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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case7 マッチポンプな救世主
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コッソリとしていた裏工作(脅迫)

 私は本当ならこういう事はしたくない。出来るなら転移者と一対一で殺して持って帰りたい。だがそんな状況になるなんて滅多にないし、出来たとしても確実に殺すために他のユッカ達と連携して殺す。仕事と私情は切り分ける。そう私は決めた。


 そんなわけで勝つことは決めて一応の事後処理を軽くするために現在私は敵陣地右翼の偉そうな人がいるテントの中に立っている。周りの兵士は死角からのアンブッシュで眠ってもらっている。転移者はやはりと言うかあまり戦争における戦略というのは考えていない。何事もその場の指揮官任せ、自分が動けば一瞬で終わるはずなのにあえて騎士団に任せている所を見ると出来立てほやほやの騎士団の経験を積ませようとでも考えていると予想する。実際、騎士団員を前線に出して他の貴族による義勇兵は陣営の防衛に専念させている。


 おかげで私の考えの通りに事が運びそうだが、やはりと言うか騎士団を横に並べて進軍している影響で野営地も横に伸びている。

転移者を倒そうとしている軍勢のリーダー格っぽい人からこちらに寝返ってくれそうな人を教えてもらいこうして会いに来たという訳だが横に戦線が伸びているのでここから転移者がいる本陣までそれなりの距離がある。足で移動すればここまで来るのに相当時間がかかっただろうし、やはり転移は便利だ。好きな時に任意の場所に移動することが出来る。本当なら転移者の真後ろとかに転移したいのだが、ああいう不意打ちに関しては妙に感が良くて大抵失敗する。さらに転移者と戦闘になれば少なからず周りが邪魔になる場合がほとんどだ。現地人は特殊な事例を除いて殺せない。巻き込まれでもしたのは知らないと言いたいところだが、本来なら死なずにいい場所で死ぬのは駄目だと思う。だから彼らが離れるまで待ったりする。だけどここの場には転移者はいない。いるのは現地の貴族様だ。


「き、貴様はいったい何者だ。どうやってここに!!」


 震える声でそう聞き返される。よく見れば腰に手をやるその手も足もおびえてがくがくと震えゆっくりと後ろに下がっている。


 目の前で文字通り瞬く間に周りの兵士が無力化されればこうもなると思うが、目線だけは周りをしきりに見渡している。何が何でも助かってやるそう決意して逃げ出す機会を探している。自分が助かればどうでも良い日和組で無駄に逆らうよりも長い物に撒かれた方が良いと考えている考えることを諦めた人。彼から聞いた通りの人物だ。


「私の素性何てどうでも良いのだがこう言っておこう、貴様らが戦っている相手の援軍だ」

「え、援軍だと?!なら貴様らが見知らぬ魔法を使いヨイ様の騎士団を敗走に追いやったという者たちか!」


 そう言えばアイビーが何か偉そうな立場にいそうな若い人が馬に乗っていたので落馬させましたと言っていたのを思い出した。あれは転移者の持っている部隊だったのか。


「そうだ、それで貴様には私の頼みを飲んでもらうことになる」

「貴様には奴を、転移者アカツキ ヨイを裏切ってもらう」

「ば、馬鹿を申すな!裏切ったりしたら殺される」


 ふむ、私は裏切らないと言わずに裏切ったりしたら殺される。裏切るのには肯定的ではあるが転移者が怖くて裏切れないと言ったところか。記録から転移者が国の貴族の量を減らしていると書かれていたのは知ってはいた。この人の行動はある程度は記録で見たが余裕があったわけでは無いので大体しか分からないが、彼は転移者に逆らった貴族の末路を間近で見てしまい怖くなったのか逆らわずに従っている。


 転移者は言わば意思を持った核爆弾。もし自分の隣に自分の意思で判断し好きな所に発射できる核ミサイル発射場があるとする。核ミサイルが隣にある時点で既に怖いと思う。しかも核ミサイルに意思があり自分の判断で勝手に発射する。さらに発射装置は話しかけてきて勝手に動いたりする。機嫌を損ねれば自分が撃たれるかもしれない。たとえミサイル本人が撃たないよと言っても心には常に恐怖が居座り続ける。どの世界でも転移者に対する一般的な認識がこれだ。


