処刑
敵陣地の真ん中、敵兵たちに騒ぎを起こしてその中に紛れて狙撃する。テントの中では騒ぎのことを知らないだろうし、外に出た直後で外の様子など分かるわけもない。そこを狙ってアイビーに狙撃させた。一般人であるのなら殺されそうなものだが、そこは転移者らしくライフルの発砲音に素早く反応し回避しようと体を捻らせた。しかし、ライフルの弾速に完全に対応することは出来ずに銃弾は右肩にめり込み肩先を吹き飛ばした。
肩から離れた腕はひとりでに浮遊して転移者の肩にくっつくなんてこともなく地面に落下する。肩口からは赤黒い血液がドバドバと流れて転移者も人であることが分かる。
少しの空白の後に転移者の絶叫が空に響き渡る。目じりに涙をこらえながら転移者が傷口を手で覆えばすぐに血が止まる。
とはいえ失った血が戻るわけでもない。転移者の顔色が目に見えて悪くなる。その隙を逃すまでもなく二発目の銃弾が兵士の中から発射されるが流石に二度目は当たらずに回避される。だがアイビー達がいるのは敵兵、転移者から見れば味方の兵士の只中にいる。先ほどの攻撃を見た限り魔法のコントロールはなかなかのものだがそれでも味方の中に混じっている一人だけを攻撃を回避しながら反撃できるわけがない。
それが分かれば障害物の無い空中にいる意味がない。
空を飛ぶ理由は敵の攻撃が届かない、当たらない、地上とは違い立体的な動きをすることが出来る。こちらから一方的に攻撃を与えることが出来る。基本的にはこの利点があるから空を飛ぶのだ。だが、こちらには上空への攻撃手段がある。その場合はさらに高く跳べばいいのだが、そこは転移者仮にも指揮官の男が連絡を取れぬほど上空まで逃げてしまえばそもそもの戦に負けてしまう。
だが中途半端な高さではライフルの射程からは逃げられない。だからこそ転移者が取れる行動は銃弾を避けながら降下するしかない。
予想通り転移者は撃たれないように回避行動を試みながら地上に素早く降りる。
「どうした、右腕が無くなっている様だが?」
「うるさい……ですよ。どうせ貴方の仲間の攻撃なんでしょ?」
地上に降りた転移者に対してとぼけたような口調で聞けば、少し不機嫌そうな答えが返ってくる。
「ああ、流石に今の装備で空を飛ばれると面倒だからな手を打たせてもらった」
「なるほど、ですがそのお仲間は今は大丈夫なのでしょうか?ここは私の味方の陣地四方が敵だらけであなた達は囲まれている状態です。このままでは私を殺すことは出来ないのでは?」
別にアイビー達なら何とかなるだろうし、アイビー一人だけという訳ではないので多分大丈夫だと思うし普通に余計なお世話ではあるが残念ながらその対策は既に打ってある。
「別に問題は無い、それに仲間が来る前にお前を切ればそのまま帰るだけだ」
「出来ると?」
「やるだけだ。仕事だからな」
セリフを言い終わると同時にリボルバーを向け引き金を引く、放たれた弾丸は見当違いの方向にはいかずに真っ直ぐに転移者の胸元に進むが当然のことながら転移者は躱してしまう。先ほどのような不意打ちの一撃でなければ流石に被弾しないか。
リボルバーをホルスターに仕舞い、代わりに腰の鞘から抜刀し接近する。ただ、片腕を無くしても転移者は転移者、生半可ではない攻撃が飛んで来る。種類も風から炎まで多種多様な魔法が私の所に飛んで来るそれを回避しさばけるものは捌く、とはいえ片腕を失っても転移者、質量共に明らかに一般人のソレより一線を画している。
壁のごとく向かってくる魔法の間に対抗してグレネードをピンを抜いて投げ、一旦距離を取る。真っ直ぐ飛んだグレネードは炎の魔法に飲み込まれた後に爆発した。いくら強い魔法があっても至近距離で爆発が起きればかき消される。転移者は咄嗟に壁を作った様だが、盾があると前が見えなくなる。今の内に距離を詰めたいところ。
