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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case7 マッチポンプな救世主
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思惑

「さて、行こうか」


 のしたチンピラを路肩に片して先を急ぐ。転移者でもないただのチンピラ相手なら遅れは取らない。むしろ、ここで負ける方が難しい。毒物を使われる不安もあったがまぁ私達なら大丈夫だろう。


「……ウッス」


 ユッカは路肩で積まれているチンピラを眺めていたが、私が呼びかければ大人しく付いてくる。その後は特に面倒ごとに絡まれることもなく目的地にたどり着く。


「ここが玉座の間っスか」

「ああ、転移者の栄華の果てだ」


 私が殺した転移者が住んでいた城の最奥に位置する玉座の間、かつては見栄のために豪華に装飾されていたであろうその場所は今では金目になりそうなものは残らず奪われ薄暗い部屋に残されているのはボロボロの椅子とガラスの無い窓だけだ。天井に飾られていたシャンデリアは無残にも地面に落下しバラバラになったシャンデリアらしきものがあるだけだ。


「…………」

「ここで良いんスか?」

「ああ、ここがいいんだ」


 私達以外誰もいない玉座の間へと足を踏み入れて窓から外の景色を見る。どこもかしこも戦争の傷跡、爪痕が見えて無事な建物など一つもない。

仕事上それでいい、この国は転移者が作った国、本来なら存在してはいけない国だから私達も特に手助けもせずにいた。結果自浄作用として周辺国家に攻め滅ぼされて今の状態だ。そのことに関しては仕方ないと思っている。


「律儀っスよね。シェフも」

「まあ、休暇ぐらいしかやれないからな」


 例え仕事上、仕方ない事だとしても、歴史上存在してはいけない国だとしても、そこにいる転移者以外の人たちはあくまで被害者だ。転移者という災害に巻き込まれ死んでいった人達、仕方ないという人たちもいる。ただ、私はかわいそうだと思う。だからこうして偶に自分が滅ぼした物を見て回る。忘れないように忘れてしまわないように、私達が壊した幸せの結果を目に焼き付ける。

少しの謝罪と共に黙祷をささげる。


「………………さて、行こうか」

「もういいっスか?」

「もういい次もあるしな」

「なら転移するっスよ。ここなら丁度人目もないっスから」

「ああ」


 その時、私のインカムが振動する。これは何か通信が来た場合の何だ?休日出勤は勘弁してほしいのだが………

聞きたくない気持ちもあるが、とりあえず録音を聞く。


『異世界転移対策課の全部隊隊長に通達します。次回の仕事はすべてキャンセル、代わりに異世界転移転生者要注意組織「ユグドラシル」についての会議を行います。日時は―――――』


「…………」

「シェフ?」


 インカムからの録音を止めて懐に仕舞う。


「ん、何でもない。次に行こう」

「ウッス」


 録音を途中で止めて、ユッカと共に転移する。

仕事の話は休暇の後だ。

















「つまり、近々奴らが攻めてくると言うことか?」


薄暗い室内で二人、机を介して男が向かい合う。片や青いコートに身を包み、腰から銃身が異様に長い拳銃を下げている青年、片や簡素な貫頭衣を来た壮年の男、お互いの前にはお茶があるだけだ。


「そうだ。貴様の所の暴走機関車が考えも無しに喧嘩売ったのが今回の原因だ。部下の教育をしっかりとすべきだとは思わないか?」


 壮年の男はコートの男に攻めるような目で見る。だが、男はどこ吹く風と動揺する様子はなく、淡々と返す。


「ユグドラシルは全員が同じ地位にいる。共に行動する同志はいるが部下はいない」

「部下だろうが同志だろうが不祥事を起こしたのなら相応の罰を受けるべきである。貴様らの提示した計画ではここの居場所を奴らに教えるのはもっと後のはずだ。おかげで近々我の所に対神部隊が来てしまうではないか」

「それは申し訳ない。奴にはしっかり言うつもりだ」

「だが奴らはどうする。時間は無いぞ。よもや大人しく滅ぼされるなどと申したりしないだろうな」

「無論、きちんと策もある」

「ほう、申してみよ」

「はい、まずは―――――」




「うむ、ではそのように」


 そう言うと壮年の男は霞のように揺らぎ始めやがて姿が消えうせる。


「…………はぁ」


 対談相手がいなくなった男は一人伸びをする。全ては作戦通り、予想通りというべきか奴は俺達の味方をする。奴らが戦ってくれれば好都合、俺達の作戦もうまく動く。


 いや正義はよくやってくれた。実際不自然じゃないように奴らに俺達の拠点を襲わせるかが問題だった。その点正義の真っ直ぐさには感謝しかない。真っ直ぐ正直に俺の言ったことを信じて行動してくれた。おかげで大きく前進した。各世界とのコネクションと


 とはいえ、俺達の全力をもってしても奴らに作戦が成功する確率は五分と五分、あとは俺達の計画と奴らの作戦どちらが優れているかの勝負になる。だが俺達はこの賭けに勝たなければならない。もはや神の時代は終わりを告げこれからは俺達人の時代になる。そこに神はいらない。管理者もいらない。


 これからは人の時代だ。人が自分の手と足で歩く時代だ。

湯飲みに残っているお茶を一気に飲み干し部屋を出る。

さぁ、ここからが修羅場だ。俺らと向こうどちらが勝つか勝負と行こうか。


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