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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case8 世界樹十全に枯らす
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転移室にて対Sランク装備

 あれから時は流れて作戦当日、いつもの転移課に私達はいます。ただいつもと違うのは転移課に入っている人数、転移をした場合一度に転移できる場所は同じ世界になってしまうので他の人と一緒に転移するような事は今ままでなかったです。それが今回同じ人たちが同じ世界に転移するので沢山の人達が同じ部屋に集まっています。皆さん顔見知りなのかとても緩やかに雑談に花を咲かせています。

 隊長達も知り合いに挨拶すると言ってどこかに行ってしまいました。一人残された私は何かするわけでもなく一人作戦内容を反芻します。


 隊長から作戦内容は聞きました。ユグドラシルの殲滅作戦、一見すると話に聞く要注意組織ユグドラシルの殲滅だけかと思っていました。しかし、内容は少し違いました。ユグドラシル構成員の殲滅は間違っていませんが、殲滅対象はユグドラシル構成員のみではなく現地に住む一般人、老若男女問わずその世界に生きている人、そのすべてが抹殺対象に指定されています。


 私はどうして一般人も対象なのですかと隊長に問いかけました。今までの仕事ではフレアさん達のような一般人は殺害対象外、こちらに襲い掛かっても殺害以外の無力化と決められていました。なのに何で今回は殺すのかと。


 隊長の答えはこうです。あの世界は汚染され過ぎた。神の力は本来別の何か、物体や魔力へと変換されてから使用されるものだ。今まで違法に転移や転生をしている奴らは神の力をダイレクトに注がれもしくは神の一部を移植して生き返らせている。転移者や転移者は無意識に力を行使して神の力を変換して行使している。だが、いくら改造され神の身に近づこうと所詮は人の身、神の力を完全に抑えることは出来ない。毎日少量ながら少しずつ神の力は周囲に漏れる。それによる周囲への汚染、まだ汚染された期間が短い物であるなら、また天性の才能として神の力への耐性を獲得している者はまだ転移者から引き離せば助かることもある。


 だが、長期間の汚染は私達ではどうにもならない。神の力に汚染されたまま死ねば汚染は大地に広がりやがて世界を滅ぼす。良薬も量を間違えれば猛毒となるのだ。世界を作り維持するのに必要な神の力も手段と方法を間違えればただの害悪物質になり下がる。


 そこまで行けばもはや私達の手で治すことは叶わない。その結果として世界をリセット作り直す。ただし神の力に汚染された人たちが残った状態でリセットすれば次の世界に汚染が強く残った状態で世界が作られてしまう。汚染が残ればせっかく新しく作り直した世界もすぐに滅んでしまう。それを防ぐために私達が現地の人たちを皆殺しにし持ち帰り、一旦『ソ』へと戻す。殺すのは抵抗される。状況的に転移者や転生者に対して狂信に近い信頼を持っているだろう現地の人たちを言葉だけで納得させるのは不可能です。だから皆殺しにする。


 ついでにユグドラシル構成員も皆殺し、大本の神も皆殺しにする。それがユグドラシルで実行される作戦の内容です。ただし調査課の人達が調べた限り、ユグドラシルの本拠地には強力なバリアが張られているため、バリアを破るフェーズワンを始めいくつかのフェーズに別れて作戦が進行するみたいです。

私としてはあまり乗り気ではありません。転移者や転生者は仕方ないとしても一般人まで皆殺しにするのは可愛そうな気がします。

とはいえ、仕事は仕事若干嫌ではありますが仕事はちゃんとします。


「緊張していますか?」


 今までの経緯を思い返していると挨拶が終わって戻ってきたナギさんが声をかけてくれます。恰好はいつもの恰好とも仕事の時の恰好とも少し違います。機械的な白い鎧、全身甲冑というまでにはいきませんが体の各所を守るように配置されているソレは防御的な物というより何かと通信するための機材のようなそんな感じがします。かくいう私も同じような物を背負っています。バッグパックのように大きな物体の脇にライフルがアームを経由してバックパックにくっついています。必要に応じてアームが伸び縮みしてライフルを構えてくれます。


 そして背中だけではなく頭にはゴーグルのような物がくっついています。これは戦闘時に被ることでサーマル、赤外線、動体検知等ありとあらゆる索敵方法で目標を検知してくれる優れものです。


