世界樹伐採作戦
「ユグドラシル殲滅任務………か」
渡された資料に一通り目を通した後に呟く。インカムに来た通信の内容、重要な仕事とはいったいどのような仕事かと思っていたらユグドラシル関連の仕事か。ユグドラシルの本拠地は今の今まで特定できていないと記録課の子が愚痴っていたのを少し前に聞いたような気がする。あの時からそれほど日が経っていないがそんなすぐに特定できていなかった組織の本拠地をどうやって特定できたのか疑問に思うが、記録課の確認もお墨付きもあり、ユグドラシルの本拠地だと裏付けも取れている。記録課の情報に間違いも誤植もないから間違いなくユグドラシルの本拠地なのだろう。
「そうだ、前回のユグドラシル殲滅の折貴君の部隊も参加しておっただろう?」
私の出したジュースを飲みながら対面に座る。見た目は壮年の女性、マリーが答える。本当はお茶を出したかったのだが自室にはジュースしかなかった。久しぶりの来客だったので準備が出来なかった。来るのは分かっていたが補充する時間が足りない。
「それはそうだが、あの時私は一隊員だった。今回のような大規模な仕事に隊長としてかかわったことは無いのだが?」
しかも記憶もあいまいだ。私自身当時新人だったこともあり必死過ぎて記憶が無い。その時の経験を生かして欲しいと言われても困る。どちらかというならユッカの方が憶えていると思う。
「謙遜するな。私よりも貴女のあなたの方がキャリアも経験も上だ。そのことを加味すれば本当はこの作戦の大隊長へと任命したいところだ」
苦笑いを浮かべながらマリーは空になったコップにオレンジジュースを注ぐ。壮年の女性がオレンジジュースを真面目な顔をしながら飲む姿は私が原因とは言え中々にシュールといえる。
「すまないが、私は大部隊を率いる器ではない。よくてあと一人か二人を受け入れるくらいだ」
結構前の私なら喜んで快諾しただろうが、あの時のような気持ちはもはやこれぽっちも残っていない。私だって痛い目嫌というほど見ればへこたれる。
「…………こうだ、まったく謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ」
「…………」
そうは言われても私はもうこの部隊の隊長以上の役職を持つつもりはない。私も結構へこたれているのだ。
「わかっている。だが、仕事には参加してもらうぞ」
「分かっている」
「よし、では――――」
「その前に2.3点質問していいか?」
マリーの言葉を遮りながら指を立てる。内容は理解した。話も分かった。だがそれでも確認したいことはある。上の言うことを詳しく聞かず聞きたいことを聞かずに行動する能無しではない。
「何だ?」
ジュースのおかわりを注ぎながらマリーが問い返す。それ何杯目だ?そろそろ冷蔵庫に仕舞っている分のオレンジジュースが無くなりそうな勢いなのだが?
「どうやって、本拠地を特定したんだ?確かユグドラシル構成員らしき人物の追跡調査は難航していると聞いたのだが」
転移者達は本拠地からの移動や帰還にはいくつもの世界を経由して移動しているせいで特定できていないと聞いていた。記録課の記録はなんでも記録しているが膨大な一つの世界の記録の中から該当の記録を探して、やっと見つけたと思ったら1,2行で別の記録課所へ移動している。それを何十も繰り返す。検索機能があっても終わりが見えない。そのようなわけで本拠地の特定が難航していたはずだ。
「それは、貴女が殺しかけた転移者、正義だったか?そいつが他の構成員とは違い本拠地から直で貴女が仕事でいた世界に転移していたからだおかげで簡単に特定することが出来た」
あの転移者それほどまでに阿呆だったのか、馬鹿正直なのも考え物だな。何にせよおかげで本拠地が特定できたと言うことか、阿呆に感謝だな。記録課による捜索の際、転移者の転移先を探している途中に不自然なほどに記録が飛んでいる箇所を確認、現地を偵察して発見、そういう流れで発見した。
「なるほど、では二点目だ。装備については問題ないが総勢で何部隊が参加するんだ?あと装備についてはどのランクを使用させるんだ?」
「最低4桁以上の部隊は揃えるつもりだ。出来るなら5桁を目指して予定を合わせている。装備に関しては前回の作戦時に使用したSランク装備を解禁する」
転移者や転生者は劣勢にこそ力が発揮される。生半可な数を揃えるだけなら返り討ちに合ってしまう。しかし、まぁ最大で5桁以上か。今までの作戦の中では最大の部隊数ではないだろうか?今までは多くて4桁止まりだったからな。記録でも5桁以上は前例がないのでは?
装備に関してもSランクと言えば携帯型レールガン、ファンネル、ビームサーベルに残弾無制限の核ミサイルポッド等理不尽に対抗する為にこちらも威力の高く強力な武装を多数盛り込んだ装備のことを指す。基本的に私達が任意に使用することが出来ず、今回のような大規模作戦の際にしか使用が許可されないトンデモ装備だ。
「質問は以上か?」
「ああ」
「では一週間後にユグドラシルに対して殲滅攻撃を開始する。それに伴い8315部隊も作戦の参加を要請する。作戦内容の詳細は後日伝える。その際に作戦に参加する部隊の数も決定する」
とりあえずはこのくらいで良いか。まだ聞きたいことはあるが、とりあえずこのくらいにしておく。もう少し詳しいところは会議の中で突っ込むことにしよう。
「了解した」
「さて、私は帰るよ。レモンも待っているだろうし、他に話を通さないといけない所があるからな。見送りは不要だ」
「レモンちゃんの分のお菓子は必要ないか?」
「必要ない、どうせナギ氏が甘やかしていっぱい食わしてるだろ」
カラカラと笑いながらマリーが部屋を出る。ナギはなんだかんだ甘いからな、なんだかんだ言ってたらふく食わせているところが予想できる。
さてもう一杯飲んでから私も下に行くとしよう。オレンジジュースの入れ物を手に取るが軽い。軽く振ってみたところ軽くチャプチャプと音はするがそれほど重みを感じない。
仕方ない。立ち上がり部屋にある冷蔵庫を開けるがオレンジジュースは無い。
あいつ全部飲みやがった……!




