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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case7 マッチポンプな救世主
187/199

乱入者

 頭と体が入っている二つの風呂敷を片手で持って立ち上がる。何度も味わっている重みを感じながら立ち上がるとユッカ達がこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「あれもう終わっちゃったッスか?これでもアイビーちゃんが撃ち込んだ後に急いで向かったんスけど……」

「ああ、存外転移者が弱かったみたいだ。多分力にかまけて鍛錬を怠ったようだ。あとはこれを持って帰るだけでおわ――――」

「超必殺!『天地砕龍破ァ!!!』」


 突如として背後から聞こえる声に対して咄嗟にアイビーの手を引いて全力でその場を離れる。直後に龍の形をした何かが私達の立っていた場所をえぐり爆発する。爆風は避けきれないことを悟った私はアイビーを抱き寄せなるべくダメージがアイビーに行かないように庇いながら吹き飛ばされる。爆風に吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がり止まると同時にゆっくりと体を起こしアイビーに声をかける。


「無事か?」

「はい、ありがとうございます。隊長は大丈夫ですか?」


 そう言われて思ったよりも痛みが少ないことに気が付く。何故だと思ったら自分の服が血で染まっている事がわかる。当然私の血でもアイビーの血でもない。では一体誰が?答えは私の手の中にあった。転移者の体を包んでいた風呂敷が破けて中身が無くなっている。私が転がっていた場所を見ればさらにバラバラになった転移者の人体が転がっている。なるほど、爆発で風呂敷が破けて体が吹き飛びそれを私が下敷きに引きずったことでクッションの役割をもったのか。

汚いな。洗濯が大変そうだ。


「大丈夫だ。それよりも先ほどの攻撃は」


 地べたに座っているアイビーの手を引き立ち上がらせて私達が立っていた場所を見る。爆発の影響で煙が立ちあまり良く見えないが小さくはないクレーターが確認できる。直撃していればそこら辺に転がっている転移者の仲間入りをするところだった。


「皆さんは無事でしょうか?」


 私が最後に見た時は全員回避のために行動を開始していた。私はアイビーの手を引いたためにこうなったが他の皆は無事だろう。だが、今確認するのは皆の無事より攻撃の元、誰が攻撃してきたかだ。

あんな技を出すことの出来る奴など対策課以外だと数えるほどしかいない。神か、転移者のどっちかだ。


「ハッハッハッハ!!わが必殺技を避けたか!!流石だな!!」


 やかましいくらいの高笑いが聞こえてくる。発生源に顔を向ければ、白を基調に金の装飾品を付けているコートを身に着け、やたらゴテゴテとした装飾を付けている長剣を持つ10代後半の男が数メートル後ろの地面に立っていた。十中八九転移者か転生者のどちらかだ。だが、この世界の転移者は私が殺したはずだ。他に転移者、転生者がいるなんて報告、私は受けていない。インカムを起動してマイクを音にしたまま問いかける。


「貴様は何者だ?転移者か転生者のどちらかであることはわかるが、この世界に二人も転移者がいるとは報告されていないがな」

「当然!!!俺は今しがたこの世界に来たからな!!そして何者だと言われれば答えよう!!悪の組織である対策課の諸君、我は創造主たる神に仕える組織『ネオ・ユグドラシル』正義執行部長!!!名は『広崎 正義』!!貴様らを駆逐する正義の味方の名前だ!!!」


 仰々しくポーズを取り見栄を切る転移者はそれは得意げな顔をして自己紹介をする。おかげで大体わかった。なるほどユグドラシルの関係者と、しかし正義執行部か、物前回壊滅させたときにはそんな部署存在しなかったはずだ。つまりこいつは壊滅後に参加したメンバーか。殺して、記録課に報告しなければ。


「そうか、では死ね」


 随分長々と元気よく自己紹介をしてくれたおかげでこちらの準備をする時間があった。背後にいるアイビーが狙いをつけ貴様の胸に風穴を開けるための照準を付ける位の時間があった。引き金を引いたアイビーの銃弾は狙い通りに転移者の胸に目掛けて一直線に進む。

そして軟弱なコートごと転移者の胸をぶち抜くかに思われた。

だが、結果は違くとても布が出したとは思えないような固い音が鳴り、銃弾がコートを貫けずに停止する。


「残念だったなぁ!」


 転移者はぺしゃりと潰された弾丸をつまんでポイと投げた。仮にも火薬を増加して速度を増したダムダム弾を直撃しながらドヤ顔をしてこちらを煽ってくる程の余裕があるとは。

さて、死体を持って帰りたいのだが死体がバラバラになって散乱している。拾い集めるにしてもあの転移者が素直に集めきるのを待ってくれるとは思えない。不意打ちで攻撃してくる奴だからな。やはり先に奴を殺してから帰るしかなさそうだ。情報は後で記録課の記録で奴の行動を読み返せばいい。とりあえずはこいつを殺す。


「そうか、殺す」


 刀を引き抜いて転移者に対峙する。


「フハハハハハ殺す?!出来ないことは言わない方が良いぜ!!」


 剣に炎を纏わせて転移者が不敵に笑って見栄を切る。


「出来ないじゃないやるんだよ、ただ殺すのは私だけじゃないがな」


 その言葉を言い終わると銃声が響き渡り転移者の右側から銃弾が飛来し転移者にぶつかる。通常の人なら服がすぐにボロ雑巾になるような弾丸でも転移者は平気そうな顔をしている。インカムからの会話で大体の事情を察したユッカ達があらかじめ定位置につき一斉射撃を不意打ちで撃ったのだが効いている様子はない。


