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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case7 マッチポンプな救世主
189/199

憶えの無い恨み

「エクスプロード・スターレイン!」


 引き金を引く寸前でその言葉が聞こえた時、私は思わず上を向いた。聞こえた声は一人、聞こえた単語はスターレイン、つまり流星群。頭上には無数の流星がこちらに向かって真っすぐ落ちてくる。まず当たれば死ぬ。そしてこんな大規模の攻撃を一人で実行してくるのは転移か転生者のどちらかに違いない。


「迎撃開始、バロックは周囲警戒」


 命令と共にアイビーとセラが銃を持ち上げて弾幕を張り、ユッカとナギが撃ち漏らした流星を撃ち落す。バロックだけ遠距離攻撃手段を持っていないので代わりに周囲を警戒する。上に気を取られている隙に別方向から攻撃が来るとも限らない。バロックにはその警戒を任せる。

鳴りやまぬ銃声の中、砕かれた流星は細かく塵や屑となりパラパラと私達に降り注ぐ。さてどこから来るか、流星の破片で視界が塞がっている上からか、横からか、地中からか、亜空間からか

何処であろうと捕まえ苦しまぬうちに殺してやる。


「トレード」


 しかし、期待外れと言うか、予想とは裏腹に転移者からのアクションは単純だった。先ほどまで踏みつけていた転移者が消えて代わりに見知らぬ死体が寸分たがわぬ同じ地点に入れ替わった。

直後に流星群が収まり、引き金から指を話した四人がバロックと共に一点を見る。

光を吸い込みそうなほどに真っ黒なコートをはためかせ、半分が火傷跡で覆われている顔は明らかによく私達が戦う転移者、転生者とは様子が違う。そして、その目は間違いなく憎悪を持って私達を見ている。


 とはいえ私自身、身に覚えがありすぎてわからない。私達の存在を知っている転移者、転生者は私達を目の上のたん瘤のように思っているかもしれない。

男は先ほどの転移者を小脇に抱えてしばらく無言だったがやがてため息と共に口を開いた。


「俺は今、あなた達と事を構える気はないです。俺はただ考えなしの猪突猛進アホを回収しに来ただけです。ですので銃口を下げてください」

「戯言を貴様に気がなくとも私達にはあるのだ。死ね」


 とはいえ状況は宜しくない。私の刀は焦げて使い物にならないし、空中への対抗手段はあっても殺しまで持って行けるかと言われれば間違いなく否だ。


「貴方達はいつもそうだ。話も聞かずに一方的に死ねと言ってくる俺達がどんなに苦労しているかも知らずに」

「知っているし知りたくもなかった。貴様らが苦労をしている?ハッ!笑わせるな。貴様ら程自分たちが特別だと思っている存在など他にいまい。外来種のくせに持っている力と口だけは一丁前だな。大体貴様らの苦労は俺が動くのか面倒くさいなとかの自分本位の悩みだろう。というか目立たずに暮らすとか、のんびり暮らすとか言っているくせに自分から厄介ごとに首を突っ込む時点で貴様らの精神が大分歪んでいる証拠だ。さっさと死んで新しい命になれ」

「力を持っているのに何もしない方がよっぽど質が悪い。やらない偽善よりやる偽善の方がよっぽど有意義です。それともあなた達は見過ごせと?助けを求める声にふたをして過ごせと?そんなことで自分を殺すくらいなら出来る限り手を伸ばします」

「それが害獣じゃなければいい話だったな。貴様ら神の力を持った存在は絶望になる。その世界の住人がどんなに努力してもたどり着くことが出来ない。万の力を集めてもかなわない絶対の存在。そんなのが永遠に存在して見ろ。人々は絶望し、努力してもどうせ彼ら、彼女らが簡単にやると、なんでも転移者、転生者に頼り始める。文明は停滞し、転移者の知識による文明へと偏り、どの世界も同じような文明、歴史をたどる。どの世界も建物の美しさも食べ物さえも全てが同じになってしまう。今まで世界が築いた歴史を全否定し、文化を死滅させる。この他にも色々な問題を引き起こす。そんな外来種を野放しにするわけなかろう」

「……平行線ですね」

「当たり前だ。私達の意見に賛成し、命を差し出さない限り貴様らは敵だ。殲滅するそれ以外に道は無い」

「憎らしいほどの自信と説得力です。とはいえ、組織的にもここでドンパチしても意味が無いので帰ります」

「逃がすと思うか?」

「逃げられますよ。というかあなた達、大した対空手段持ってないでしょ?」

「……」


 その通りではあるが、転移者に言われると少しイラっとくるな。ん?どこかで何かが引っ掛かる。火傷?なんだっけか。


「まぁ、その内また会うと思うのでその時は俺があなた達を殺しますね」

「何言ってんスか。殺すのは俺らっス、あんた達は身辺整理と首を洗ってして待っているっスよ」


 私を遮ってユッカが啖呵を切った。それ私が言いたかったのだが……

ユッカの言葉を聞いて一瞬顔をしかめるがすぐにこちらを挑発するようにニヤリと笑い、直後に転移者の姿がぼやけ揺れ始める。試しに銃を向けて発砲するが特に影響があったわけもなく、そのまま転移者の姿は陽炎のように消えてしまった。


「行っちゃったっスね」

「そうだな」


 転移者ではない死体から足を退けて手を合わせ黙祷する。踏んでしまってすまないな。目を開け気持ちを切り替える。


「さて、私達も帰還の為に準備するぞ。具体的には風呂敷が破けてあたりに散らばった死体を回収するぞ」

「血の付いた地面とかはどうします?」

「無視!基本的には肉とか骨とかの固体を中心に回収してくれ」

「わかりました」


 各自で散開して死体の破片たちを集め始める。私もしゃがんで拾いながら先ほどの転移者の姿を思い浮かべる。奴は何となく私を知っているような素振りをしていたような気がする。少なくともあの視線は私に向いていた。だが私の記憶には全くない。


 一応記録課に報告しておこう。

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