 転移者本人は本心で優しく接しているし特に脅すつもりは毛頭ないだろう。だが、怖い顔していれば内面問わずに怖がられるのと同じようにそれだけの力を持っていいてその力を知っていれば人は必ず恐れる。恐れないのは純真無垢な子供か、神からの加護で洗脳されたり、転移者の事を好きになったりした人くらいだ。怖い物には逆らわず触らないそれが大体の人の行動方針であり、転移者は知らず知らずのうちに恐怖政治を展開している。

そんな恐怖で従っている人を裏切らせるのは比較的簡単だ。

簡単だ。理由を付けてあげればいい。悪い事をしても言い訳できる免罪符。それも飛び切り強力な奴だ。


「言っただろう飲んでもらうと、貴様に拒否権は無い」

「何を馬鹿な事を」

「ところでこれに見覚えはないか?」


 そう言って腰のポーチから二束のそれなりに手入れされているであろう髪を取り出す。金髪と茶髪、長さ的に女性であろうと男が予想した辺りで顔色が変わる。何か悪いものでも見たような顔をしたのを見てホッとする。良かった、分かってくれた。恐怖感を演出する為に髪だけ取ったりはしたけど直前に髪だけで持ち主が誰なのか分かってくれるかと思ったけど無事に分かってくれたみたいだ。


「見覚えがあるか?これは貴様の妻と娘の髪だ」


 転移は本当に便利だ。戦場であるここから兵が出払って最低限の警備しかない王都の中心、それも目的の貴族の寝室へ直接転移することが出来るのだから後は騒がれる前に髪だけを切って逃げる。こうして手に入れた髪をその日の内に脅迫の材料に使うことが出来る。


「貴様が裏切らなければ妻と娘の命は無い、それだけの話だ」


 そう脅すがこの言葉は嘘だ。流石に誘拐や監禁できるほど部隊員に余裕はない。寝ている二人の髪の毛をサクッと切るだけにとどめた。だが、そっちがその出来事を確かめるすべはない。ここから、王都まで急いで一週間はかかるし第一ここからやたら長くなっている戦線で移動しようにも一苦労な物だ。


「もし、ここから逃げ出して確認しようとしたり、転移者、ヨイに密告しようものなら残念だが彼女らは諦めてもらうことになる。そのような動きがあった瞬間に貴様を見張っている私の手の者が彼女たちを殺す手筈になっている」


 もしもう一人いたら殺しはしないが似たようなことができたと思う。今頃彼女たちは急に短くなった髪にビックリしている頃だ。

私の話は髪の件以外は全部嘘っぱち、だが彼には他に判断するための材料が無い。嘘だということも出来ない。よくある展開で人質に銃を突きつけられこちらも銃を構える膠着状態で「私に構わず撃って」と言われて素直に引き金を引けるかと言われれば否である。彼も妻と娘という人質を一蹴できずにいた。あと一押し、鞭の次は飴だ。


「大丈夫だ。君は家族を助ける為に仕方なく裏切るんだ。私に脅され脅迫され仕方なく兵を転移者に向けた。転移者は総じて身内には優しい訳をキチンと話せば彼は分かってくれるさ」


 言い訳、自分が裏切っても悪くないと言える確かな理由。理由なく裏切るよりも人質に取られて裏切ったという理由があった方が仕方ないと若干思われたりする。

転移者だと理由があって裏切った人がいれば大抵罰することは無く、むしろ裏切りを強要した者に矛先が向くことの方が多い。


「それに君は彼に言いたいことがあるんじゃないか?思い付きで増える仕事、増えるのに取らされる休み」


 彼はこの陣形で右翼を任せられるほどに重要な人材。王都では王都の内政をほとんどになっていると言っても過言ではない。だが、彼自身はここまで大きくなりたかったわけでは無い。転移者が彼に目を付け面倒な仕事を全部押し付けているだけだ。転移者からすれば自由でいたいのかもしれないが彼にとってはいい迷惑だ。彼が追い出したことで引き継ぎもままならない仕事をこれまた彼が思いつきで提案したことの処理や今までの改革のしわ寄せ等々一気に処理しなくてはいけないのだ。