踏ん張りを効かせて停止し、即座に転移者に対して右回りに最接近する。壁が無くなった転移者は接近する私に対して急いで魔法を放つために右腕を向けようとする。だが、私がいるのは右側、転移者の右腕はアイビーが撃ち落している。無い右腕を咄嗟に出してしまったことでさらに隙が出来る。これでまた少し転移者に近づく。ただその分転移者の魔法が発射されてから私が回避するまでの時間が短くなる。例えるならセラがよく使う機関銃の弾幕の大きく遅い物が襲ってくる感じだ。その分早い判断が必要とされるし間違えれば命とりである。
まぁいつもの事ではあるが
そういうものの対処は決まってこれだ。左手に刀を右手に今度はスモークグレネードを持って転移者の頭上に向かって投げつける。
煙が転移者を覆いお互いの姿が見えなくなる。さて、転移者を釣る為に何か言い物は無いかと周りを見れば転移者のちぎれた右腕が地面に落ちている。
大きさもちょうどいいしこれで良いかと思い煙の中に思いっきり投げつけ、代わりにリボルバーを持つ。そして投げつけた方向よりも少しずらした地点からわざと大きな足音を立てながら接近する。
ほどなくしてとてつもなく大きい火球が私の横を通り過ぎる。その熱風で煙が晴れれば転移者が黒こげの自分の右腕に対して左手を伸ばしている光景が見えた。
足音を立てて緊張感を出した所に近づく影、素人なら釣られると思っていたが、うまく釣れたようで一安心する。
転移者はしまったという顔をしてこちらに手を向けるが流石にここまで近づけば魔法の発動よりも先に刀が届く。迷うことは無く目の前にある手のひらを確認しながら刀を振り上げ、転移者の左腕を切り飛ばす。両腕をなくすと思ったよりも体のバランスがとりにくくなる。転移者は顔面が真っ青になりながらも逃げようと後ろに跳ぶがうまくいかずに背中から倒れ込む。そのまま前に進み転移者の胸を踏みつけて眉間にリボルバーを突きつける。
「終わりだ」
「いえ、まだですよ」
「なに?」
口から血を吐きながらも転移者が何かありげに笑う。遠くから聞こえる雄叫びに目を細める。見れば遠くからこちらに駆けてくる一団
「ほら来ましたよ、援軍です。」
そこはどうでも良いし、私達は帰るなら一瞬で帰ることも出来るし、この世界の戦争など私達には知った事ではないが、一応教えるか。
「確かに援軍ではあるが貴様の味方ではないぞ」
「……は?」
「アレは私が脅迫して裏切らせた味方だ。良く聞いてみろ。戦う音が聞こえるだろう?」
雄叫びの間に聞こえるのは絶え間ない金属音、地面に寝転がっている転移者は見えないだろうが私には同じ鎧を着ている兵士たちが戦っている様子がよく見える。
「そんな、私は……」
「そう言うことだ。これで戦いは貴様らの負け、多少影響は残るかもしれないが最終的には貴様が来る前と同じような状態に戻るだろう」
つまり、これで駆除は完了。私達も帰るだけだ。私はリボルバーの撃鉄を引き起こし何か言おうとする転移者の口に銃口を突きつける。
「では、さようならだ」
私はトリガーを引き銃弾を発射する。リボルバー、コルト・パイソンハンターの弾である.357マグナム弾は拳銃弾の中では一撃必殺の弾薬と高く評価されている。さらに弾丸は体内で破裂するように加工されているホローポイント、アイビーの使用するダムダム弾とは威力貫通性は劣るが、体内に残ることにより大きなダメージを与えることが出来るように設計されている。
そんな銃弾を口内にもらった転移者はどうなるか?内部による破裂で頬は破れ口裂け女に近い感じになる。口内はずたずたに引き裂かれ即死する。
だがそこは転移者だ。微妙に骨が残る。首が繋がってると危ないからリボルバーを仕舞い、頭を掴んで持ち上げ、刀を居合の要領で引き抜き首と体を別れさせる。
どさりと音がして体がビクビクと痙攣しながら首から血を流す。しばらく眺めて復活しないことを確認して死体を仕舞う。万が一を考えて首と胴体は一緒に仕舞わず別の風呂敷で包む。




