氷漬け
新しく乱入してきた敵は10人、転生者達を合わせて目の前にいる敵は全員で12人だ。
正直全員の相手は結構キツイ
オリュンポス帝国の時は空を飛ぶことが無かったから何とか相手をすることが出来たが、今回は空を飛んでいるので少し相手をしにくい。
それにユッカが苦戦しているのなら二人で戦ったとしてもきつそうだ。
転生者抜きで考えればいけるが転生者が一番のネックだな
ここはこの手だな。
「逃げるぞユッカ」
私はグレネード弾を撃ってから後ろに空いている穴に飛び込んで逃げる。後ろを見ると私のすぐ後ろをユッカが走り、更に後ろから先ほどの人達が追いかけてきている。この建物の見取り図は元々転移先だったから頭に入っているが、外見や中から様子を見るに戦闘があったらしく所々にひびが入っていたり壁が崩れている。もしかしたら通路が封鎖されている可能性もあるな。
「どうするっスか?」
一本道の廊下を走りながらユッカが後ろから聞いてくる。
「まずは時間稼ぎだ」
私は催涙手榴弾を取り出してピンを抜き後ろに向けて投げる。
少しして何かが噴き出す音がした後に悲鳴が聞こえてきたのでどうやら無事に引っ掛かったようだ。あそこは窓の無い密閉空間、換気をすることは出来ず催涙ガスで詠唱に集中できないので自然にガスが散るのを待つしかない。
ガスマスクを持ってこなかったのを悔やまれる。
今のうちに距離を離して身を隠すことにしよう。私達はそのまま廊下を走り抜けて下の階に移動しながらアイビーに連絡をする。
「アイビー聞こえるか?」
『隊長どうしました?今ナギさんに会えたのでそちらに行こうかと思いましたが』
「転生者の下に援軍が来すぎたから一時身を隠している。そちらに一度合流したいから場所を教えて欲しい」
『それは大丈夫ですが、私達が動いた方がいいのではないですか?』
「いや、そっちは人数が大きいから動く人数は少ない方がいい」
『了解しました。場所は・・・』
アイビーの報告を聞いた後に移動を再開する。
「それで敵に逃げられたのか?」
『・・・はい申し訳ありません。突然筒から煙が出たのかと思いましたら目から涙が止まらなくなりまして風魔法を発動できるほど意識を集中できず、煙が晴れる頃には敵の姿はありませんでした』
俺は少し咳をしてから応答する。
「仕方ない。この建物内にいることは確かだから手分けして探すんだ。外にいる他の部隊は外から俺たち以外の誰かが出てきてないか見周りをするんだ」
念話を切れたのを確認した後に副隊長であり婚約者でもあるクレアの方を見る。
「どうして敵をすぐに倒さなかったんだ?」
「それは・・・まだ話し合えるかと思いまして」
俺は頭を掻きながらため息をつく
最初は誰にでも平等に接する性格に惹かれて求婚をしたので、そこに関して文句はないが戦いにおいては少し足を引っ張ってしまっている。
「だが、奴らは俺を殺しに来ている。もし俺が殺されたとしても話し合うのか?」
それにもう話し合いなど不可能だ。こちらは既に交渉員を殺している
「それは・・・」
言葉に詰まるクレアの目を見て言う
「クレアの言いたいことは分かる。しかしそれは戦う前に行うべきことであって戦っている今はもうするべきことではないんだよ」
「・・・はい」
納得してないような顔をしながら頷くクレアにもう少し言おうとした時に念話が入った。
『ウルト様、第二部隊です』
「どうした?」
『目標を発見したのでご報告を、目標は建物の食堂に立てこもっている様子です』
食堂は確かこの城の一階の最奥に位置していたはず、待ち伏せか?
「向こうから何か動きはあるか?」
『いえ扉は少し開けてこちらの様子が見れるようになっています。これ以上近づくと攻撃される恐れがあるので、これ以上の情報はありません』
「了解した」
念話は切らずに考える。
多分待ち伏せか作戦会議をしているかのどちらかかと思う
この場合は隙を与えずに攻撃した方がいいが、喉をさすりながらあの二人の攻撃を思い出す。魔法などを一切使わずに俺が生まれ変わる前の世界の武器だけを使って俺を圧倒し殺される直前まで追い詰められた。
もしこれが罠だった場合俺は対処できるのだろうか・・・
しかし部隊員だけを送ってしまって失敗してしまった場合は戦力の低下を招いてしまう。あの部隊が後れを取るなど考えたくないが俺を追い詰めるほどの実力を持っているなら可能だろう。
どちらにしても損害は免れない・・・別の手はないものか・・・
・・・そうだ
「第二部隊、扉に向かって氷魔法を放って扉を封じ込めろ」
『そうだ。城の中にいる部隊も食堂に向かって扉を封じ込めろ!』
確かあの食堂は出入り口が二か所しかなく、窓もない部屋だったはずだ。そこに閉じ込めてしまえば奴らは出る術を無くして部屋から出れなくなる。
「そこに閉じ籠りたいのなら手伝ってやるよ」
俺は地面から浮かび上がる
「クレアは外の部隊と合流して待機しててくれ」
「・・・わかりました」
クレアが飛び上がって外に向かうのを確認して食堂に向かう。
『ウルト様向こうからの反撃がすさまじく、中々攻撃できません!!』
向こうから悲鳴に近い報告が聞こえる。
「それでも!だ。今を逃せば勝ちの目がなくなる!!」
食堂に近づくにつれて、爆発音と何かを発射しているような音が大きくなってくる
「ウルト様」
食堂前の廊下にたどり着くと第二部隊の隊長が俺に気が付き寄ってくる。
「状況は?」
「厳しい状態です。現在私達第二部隊と第三、第四部隊で扉の封鎖を試みていますが敵の抵抗が激しく難航しています」
そう言っている間にも扉の隙間から銃口や明らかにロック〇ンっぽい武器が見えてはっしゃしまくっている。
「分かった俺も参加する」
そう言って手に魔法を込める。すると突然攻撃がこちらに集中しだした。
「クソ!」
俺はまだ精製途中の氷塊を発射する。扉に向けて勢いよく放たれた氷塊は銃撃の集中砲火を食らって次第に小さくなっていき最後にはロック〇ンっぽい武器から放たれたビーム?に粉砕された。しかしこれで突破方法が出来る。
「今のを続けるぞ」
そう言ってもう一度魔力を手のひらに集めて氷塊を作り出す。
「了解しました」
隊長は頷いて各隊に指示をして扉に氷塊をぶつけ続ける
俺に攻撃を集中すれば他の隊の攻撃が扉を封じ、他の隊の攻撃に対処すれば俺の攻撃が当たる。
次第に対処しきれなくなっているらしく、少しづつ扉が凍り付いていき最後には完全に扉が氷ついた。
「や、やった」
誰かがそう言ったのを皮切りに攻撃を止めた者が出てきたが
「攻撃の手を緩めるな!」
俺は一喝する。
「あの程度の薄っぺらい氷の膜など奴らはたやすくぶち破る!まだ氷の膜を厚くしろ!」
その声にこたえるように向こうからくぐもった音がして氷にひびが入り始めた。
それを見た全員が再び一心不乱に扉に氷塊をぶつけ続けた。
しばらくして扉と廊下に面した壁までも氷に覆われて完全に沈黙した