「少し、ナギさんは平気なんですか?」

「今回のようなのは大規模作戦は余りありませんが、だてに寿命が無いだけあって誰かと何かしら関係はあります。ここにいる6割ほどの方が創造課にいた頃に知り合った人達なのでそれほど緊張していません」


 そう言えばナギさんは元創造課の人でした。そうなると知っている人が多そうなのに一番早く戻ってきました。


「とはいえ、アイビーさんは造られてからそれほど経っていませんし緊張するのも無理は無いかと、しかし作戦時にはしっかりしてくださいね。後輩がメンバーの死なんて経験したくないので」


 笑いにくい冗談です。でも実際に気を付けないと起こりそうなのが怖いところです。


「気を付けます」

「ええ、私はもう少し歩いて話してきます。作戦時間には戻りますので」

「はい」


 ナギさんと別れて少し歩くと隊長がペットボトル片手に辺りをキョロキョロしながらこっちに歩いてくるのが見えました。


「隊長、どうかしたんですか?」

「アイビー、丁度いいところに探していたんだ」

「私ですか?」


 どうやら隊長は私を探していた様です。


「ああ、これを渡そうと思ってな」


 そう言って服の内ポケットから折りたたまれた紙を取り出して渡してきました。


「これは?」

「それは、創造課が数量生産している薬だ。飲めば人を殺す事への忌避感、罪悪感、グロテスクな物を見た時の嫌悪感などが大幅に軽減される代物だ」

「え、それって結構ヤバイものじゃ?」


 ギョっとして隊長を見ます。私そう言うのはまだ、というか一生関わりたくないのですが……


「いや、依存性や毒素は限りなく減らしているから廃人になるような事にはならない。第一、一度使えば廃人になるような薬を渡すわけないだろう」

「そ、そうですね。それでそんな薬を何で私に?」

「いやなに、一般人を殺すことは抵抗があるのだろう?これを使えば楽に抵抗感をなくすからな。無論、使わないというなら別にいいが」

「は、はぁ、でもこんなものがあるなら初めから使えばよかったのではないですか?」


 こんな楽な物があるなら、私はフレアさんの時に苦悩しませんでしたし、最初に転移者を撃った時に緊張せずに済みました。今思えばどれも私の中で大事な事ではありますが、それでも傷が消えたと言えばウソになります。いつかは謝りに行きたいと今でも思っています。

そんな私の気持ちを察してか隊長は重苦しい表情で首を振ります。


「先ほど依存性は無いと言ったが生きている者は楽な方に行きたくなるからな。万が一これが製造できなくなった時に仕事が出来なくなるわけにはいかない、道具はあくまで人に使われる物であって人が使われるものではないからな」


 人に銃口を向け、スライドを引いて、引き金を引くのは自分自身であるべき。それを全て機械に任してしまうのなら最初から機械に任してしまえばいい。しかし、それをしないのはひとえに転移者への最後の慈悲だと隊長は言います。勝手に殺され、知らぬままに決まりを犯し、納得できない死を迎える。


 状況だけ見ればある意味転移者達も被害者である。とはいえ、私達が手を抜くわけにも殺さないわけにはいかない。それをすれば私達は上から裏切り行為と認定され交渉課行になる。

だから私達の手で終わらせる。その時に持っている感情がどのようなものであれ、機械ではなく私達が殺すことでせめて人の手で終わらせてあげる。本人が望んでいなかったとしても恨まれようと殺す。それが私達の仕事だから


「まぁ、全員が同じ気持ちであるかと言われれば怪しいところではある。一部は完全に憎悪のみで殺していたりする。とはいえ、人の手で殺すことで彼らは人として死ねる。異常な力を持つ化け物でもなく、万能を統べる神でもなく、異世界に存在しない外来種、一般的な世界に生きていた、ただの人として殺す。それが私達の最後の慈悲だ」


 重いですね。私達の仕事にそんな意味があったんですね


「とはいえ、他人と自分を比べたら、当然自分が大事だ。辛さを我慢する為に自分を殺すのはあまりお勧めしない。だからその薬を渡したのだ」

「ありがとうございます。でも、もう少し我慢して見ます」

「そうか、無理をしないうちに服用するのを進める」

「はい」


『フェーズ3以降まで残り20分各員装備の最終チェックを開始してください』


 インカム、いえゴーグルから聞こえる音声が私達の出番が近づいてきている事を教えてくれます。


「そろそろか、アイビー準備をしておけ」

「了解です」


 私の返事を聞いた後に装備のシステムを起動しながら去って行く隊長を見つつ頭の上に被っていたゴーグルを下げて目を覆う。使い方は訓練で一通り教わったので間違いはないです。ゴーグルが私の視界を認識それに合った調整を開始する。プログラムが立ち上がり、各装備のチェックが自動音声と共に開始する。

