鎌は誰に届くのか?
「アイビーは攻撃に参加せずに先ほど言った通りに行動開始してくれ」
前方であっけにとられている転移者を見ながら、私は振り向かずにアイビーに向かってインカムに小声で話しかける。
本当ならもう少し戦って確認した後に行かせる予定だったが先ほどの行動からして裏付けが完了した。
『了解しました』
そうアイビーの声が聞こえた直後に後ろからこの部屋から外に走って外に出る音がした。
「!待て」
そう言って追いかけようとする転生者の前に立ちふさがる。見た所やたら宝石や金属が散りばめられた。あまり趣味がいいと思えないようなローブに身を包んでいる。
「行かせるとでも?」
そう言って地面を蹴って転生者に近づいて刀を抜きながら切りかかる。
先ほどまで呆けていた転生者だが流石に接近すれば気が付いたようで回避が間に合わないのを理解して防御しようと腕をクロスさせた。しかし私は気にせずに刀を振りぬいていく。
ガキィ!と明らかに刀と服がぶつかった時に発生するとは思えないような高い音を出しながら服が刀を受け止めた。
しかし勢いを殺しきれるわけもなく、そのまま吹き飛ばせるかと思ったが転移者は強引に腕を振り上げて刀を上に受け流したので私も腕を振り上げた状態になってしまう。
「アイシクルショット!」
振り上げた右手を正面に戻して転生者が氷の塊を至近距離で右手から撃ちだした。
上着の魔法耐性で貫かれることはないが、それでも全くの無傷とはいかずに氷の塊が当たった衝撃が体に響く。
体に鈍く走る痛みに耐えながら後ろに跳びながら下がり刀から手を離して、背中に背負っている銃に持ちなおして構えてから撃ち始める。
あちらの氷魔法よりは威力がないが、重要なのは数と重みだ。
向こうは回避を試みているが銃弾を全て回避することは出来ずに一発が左肩に直撃する
一発でも直撃すれば少なからず動きが鈍るので、次々と銃弾が転生者に当たって少しずつ転生者が後ろに下がっているが、向こうの服が傷ついたり破ける様子もなく銃弾の着弾の衝撃で少しづつ後ろに下がっているだけだ。
流石にこの程度では損傷は与えられないのは知っていたが、少しくらい傷ついてくれないかなと思っていたが、まぁそうなるよな。
そう思っていると銃が残弾をすべて撃ち尽くしたらしく銃声が止み腕に伝わっていた反動も無くなった。
まだ弾切れのタイミングがつかめないな。この後も少し使い続けてみた方がいいかも知れない。
転移者は好機とみて先ほどよりも大きな氷の塊を生み出そうとしているが、残念だったな。
私は素早く銃を操作して再び引き金を引く
先ほどの銃弾が発射されていた銃口のすぐ上にある銃口からグレネード弾が発射される。
この銃の特徴は室長も言っていたが普通のライフルとグレネードランチャーを合体させたことだ。これによりどちらかの銃が撃ち尽くしたとしても、もう一方の銃で撃つことができる。
放たれたグレネード弾は氷の塊に当たり、大きな爆発音とともに氷の塊を砕き、爆炎と共に煙が辺りを包み込んだ。
私はリロードをせずに銃を背負って地面に置いた刀を持って接近する。爆炎で見えないならば、接近からの不意打ちが有効だ。
「ウィンドカット!」
私が走り出すとほぼ同時に放たれた風魔法の刃が無差別に放たれて煙を晴らしていく。おかげでこちらの姿は丸見え。さらに爆風による衝撃で思ったよりも後ろに吹っ飛んでいたから距離が離れて私の攻撃よりも向こうの風魔法が先に届いてしまっている。
風の刃が向こうの指の動きに合わせて再び生み出されてこちらに向かってくる。
最初は煙を晴らすために無差別に攻撃をしていたが、煙が晴れてからは明らかにこちらを狙っている。
先ほどの氷の塊を飛ばす魔法よりも攻撃範囲が狭まっているが、その分横に魔法が伸びているし見えないのが面倒な所だ。魔法発動時に指をなぞる動きをしているので攻撃のタイミングは分かる。だが回避できるわけではないし今は転移者の方に向かって突撃中だから回避しきれないな。
上着で防ぎきれない足が狙われて太ももを切られた。
間髪入れずに撃ちだされる風の刃に頬や太ももを切り裂かれていく。回避しようと足を踏み出そうとしたが、傷口からの痛みと同時に足に付いた傷とほぼ同じところに攻撃を受けてしまい傷口をえぐる痛みに耐えられなくなり思わず膝をついてしまった。
その隙を逃すまいと次々と転移者の放つ魔法が体を切り裂いていく。
上着の魔法耐性も少しづつ剥がされてきて上着に傷が出来てきた。
勝ち誇った様な顔を転移者がしている。
実際かなり不利だ。少し前は私が有利に動いていたが今は向こうが有利、このままでは私は風に引き裂かれて死んでしまうかもしれない。
だが誰か忘れていないだろうか?
