表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case7 マッチポンプな救世主
191/199

成れの果てにて

 何とも言えない浮遊感が収まり、目を開ければ目をつむる前とは違う景色が広がっている。目の前に広がるのは森、そしてその奥に真っ白な建造物群が辛うじて見える。


「あそこがオリュンポス帝国っスか。なんか遊園地に来たみたいでテンション上がるっスね」

「私はあまり気分が乗らないな」

「そうっスか。まぁ、こんなところで立っているのもあれですし、行くっスよ」

「ああ」


 ユッカが先を行き、その後を私が付いていく。少し森を進むと不自然に草木が生えていない場所がある。下を見れば先ほどまで土だった場所に四角に切り取られている石が敷き詰められているのが見える。多分石畳の床として帝国が健在だった時には機能していたのだろう。

見れば石畳は先に続いている。オリュンポス帝国はこの石畳の先にあるのだろう。私とユッカは頷いて石畳の床を進んでいく。


「石が見えにくいっスね」

「それだけ人の往来が少ないと言うことだろう」

「つまり……そう言うことっスよね?」

「……あぁ」


 転移者が築いた国はもう滅んでいる。元々国同士で奪い合っていた土地を強引に手に入れて建国したのだが、攻められなかったのは転移者がいたからだけである。生まれたばかりの小国が年がら年中戦争をしている国から攻められ滅ぶことは無かったのは転移者がいる事だけであり、要がいなくなればただの弱小国家、記録を見ると多少抵抗はしたようだが結果としては象に潰される虫のように滅ぼされたことが書かれている。

私はユッカにこのことは話していないがユッカはニュアンスから何となくわかっている。知っているからこそユッカは笑みを浮かべる。


「ざまぁ」


 小さく呟くユッカに何も言わずに空を見上げる。

現在もここらの土地を狙った戦争中ではあるが、現在は最初のぶつかり合いが終わり、小規模の戦闘が各地で起きている。転移者の国は面倒が起きる前に無力化しようと二国から集中攻撃を貰ったから現在は戦闘地域ではない。なので戦争から逃げてきた人達や生き残りが国の中で生活している。とはいえ安全とは言えなく国としての体制が崩壊したので治安は最悪であり、軍はこの森でゲリラ的に敵国の軍相手に抵抗を繰り返している。

私達もここでグダグダしていると攻撃される恐れがある。

だから私としては急ぎたかった。


「手を挙げろ」


 だから私達の声が聞こえた時には思わずため息をついた。


 声の方を見れば所々損傷している鎧を着こんだ兵隊が数名、武器を構えながらこちらに近づいてくる。その格好、鎧の紋様私達が少し前に戦った転移者の国の軍が装備していた物と同じだ。多分ゲリラ化している軍の人達だろう。

流石に石畳の上でただ突っ立ている男女は不自然に映ったからな。


「このようなところに一体何の用だ」

「落ち着いて欲しい、我々はここで争うつもりや何か怪しい企てがあるわけでは無い」

「ここがどのような場所なのか分かっているのか貴様ら分かっているだろう。余人が、まして男女がデート感覚で来れるような場所ではない。一体何の用があってここに来た」

「ここに住んでいたとある知り合いが最近亡くなってしまってな。本当ならもう少し時期を見たかったのだが、私のいた場所もあまり情勢がよろしくなく、近いうちに離れることになったんだ。だからその前に訪れておこうと危険を承知で来たのだ。私達が怪しいと思われるもの百も承知だ。だがどうか私達を見逃して欲しい。貴君らの故国であるオリュンポスを汚すような真似をしたいわけでは無いのだ」


 真実の中に少しの嘘を混ぜて兵士に話をする。よく使うカシュ隊長から教えてもらった詐称術だ。


「そのような言葉が信じられるとでも?貴様らが敵である可能性があるだろう」

「無論そのような考えが拭えないのも無理はない。だが、見ての通り私達は大した荷物を持っていない。ここで何よからぬことをするのならもっと大人数で大規模な準備をする。私達が何もしないということを証明することは難しいがそれでもなお信じて欲しい」

「………そうか。…………わかった。貴様らを信じよう」


 拍子抜けというか、もっとこじれるかと思っていたが案外すんなりと向こうが納得した。私個人としてはもっと問答無用で襲い掛かってくると思っていただけに本当に拍子抜けだ。

軍としていいのだろうかこれで。いや、すんなり通してしてくれるというのなら何も言うまい。一応の身体検査をしたのちに兵士たちは去って行った。


「可哀想な人達っスね。もうあいつらが守る国なんてないのにああも頑張って尽くしているなんて」


 去って行くボロボロの兵隊たちの背中を見ながら呟くユッカは可愛そうなものを見る目をしている。


「それだけ、国を愛していたんだ。その愛国心、忠誠心が転移者に作られた物でなければ素晴らしかっただろうに、惜しいな」

「まぁ、転移者への気持ちが無くなれば。ただの一般人ッスから意味ないんすけどね」

「……さて余計な事に時間を取ってしまったな。行こうか」

「ウッス」





 兵士達が去って行った方向とは逆の方向へと石畳を道なりに進んでいくと前方に白い壁が見えてくる。近づけば段々とその姿があらわになってくる。


 本来であれば綺麗な大理石によりあらゆる悪から守れていたであろう城門は今は無残にも崩され、ただその破片が地面に散らばっている。本当なら私の身の丈などゆうに超えて立ちふさがっていたであろう城門も今は無残にも打ち砕かれてただそこらに散らばっている破片がここに門が立っていたことを教えてくれる。


