死角に逃げろ
「ライク ザ フォロー オブ リバー」
先ほどよりも明らかに威力が上がった水流が両手の間から生み出されて向かってくる。今までの魔法とは明らかに違うものに見える魔法に背を向けて全力で離れようとする。しかし規模だけではなく速度も上がっているようで距離が離れるどころかむしろ近づいてきている。
体勢を変えて急降下をしながら回避を試みるが、追うように水が曲がって追いかけてくる。
「追尾機能アリっスか!」
しかしそれでも考えはある。地面すれすれまで降下してぶつかる直前に地面を這うように飛ぶ
向こうはどうする?そう考えながら後ろを見たら水流は地面に激突して沈黙した。
「・・・え?こんなあっさり?」
もう少し地面を削りながらこっちに迫ってくるのかと思っていたのだが、あっけなく終わってしまったことに少し肩透かしを食らうが、向こうが次の魔法を放つ前の今の内にケリを付けないとな。
そう思い奴の所に行こうとすると足元が大きく揺れ始める。
「・・・まさか!?」
急いで上に飛びあがる。直後にさっきまで立っていた地面が盛り上がり、少しすると爆発音とともに盛り上がっていた場所が裂けてさっき地面にめり込んでいた水流が出てきた。
「マジっスか・・・」
先ほどの水流と違い掘り進む為に回転しながら地面から出てくる。しかも掘っていた土砂を飲み込んでいるらしく泥水みたいな見た目をしている。中には小石の類が高速で回転していて、もし飲み込まれでもしたら中の小石とかにミキサーされて跡形もなくなりそうだ。
地面から出てきた水はそのまま真っ直ぐこちらの方を向いて再び突進してくる。
「しつこいっスね!」
余り高度を上げずに建物の間を縫うように逃げるがそんなものお構いなしに建物を穿ったり薙ぎ払ったりしながら追いかけてくる。
「だったら!」
出来る限り速度を出しながら少し大きな通りに出て一直線に逃げる。
向こうがどんな魔法を使おうが、使用者が人間である以上見える範囲も人が見える範囲まで、遠く離れてしまえば水が影になって見えなくなる。見失えば攻め手はある。俺は出力を上げ過ぎないように注意しながらスピードを上げる。
後ろを見ると先ほどよりも少し離れたように見えたが、迫ってくる水流の速度が上がり生まれたように見えた距離を縮めてくる。回避のために右か左に動きたいが、曲がろうとスピードを落としたりしたら絶対に追い付かれるから出来ない。
振り切るなら次の曲がり角だ。
次第に大通りの十字路が近づいてきて。今だ!俺は剣のトリガーを引き蛇腹剣の状態にして近くの民家の壁に剣の先を突き刺す。そしてそのまま前進して曲がり角に走り続ける。ピンと剣に引っ張られて、勢いを殺さずに曲がることに成功する。
追うように水流も曲がるがこれで完全に向こうから死角になるその瞬間を逃さずにコイツを撒く、俺は剣を離さずにそのまま曲がり続けて建物の間に入り込む。俺が建物の隙間に入り込んだのとほぼ同じタイミングに水流がすぐそこを通っていく
「・・・せーふ」
少し様子を伺ったが追いかけてくる気配はない。少しの休息する為に壁にもたれて一息つく
とりあえずうまくいって良かった。次は見つからないように近づいて仕留めれば終わりだ。
そう思い短い休息終えて壁から体を離し、剣を振るい引っ掛かりを外して剣に戻してから走り出す。飛行装置を使いたいところだが、ここの通路は少し狭く体がぶつかりそうになるからやめておこう。建物の間を駆け抜けてなるべく目立たないようにしつつも急いで奴の所に向かう。今の所水流が動いたりしている様子もない