「・・・ッシ」
完全に気配を消して死角からユッカがゼロ距離リボルバー射撃を行って転移者の頭は大きくのけぞった。
天井ぶち抜いて着地してから一切話さなかったし攻撃にも参加せずに空気になっていたから奇襲を狙っていたのは分かっていたが、もう少し早く奇襲してくれなかったのだろうか?
ユッカが攻撃してくれている今のうちに銃を取り出してリロードを行ってライフル部分の弾込めを終えて立ち上がる。
痛みはあるが先ほどのようなことが起きなければ問題ない
私は少しジャンプして痛みの度合いを確認してから攻撃をしているユッカの方を見る。
加勢するにもタイミングが必要だ。邪魔にならないタイミングで入らないと追い詰めても抜け出されてしまうかもしれない
ユッカのリボルバーのゼロ距離を食らった転生者は体勢を大きく崩したがそのまま側転すると同時に手をついていた床に向かって魔法を放って床を凍らせていた。
これなら空を飛ばない限りは接近されることもなく自分は空を飛べるので効かないと言うことだ。ユッカならジャンプして一足で接近することも可能だが着地の時はどうしても氷の床に着地することになってしまうので動けないでいる。
ここだな
私は銃を再び構えてグレネード弾を転生者の真下を狙って撃つ。ここの部屋はそれほど高くないのに加えて、すぐに移動できる方向を多くするために少しの高さしか浮かんでいなかったのでグレネード弾はほぼ直撃に近い形になった。
間髪入れずにライフルに切り替えて煙で見えないが、あたりを付けて撃つ。そこにユッカが飛行装置を発動させて加速したドロップキックを放つのが見えたので煙に入る直前で撃つのをやめる。ユッカに当たってしまうかもしれないからな。
「グア!」
声が聞こえてユッカのドロップキックを食らった転生者が吹き飛んで壁にめり込む。ユッカはそのまま蹴りが当たる瞬間に膝を曲げて当たったと同時に膝を伸ばしたことによって転生者を吹き飛ばすと同時に自分はサマーソルトして着地をしていた
私はライフルに切り替えて射撃をしながら近づいていく。たとえ傷かつかないとしても衝撃が伝わるのは先ほどの攻撃から分かっているので着弾の衝撃を与えつつ近づく。
ユッカも詠唱をさせないためにリボルバーで顔を狙っている。
そうして身動きできないようにして十分に近づいた瞬間にライフルの銃口を口に突っ込んで呪文を封じて片足でお腹を蹴り込んで動かないように固定しつつ空気を押し出す。
あとはこのまま引き金を引くだけだ。装備の効果が内臓まで及んでいるのか分からないが着弾の衝撃が伝わる以上喉を直接撃たれながら呼吸など出来るわけがないのでこのまま窒息死して仕事が完了する。
「これで終わりだ」
そう言って銃の引き金を引こうとした時だ。
「アクアサイズ!!」
瞬間、声の方向に銃を向けたが、その時にはもう遅かった。発動した水の刃が私の左肩から右の脇腹までを切り裂いた。