 それは営業部の人間がいきなり一番忙しい部署に異動になり、しかも上司は仕事せず遊び惚けその分の仕事が全部自分に回ってくる。そのくせ上司は新しいことに少し手を出した後にこっちに丸投げするから仕事は全然減らない。


 転移者の元の世界の人なら仕事を辞める選択肢もあるかもしれないが、彼は貴族逃げ場などない等しい彼にも家族があり家柄がある。それが鎖となって彼から仕事を投げて逃げるという選択肢を無くしている。


 そうしてほぼ強制に近い労働環境に長い間ストレスを感じない程彼は聖人ではない。しかもそのくせ休みを強制的に取らせてくる。仕事を休めばその分仕事が溜まるだけなのに転移者は休みを強制していた。

そんな恨み積もった感情を背中からそっと押してあげる。


「大丈夫、私達の仕事は転移者を殺す事。向こうが勝てば君は窮地を助けてくれた英雄に、負ければやむを得ない理由で裏切られた悲劇の将になれる。どちらに転んでも君に言い選択になると思う。少なくともここで断って最愛の二人と永遠の別れになるよりもよっぽどね」


 無論、他にもデメリットは沢山あるがそんなもの一々説明してあげる必要はない。どんな売り手でもわざわざデメリット部分を説明するバカはいない。悪い部分だけを丁寧に隠していい部分だけを全力でアピールする。

これで、と思うが中々答えは出ない。まだ迷っている様だ。仕方ない最終手段だ。


「交渉決裂か、残念だよ」


 黙っているのを拒否と勝手に受け取って出口に向かう。最終手段の時限式交渉術、タイムセールやCMの後三十分間割引と言われると人は時間が無いと思う。本来は時間をかけて考えるべきことを制限時間を付けることで冷静な判断を鈍らせる。

このまま私が外に出てしまえば娘や妻は殺される事が決まってしまう。もはや猶予はないだからこそ

「待ってくれ」


 予想通りの言葉に出口の布に触れている手をピタリと止める。我ながら悪人の様だ。いや、こんなことしているのなら私は悪人なのだろう。だから皆私から離れて行く。後ろを見ずに走り続けたからこそ後ろにある死体に気が付かず、後ろでこちらを狙っていた彼女に気が付かない。私以外の事情など知った事ではないと走っていたあの頃を思い出す。ああ、それはまるでここの転移者の様だった。


 なるほど、私にぴったりの役割だ。転移者からすれば私達は悪役だ。悪役なら悪役らしく演じなければならないな。


 私は私をあざ笑うように笑顔を張りつかせて彼を見る。まだ迷っているような顔をしているがその手は真っ直ぐとこちらに伸ばしている。もう答えは決まっているが知らないふりをして聞き返す


「どうかしました」


彼はぎゅっと目を瞑った後に意を決してこちらを見て答えを口にする。

満足のいく答えを聞けて私はやっとホッとした。


「そうですか、交渉成立ですね」


わざとらしく彼に近づいて握手を求める。

何故私がこんなことをしているか、理由は二つ、裏切らせて転移者の動揺を誘うことと、もうひとつはこの戦争を転移者の勝利で終わらせない為である。


 例え私達が勝っても戦争に負けてしまえば、転移者が中心にいる前提にして作り替えられた国が生き残れるわけない。だからこそ、あの軍が勝ってもらう必要がある。彼らは転移者が来る前の国の政治を担当していたり裏の汚い部分をまとめていた存在だ。この戦いに勝てば近いうちに国は転移者が来る前の状態に戻る。


 今までは、転移者が作った国だったり、国の中心ではない転生者や、神が関係していない転移者が残ったりして、そのあたりの心配はなかったのだが今回ばかりはそうもいかないのでこうして交錯しているわけだ。


 さて、あと二つくらいか、早く終わらせて転移者の下に行くとしよう。

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