このまま近づけられれば良かったが、やはりそう簡単にはいかないようだ。水流の途中の部分が動き出し体を横に動かし始めた。邪魔で見えない物を残らず薙ぎ払って見つけるつもりだろうからここで上に上がるわけにもいかない水流に触らないように同じ方向に走り出す。走りながら飛行装置を再び起動して浮遊する。今は逃げ切れてはいるがこのままいくと地上で迎撃中のセラとアイビーちゃんに直撃する
「・・・しかたないっスね」
覚悟を決めて上昇を開始する。建物の高さを超えるとさっきまで地面を削りながら進んでいた水流が動きを変えてこっちに向かって一直線に向かってくるのが見える。
「そうっスね、そうなるっスよね・・・・」
オバーヒートしない程度に少しだけ装置の出力を上げて奴目掛けて飛ぶ。水流の先端はまだ後方にある。このままいけば向こうが追い付くよりも早く一撃を与えられる。
そのまま後ろを見ずに進んでいると、一瞬悪寒が走る。すぐさまロールしながら急降下すると、頭のすぐ上を何かが掠めた。それはさっきまでの水流よりも一回り小さい水流だった。
「・・・あぁ」
あまり合っててほしくない考えを確認する為に後ろを見る。先ほどまで一つだった水流は八つに分裂していてその内の一本が攻撃してきたのだ。
「マジっスか・・・」
その言葉を待っていたかのように残りの七つの水流が襲い掛かってきた。なるべく囲まれないように大きく動きながら八つの動きを見極める。途中で剣を伸ばして当ててみたが、すり抜けるだけで効果はなかった。しかしすり抜けるときに結構な衝撃が剣を通して伝わってきたので水流のミキサー機能は健在なのだろう。
今の所捕まってはいないが、近づけてもいないから良くもなっていない。何か突破する手段を見つけないと、回避の合間に探していると一つ見つけた。
あれに賭けるしかないっスかね。懐からグレネードを取り出して握りしめる。
躊躇う暇もないのでそこ目掛けて急降下する。水流も追いかけてくるが落下速度に任せて加速しているのに対して、向こうは八本の同時操作をしながら動かしているし操っているのが水だから、重力に任せようとすると水が散ってしまうから落ちるときも操作を続けなくてはならない。そのせいで思ったよりスピードが出ていないようだ。
目的地までもうすぐといった所でチラりと後ろを見ると、八つあった内の七本が消滅していて残った一本が速度を上げて追いかけてきていた。同時操作を辞めて一本に集中することでスピードを上げたようだだ。それでも想定内だ。グレネードの安全ピンを抜いて水流目掛けて放る。水流に飲み込まれたグレネードは爆発して水流を吹っ飛ばす。規模が小さくなっている分吹っ飛ばしやすくなっているからグレネードでも十分に通用する。そして吹っ飛ばした分だけ距離を詰められる。そのまま俺は最初に水流が地面に突撃した時に出来た穴に飛び込む
彼を追うように水を動かして、彼が入った穴に突っ込ませます。壁に穴を掘ってやり過ごす可能性もあるから、なるべく中で暴れさせながら穴を通りぬけさせて水を出します。水が出る前に脱出しなかったので仕留めたと思うのですが油断は禁物です。もう一度同じ魔法を発動させて穴に突っ込ませます。
先ほどよりも大きな穴が開いて土砂を飲み込みながら水が出てきました。これで多分大丈夫だと思うので次の場所に向かわなければ、そう思って飛行魔法を発動させようとしましたが、うまく発動出来ずに地面に膝をついてしまいました。どうやら指輪に込められた魔力の分も使い果たしてしまったようです。
「これは少し魔力が溜まるまで休憩しないといけないわね」
そう言いながら膝をはたきながら立ち上がりました。
「やっぱりもう魔法は使えない様っスね」
後ろから声が聞こえて振り返ろうとしましたが、その前に首を絞められてしまい離れてもらおうとして首を絞めている腕をはがそうともがきましたが、うまく力が入らずにどうすることも出来ずに意識を失いました。