「これが転移者が築いた国の現状っスか」

「ああ、記録によれば転移者がいなくなったことにより周辺諸国から攻め入られてしまった。最初こそ耐えていたが鎧などの物資の補給や調達、食料も転移者に依存していたこの国は段々と疲弊し城壁を突破されたことを皮切りに攻め入られ最終的には攻め滅ぼされたみたいだ」

「へーー」


 私の説明にユッカはたいして興味がなさそうに生返事をして先に進んでいく。私もため息を一つついた後にユッカの後を歩いていく。

詰所も兵士もなくなっている門だった物をくぐれば、

国の正門からまっすぐ伸びている道は本来であれば沢山の人が行き交う大通りであっただろうが、今は見る影もなく荒廃している。道の両サイドにずらりと並べられていた商店は一つ残らず廃墟と化している。


「何もないっスね」


 ふらりと店舗の一つに入って行ったユッカがつまらなそうな顔で戻ってきたかと思うとそう言った。


「大体の物は敵国に奪われただろうからな。残っている物は生き残り同士の奪い合いで日々消費されているのが現状だ」

「無秩序なんすね」

「本来であるならば、裏の顔みたいなやつが仕切り出したりするんだが、残念ながら善の人しかいないこの国ではそんな奴がいるわけもなく、出てくるのは精々チンピラ程度だ」

「つまり、あいつらっスか?」


 ユッカが前方を指差すと大通りを塞ぐように十人かそこらの人が行く手を塞いでいる。全員が下卑た笑みを浮かべながらそれぞれ手に持っている鉄の棒やらボロボロの剣を持っている。


「おうおう、兄ちゃん、ずいぶんきれいな彼女を連れて歩いているじゃねぇか」

「俺達にも少しだけ分けてくれよ」


 少しため息をついてユッカを見る。ユッカは細かく瞬きをした後にわざとらしく口元をゆがめる。


「……え、シェフが俺の彼女?……冗談でしょ?流石にキツイっスわぁ」

「黙れ、お前も一応私と同じ時期に作られた同期だろ、そんなこと言ったらお前もいつまでお調子者系の口調で話しているんだ。そろそろキツイと私は常々思っているぞ。昔の真面目系の口調に戻たらどうだ?」

「あー禁句、それ禁句っスよ。いくらなんでもそれは許さないっスよ」

「許さないなら何だ。もはや私達はお互いの事なら大体知っている仲だ。今更何を言われようが私は動揺などしないぞ」

「昔、完全に酔っぱらった隊長がやった魔法少女の振り付けをしている映像をアイビーちゃんに流す」

「やめろ、本当にやめろ、ぶっ殺すぞ」


「なぁ痴話げんかはいいけどよ。お二人さん状況分かってる?」


 ため息交じりにリーダー格らしい男がそう言う。チラリと見れば私達の周りを男の仲間が囲っている。もう一息か?


「ハハ、やってみるがいいさ。返り討ちにしてやるっスよ」

「ほう、言うじゃないか。よもや馬鹿のフリしている間に本当に馬鹿になってしまったのではないか?」

「シェフよりは中身つまってるっスから、大丈夫っスよ」

「そうか、なら丁度いい機会だ。私が直々に減らしてやろう」

「はー?それなら」「無視してんじゃねーよぉ!!」


 周りのチンピラを無視して二人でいがみ合っているとしびれをきらしたチンピラの一人が手に持っている物を振り下ろす。

口論を中断し振り下ろされるそれを紙一重で回避し、反撃の拳を相手の腹にめり込ませる。

相手は口をパクパクさせて何かを言おうとしたが、ため込んでいた空気を一気に吐き出されたことでうまく呼吸をすることが出来ずに白目を剝き倒れそうなところを抱きかかえる。


「……ハァ、これで正当防衛が証明されるっスかね?」


 頭を掻くユッカが面倒くさそうに周りを見る。


「すまなかったな。前の時のように急いでいるわけでは無かったからこうして理由付けしたんだ」

「まぁ、いいっスけど。さっさとノシテ行くっすよ」

「ああ、そうしよう。ただ、気絶までだからな」

「分かってるっスよ」


 気絶した男をゆっくりと地面に寝かせてから立ち上がる。私達は原則として仕事以外で現地の人達に暴力を振るうことは許されていない。例えば暴漢や犯罪者などそのまま放置していると自信に被害が及ぶ場合は正当防衛として殴ったりけったりと抵抗することが許可されているが、自分から暴力を振るったりすることは許されていない。

だから、向こうから殴ってくる必要があった。逃げ出したところで追いかけられたりすると面倒だからここで無力化しておく。


「さて、私としても君たちに言いたいことはあるのだが、私は大人だから短く一つにまとめるとしよう」

「人の地雷原でタップダンスするのはやめろ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