『WEシステム起動及び動作                正常

 対S級ライフル フィナーレ起動及び動作        正常

 ライフルとシステムの同期              正常

 追尾式指向性核ミサイルポッド            正常

 迎撃用ミサイルポッド及びレーザー・ファランクス2基  正常

 レーザーガン動作及びバッテリー           正常

 指向性空間動作システム               正常

 空間固定システム                  正常

 生命維持システム                  正常



システム ALL GREEN

Whole Extermination system 起動します。

こんにちはマスター、WEシステム正常に起動、落ち着いて目標を殲滅してください』


 械的な音声と共にシステムが起動し軽い動作チェックもかねて装備のがパかパカと動き出します。このAIは以前隊長のお見舞いに行った時に見かけたロボットのAIをベースに戦闘用に改造されています。それが全員の装備にインストールしてあり全員の視界や位置などのデータをAI内で共有し死角からの攻撃を防ぐのと同時に迎撃用の装備で牽制や優先して排除すべき目標のマーキングなど戦闘をサポートしてくれます。

因みにこのAIにはナンバリングが施されていてそれが名前として登録されています。私のはC-6250、最初の三文字からクルツです。


「こんにちはクルツさん、今日は宜しくお願いしますね」

『クルツで構いませんよ。動作チェック異常ナシ、対Sランク用装備一式「アーミタス」正常に起動しました』

「作戦の再確認を」

『はい、本作戦は大きく5つのフェーズに別れています。フェーズ1はユグドラシル本拠地に張られたバリアを超次元爆縮照射砲[ツァーリ・カノーネ]により破壊、フェーズ2バリアを無効化と同時に殺神隊が突入、元凶の神への粛清を開始、同時に世界の管理権を奪取します。フェーズ3、私達全5万の小隊が一斉に転移、内4万が一般人の殺害を残りの1万がユグドラシルへの攻撃を開始します。フェーズ4、フェーズ3開始直後に裏工作部隊10がユグドラシルの建物内にランダムに転移、ユグドラシルが開発、発明した物品を全て小型ツァーリ・ボンバで爆破、同時に迎撃に出ずにユグドラシル内に残っていた構成員の抹殺が主な目的です。フェーズ5、該当世界に私達以外の人間を鏖殺。現在はフェーズ2、まもなく3に移行します』


 改めて聞いても中々酷い作戦です。最後に関しては投げっぱなしですし、第一使用兵器が名前からして生かす気がないです。いや皆殺しにするので間違ってはいないのですが、私の武器も二回目の仕事で使用した[オーベルテューレ]の後継兵器の時点で中々ヤバイですし、追尾式指向性核ミサイルにいたっては、追尾して近接信管なので近づけば自動で爆破、さらに指向性機能で対象方向にしか爆破エネルギーが飛んで行かない。しまいにミサイルポッドなので現在ふとももに右左合わせて10門、背中のバックパックの下に5門の計15門、それにバックパック内には迎撃用のマイクロミサイルが収納されて、バックパックの両端には小型のレーザー兵器がマウントされています。

それが全部AIの自動制御で私の意思とは関係なく撃てるようになっていて、その様子は傍から見るとまるでハリネズミになった気分です。

その後は他の位置情報機能やメッセージ機能の確認をしていたら時間が近づいてきました。


『フェーズ3開始まで残り1分、まもなく作戦時間になります。転移室の出入り口をロック』

アナウンスがそう伝えるのと同時に出入り口にシャッターが下り誰もこの部屋から出ることは出来なくなりました。ただ私達は転移するので関係ないですね。シャッターが下りてすぐ今度は床がゆっくりと光始め再びアナウンスが流れ始めます。


『大規模転移術式始動、転移までカウント…………5…………4…………3…………2…………1…………0、転移開始』


 アナウンスの終了と共に光が一層輝いていく。余りの眩しさに思わず目を閉じると何とも言えない浮遊感を感じて転移が始まります。


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