊長の刀と違って頑丈ではないので、折れる可能性があるので防御します。
ネズミの大きな口が閉じて前歯が剣に当たるのとほぼ同時に、ネズミがぶつかったことによる衝撃で体が仰け反ります。上からの攻撃だったので吹き飛ばされることはありませんでしたが、もし横からぶつかって来ていたら吹き飛ばされていたかもしれません。
少しの間ネズミは空中にいましたけど、重力に沿ってその巨体を地面に下ろしました。しかし、今度は地面に付いたことでネズミが前に行こうとする力に押され始めました。私も踏ん張って耐えていますが少しづつ後ろに下がっています。
ハルさんはこちらに駆けている最中で、シアさんは魔法の攻撃で煙で視界が塞がれて確認できません。ラアさんはクロスボウの再装填中で動けません。ここは私が耐えなければと力を込めて前に足を動かします。最初は拮抗していましたが少しづつ私が押し始めて、ネズミが後ろに下がり始めました。
今だと私は力を込めてネズミを突き飛ばそうとしました。するとネズミは突然力を抜いて横にそれました。
「え?」
私は体勢が完全に崩れて前につんのめるような形になりました。ネズミはそのまま壁を勢いよく蹴って、私に頭突きをかましてきました。
「グァ…ッ!」
ネズミの渾身の頭突きは横っ腹にもろに直撃して、私を反対の壁まで吹き飛ばしました。壁にめり込むまではいきませんが、ネズミの頭突きを防御しようと体を捻っていたことによって、壁には背中らぶつかりました。
「かはっ!」
背中からぶつかったことで私の中にある空気が強制的に吐き出されました。そのままずるずると地面に座り込みます。地面と言っても反対側には通路が無いので下水道の水に浸かることになります。
「アイビー!」
ラアさんの叫び声が聞こえるなかで、私は意識を手放すまいと無理やり息を吸い込みます。下水道の匂いが意識を手放すのを止めてくれたので、そのまま息を止めて足に力を込め、剣を杖代わりにして立ち上がります。
少し衝撃で頭がはっきりしませんが、バシャバシャと水音を立てながら歩き出します。少し歩けば意識がしっかりしてきたので周りを見てネズミを見つけます。
ネズミは、今度はハルさんと接近戦を行っているので、背後を取って地面に上がります。そして走り出してネズミに不意打ちを食らわせよう走り出します。




