考えの違い
時間が欲しい。
一般人が抵抗する。大抵の世界で必ずと言っていいほど起きることだ。どの世界でも彼らが心酔している転移者達がただ殺されるのを見ているわけがない。必ず抵抗する。そして大体それは障害にならない。少し時間はかかるが確実に無力化することが出来る。しなくてはいけない。
放っておくと転移者と合流したりして面倒なことになるからだ。その前に気絶させて、意識を失っている内に転移者を殺す。それが正確で確実な手順だ。
しかし今回の仕事は規模が規模だ。一世界の一般人を殺しきってから転移者達を殺してからでは転移者達に逃げられる。だからこそ転移者達の処理と一般人の殺害を並行して行うと上は決めた。
その決定に異議はない。そして転移者を確実に殺すために一般人から殺すことになった。その為に転移者の本拠地よりも一般人の殺害人員を優先的に増やした。
一般人を殺しきってから転移者達に集中する為に
だから一般人の抵抗が一斉に厳しくなったとの報告を聞いた時は少し驚いた。
続く報告では、この世界の一般人ほぼ全員が鎧のような物を装着して転移者達と遜色ない力を振るっているらしい。
簡単に考えても転移者の数が増えたのだ。それも百や二百倍で比べられる数ではない。数百人前後の転移者達に対して一般人は数十億考えるのも億劫になる。
面倒だ。
「どうだ!お前たちが戦っているのは俺達だけは無い!この世界全てだ」
状況が変化したのを理解しているのか相対している転移者が得意げに胸を張り私に話し掛ける。
確かに一般人が強くなったのは少し驚いた。とはいえ想定外ではない。可能性としては考えられていた。一人で国全体の軍事力を高めることが可能な転移者が数百人いるのだ。今までにやってないこと、今まで一人でやった事の数百倍の規模の事を起こす確信があった。そしてそれを予測していない私達ではない。
「それがどうした」
「……は?」
「その程度かと言っている」
無論対策は用意しているし既に実行済みだ。
「……はぁ、お前自分が置かれている状況が分かってないわけ?お前の味方は増援にビビッて上に下がっている。離れても追いかけることが出来るのに無駄なことだ。見ろ!流れは完全に俺達に来てんだよ。諦めろよ!」
「……」
完全に自分たちの勝ちを確信している顔だ。反論したいところだが、もう少し話させてみよう。こういう時は転移者が機密とかバンバン話してくれるのでありがたい。
「やっと国同士が協力して世界が一つになったところなんだ。争いも飢えも孤独も寂しさもない完全に平和な世界が実現したんだ。なのに何でこう余計な事をするんだ。分かるか?もうここは俺達の場所だ。お前らに世話になるほど俺達は赤ん坊じゃない。もう一人で立てるんだ。だからもうお前らはいらない。だから出て行け」
一方的にまくし立てる転移者の言い分は随分身勝手な事だった。
「争いも飢えも孤独も寂しさもない平和な世界?」
「そうだ。一人寂しく逝くことも、分かり合えず涙することも、幸福を夢見ながら冷たい土壌で眠ることのない平和な世界だ。俺達が叶えた!俺達が実現した!何もせず自分の都合の悪い時しか介入しないお前らとは違う!!」
そう言う転移者の手は力強く握られ血が出ている。それだけ彼は本気と言うことだろう。この世界に対して奴なりに努力した末の世界というわけだ。
だからこそ言わなくてはいけない。
「ふざけるな。世界は貴様らに介護されるほど弱くはない」
「なんだと?」
「世界は強く素晴らしい。貴様らの助けなくとも、この世界は発展を続ける素晴らしい世界だった。それを貴様らが壊したのだ。」
「だが、俺達がいなければこの世界はもっとたくさんの血が流れていた。俺達のお陰で争いのない世界になったんだ」
「たわけ、人は争うことで発展する生き物だ。魔法技術もインターネットもコンピューターも様々な世界における様々な物が争いや戦争のお陰で生まれ発展した。それが起きない平和な世界?それは文化が停滞した世界だ。人は素晴らしい生き物だ。人は歩む生き物だ。その歩みを止めるのは許さない。それは発展の無い停滞した最悪の世界だ。私達はそれを許さない」
「お、お前らは戦いを肯定するのか!平和な世界を否定するのか!」
「そうだ」
無論ある程度発展すれば争いや戦争が無くても人の世界は目まぐるしく発展する。それならば戦争は必要ない。だが、この世界はまだ発展途中、まだ争いが必要な世界だ。なのに転移者は一足飛びに歩みを止めさせた。許されない。この国、この世界はここで一旦終わりだが、それでも、それでも、転移者が来るまで発展したこの世界は素晴らしかった。
「世界のため一人寂しく逝け、分かり合えず涙しろ、幸福を夢見ながら冷たい土壌で眠れ。それが嫌なら努力しろ。転移者なんぞに頼らずに自分の力で解決しろ。隣で見送ってくれる人を探せ、分かり合う努力を止めるな、幸福を掴み取るために足掻き続けろ。願うだけ諦めるだけなら誰だってできる。それを諦めず進み続けるのが人の素晴らしいところだ。それを止め、思考をなくし、堕落させ、発展を止める貴様ら転移者。貴様らが止めなければこの世界は素晴らしかった。素晴らしかったのだ。それを貴様らが止めた。止めた。止めてしまったのだ」
文化が止まり凌辱され汚染される。違いこそが美点だったのに、皆等しく同じものに揃えられる。転移者を出すものこそが至高であり、それ以外は劣化品となってしまう。
その世界の中で何千年と積み上げた人の歴史の中で作られた文化が簡単に壊され、ぽっと出の文化に取って代わられる。当人たちはいいのかもしれない。不便な今までより便利な今を取りたくなるのは理解できる。だが、あの程度この世界でもいずれ超えることが出来たんだ。
方法、様式、は違うかもしれないが劣化品とは言わせない物が作れたんだ。違うからこそ個性があり歴史が感じられる。
皆違ってみんないいのだ。
だからその文化を踏み潰す転移者を私達は許さない。殺すのだ。神の力の拡散、文化の汚染、発展の停滞。これらを止める為に私達は転移者を殺す。等しく平等に私達が殺す。
「ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるな!!!戦争なんてない方が良いんだ!!平和な方が良いんだ!!戦争を肯定するな!!この偽善者め!!」
「偽善で結構、もとより貴様らの理解など求めていない。それにもう決着がつく」
作戦開始から30分経過、既に勝利のカギは私達の手の中だ。
「なに?」
「この戦争、私達の勝ちはもう決まっている」