「鬱陶しいな!!」


 煩わしそうに袖を上げて顔隠しながらも元気な声でもう片方の腕をユッカ達の方に向ける。


「超必殺『セイクリッドランス!』」


 直後に転移者の周囲に光に包まれた棒状の何かが無数に表れてユッカ達に飛来する。セラが二丁の機関銃で迎撃しているが同時に数十本も何かが発射される転移者の魔法と銃の構造的にどんなに頑張っても銃口から一発しか銃弾が発射されないセラの機関銃では処理速度が追い付いておらず段々と追い詰められている。


 流石にこれ以上は意味が無いと思い転移者に向かって走り出しグレネードを投げつけながら転移者へと駆け出す。同時にアイビーが背後から援護射撃して転移者の注意をこちらにそらそうとしている。着弾の衝撃に驚いた転移者が私の方に視線を向けると空中にあるグレネードが爆発し爆煙が転移者を包み込む。転移者の姿が見えなくなるが無視して煙の中に突っ込む。私が突っ込むところ見てたのでセラが銃を撃つのをやめて全力で回避しているのが見えた。


 一応グレネードの煙で転移者は見えない状況だし、あれ以上続けると直撃してしまう可能性があったので許して欲しい。


 足を止めずに息をつかせる暇もなく煙の向こうにいる転移者に向けて無言で刀を引き抜きながら切りかかる。刀における一番早い切り方は居合だ。一般人でも達人クラスになると刀を引き抜く瞬間が見えない程高速で引き抜かれる。


 そして、今の状況は煙によってあまり良く見えない状況だ。視界不良になっている状態での神速の一撃を加える。一般人であるなら即座に首と胴がお別れをして、仮に防御しても群将の切れ味ならその得物ごと両断することも可能な一撃だ。

とはいえ私達が対峙しているのは転移者、それも要注意団体の一員、そんな一撃でも簡単に防ぐ。筋力も私に押し負けずに拮抗している。多分そこらの転移者よりかは鍛えていると思う。


「残念だったな!!そんな卑怯な攻撃は正義の味方には通じない!!」


 至近距離だというのに自慢げに大音量で話す転移者に思わず耳を塞ぎたくなるのをこらえて話をする。


「正義の味方?」

「そうだ、貴様らのような俺達を不当に殺す理不尽に対抗し、正義の裁きを与える!!!それが俺の正義執行部のモットーだ!!」

「なるほど?ちなみにその理不尽の判断は何か参考にしているのはあるのか?まさか、貴様の趣味主観で決めているわけではあるまい?」

「簡単だ。俺達の邪魔をする奴ら、つまりお前らだ!!」

「ほう」

「俺達は神様にお願いされて新しい世界に行った。そこで好きなように生きて欲しいと言われたから転移した。それから俺達は自由に生きてきた。世界のために動く人、冒険者として名をはせる人、色々いた!だが、誰も世界を脅かすことはしなかった。なのに!それをお前たちは殺している。俺達は何もしていないのに!!」

「だから殺すと?」

「ああ、俺達は神様から貰った力があるがお前たちはそれ以上に強い!それに対抗するために俺はユグドラシルに参加した!!お前らみたいな自分勝手な奴らに俺達の生活を滅茶苦茶にされないために!!お前らを倒すために!!」


 なるほど、前に壊滅させたユグドラシルは様々な世界にいる転移者、転生者と結び付けて世界間の協力関係を広げている。世界間ネットワークのような役割があっただけだが、私達に壊滅されてからそれだけではなく私達対策課の対策も始めたと言うことか。

その通りなら前回よりも壊滅するのは手間がかかりそうだ。


 何せただでさえ殺すのが面倒な転移者転生者が集まっているのだ。そして前回とは違い私達を迎撃する準備をしていると予想できる。前回でさえ転移者転生者達の抵抗で殲滅までに半日をようした。多分私達の最高戦力と兵器を持ち出す必要があるな。

まずはこいつを殺さないとな。


 鍔迫り合いの状態から押しのけて相手の体制を崩し蹴りを入れる。服の力なのか転移者の力なのかで大して体勢が崩れていないが、私は反動を利用して距離を取る。そこをユッカとバロックが攻撃を加える。バロックが主に前に出てユッカが隙を埋める形で攻撃を続ける。私は転移者の死角に入るように回り込みながら隙を伺う。


 バロックは細かくジャブを繰り返しながら転移者をけん制する。細かく撃つ事によって魔法の発動と大規模な攻撃の発生を抑制する。例え転移者が使っている剣であっても一般兵士が持っている剣は物を切れる箇所は同じである。魔法も例え無詠唱で発動するとしてもその発動には必ず意識を割く必要がある。


 そしてバロックはその隙を生ませないためにそして転移者が見せる隙を生ませるために細かく攻撃している。当然転移者は嫌だろう。彼らの基本は大規模の高威力魔法で殲滅、近接戦は魔法の威力を上乗せさせた剣で攻撃するのが基本だ。そのどちらもやらせずにチクチクと妨害するのはいささか面倒に感じるだろう。


 とはいえ、ここで距離を取るすべもない。バロックのリズミカルでシンプルなワンツーは魔法で牽制する隙も時間も与えない。魔法にかまけて剣としての鍛錬を行っていない奴には特に効く。中にはキチンと魔法も剣術も鍛えている転移者、転生者もいる。仮にも正義執行部などとほざいていたのでもしかしたらとも思いはしたが、動きを見る限りそうでもなかったようだ。力を振り回しているだけのチンピラと大差ない。ならば手はある。


 腰にあるグレネードの中から目当ての物を左手に持ちピンを抜く。

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