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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case7 マッチポンプな救世主
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不意打ち

 刀を振り上げた状態で転移が完了し目の前に転移者が後ろを向いているのを確認して刀を振り下ろす。刀は特にブレることもなく真っ直ぐに転移者の脳天目掛けて振り下ろされたが刀が当たる直前に転移者が振り向くように回避してしまい転移者の髪を数本切断し転移者の前にあった机を切断した。


 髪がハラハラと落ちる中、ナギ達に一言連絡を入れた後に刀を構えなおし転移者と対峙する。鎧の類は着用せずに着の身着のまま戦場に参加したような出で立ちでこちらを見る顔は驚いているように見える。


 作戦指令室として張られたテント内部は思ったよりも太陽の光が差し込みランプなどの明かりがなくともが無くとも特に見えにくいと言うことは無い。


「な、何なんですか貴方、どうやってここに」


 転移者は腰にある刀を抜きながらも疑問を口にする。その疑問をすぐには答えずにぐるりと周りを見渡す。人は私達の他に鎧を着こんでいる騎士と豪華な服を着ている貴族が数人いるな。何かわめいているが銃弾を一発天井に向けて黙らせる。転移者の取り巻き達は発砲音に驚き一瞬どよめいた後に騎士たちの数人は様子うかがうように距離を置き、と貴族や一部の騎士は一目散に逃げるのか、助けを呼びに行ったのかテントの外に出て行った。


 今回の装備は刀とリボルバーのコルトパイソン、そしてグレネード数種類だ。やはりライフルは大きすぎて邪魔だ、刀を振り回すと結構暴れるから気が散っていたのでリボルバーに切り替えることにした。


「何だっていいじゃないか、貴様は事前に予告した通り死ぬのだから」

「……そうか、貴方が異世界から俺達を殺してくる人たちですか」

「ああ、そうだ。交渉課から聞いたのか?」


どうやらこの転移者に接触した交渉課の職員はおしゃべりが過ぎたようだ。


「……それにしたって酷すぎませんか?自分は彼を殺さなかったが、場所によっては殺されると思います?あなたは何とも思わないんですか?」


 話題を変えるように転移者がこちらの話をする。


「別に、罪人は罪人として扱われるだけだ。場所によって死刑の方法が変わるのようにこちらにもこちらなりの処刑方法がある」


 国や世界によって処刑方法は異なる。電気椅子、薬物、絞首、銃殺、洗脳による兵隊化、動物の餌、私達の場合には死ぬまで交渉し続けることが処刑方法なだけだ。誰が好き好んで手ぶらで転移者に死んでほしいと言いに行くというのだ。


「そうですか」

「話は終わりだ。貴様の事情は仕方ないが死んでもらおうか」


 刀を顔の高さにまで両手で上げて切っ先を転移者に向ける。


「気が合いますね。自分もそろそろ始めようと思っていたところです」


 転移者も手のひらをこちらに向けると手のひらが淡く発光し始める。事前情報で転移者は魔法を主体として戦闘を行うことは分かっている。魔法系の攻撃は中から遠距離を主体としている場合がほとんどだ。なので魔法を用いた近距離の戦闘は総じて苦手な転移者が多い。するとしても武器を強化するなど素手での戦闘は基本的にしない。

だからあまり距離を取ることの出来ないテントの中で戦うことにした。無論転移者の魔法でなら簡単に吹き飛ばすことができるがそのひと手間を取ろうとする隙が生まれるならその前に首を跳ね飛ばす。


 少しのにらみ合いの後に場面が動く、ただし動いたのは私達ではなく私の背後に回っていた一般兵士だ。鎧を着こんでいるの物音を一切たてず、雄叫びも上げずに真っ直ぐに振り下ろされたその技量は見事であるがそれだけだ。


 振り向く勢いのまま体を捻り剣を躱し、捻った勢いのまま蹴りを兵士の顔面に向けて繰り出す。剣が空振りし無防備な状態でさらされている顔を被っている兜ごと蹴りぬく。

ベコッ!!と兜が歪み蹴られた一般兵士は真横に吹き飛びテントの壁に当たる直前で停止する。一般人相手にならこうなのだが、反射的に蹴りを繰り出してしまったのは悪手だった。

兜を蹴った右足の脛が少し痛かった。だがこれだけ強くければ意識を刈り取るのに十分な威力だ。実際起き上がる様子もない。

間違えて切り捨てるなんてことが起きる可能性が少し減って安心するが、直後に背後から、つまり転移者の方からわずかに風が流れるのを感じて即座に横に回避する。

瞬間、先ほどまで私がいた場所に何かが通り過ぎテントの布を切り裂いた。


「不意打ちとは酷くないか?」

「貴方も先ほどやっていたことですよ」

「そうだな」


 軽口を叩いてみたが正論を返された。それはその通りであるので特にこれ以上追及せずに地面を蹴って転移者に接近する。


 多分先ほどの攻撃は風系統の魔法だろう。空気を操る魔法なだけあって不可視な攻撃である。その分威力が低く布切れ一枚程度なら問題なく切り裂けるが、鎧などの金属の物体は切り裂くことが出来ない。だが、転移者の加護により車にニトログリセリンが積まれているかのように威力も攻撃範囲も他の魔法使いに比べれば段違いになる。その分転移者は大多数を制圧することばかりして細かい魔法が使用できなかったりするので少数が適任なのだが、この転移者はキチンと訓練を行っていた様だ。素晴らしい。


 攻撃の大きさも他の兵士を巻き込まないように縦方向に伸びる攻撃を行っている。風魔法なのもテントに延焼するような火は使えず、かといってテントを投下させるほどの威力の水圧も出せないこの状況ではそれが正しい。


 だからこそ接近する。どちらにしてもリボルバーはリロードの手順が少し面倒だしリロードしている間はこちらも攻撃できない。


 そして遠距離同士の攻撃は実質残弾が無制限の転移者に軍配が上がる。なので接近を試みる。転移者も風魔法で迎撃しながら後ろに下がろうとしているが、ここはテントの中こちら側にある出入り口から出ようとしなければテントの重い布を上げる必要がある。


 その内この狭い空間では遠距離攻撃を使っては戦えないと悟るだろう。テントから逃げ出せる時間が稼げないと転移者が気づいたら取れる手段は少ない。そしてこの転移者はあまり戦略には詳しくはないので瞬時に思いつく手段はさらに少なくなる。


 転移者は焦りの表情を浮かべていたが、やがて意を決したように手のひらを合わせ始めた。

直後に転移者の周囲に暴風が吹き始める。予想通りではあるが思ったよりも風が強い。テントを吹き飛ばすくらいなら前に進めたがこの勢いでは難しいな。刀での攻撃を中止し腰のホルスターから銃を引き抜き転移者に照準を合わせようとしたが暴風でメモ開けられず。体が飛ばされないように体を固定することで精いっぱいだ。

暴風はテントの中を暴れまわり固定されていない布をはためかせ、次第に勢いを増していき最後にはテントの布が吹き飛んだ。


 いきなり視界が明るくなり思わず顔をしかめるがすぐに目が光に慣れる。

転移者は手に集めている風を真下に放ちブースターのように加速して上空へと上昇する。

100mだろうかそのくらいの高度に達した時に転移者は上昇を止めてこちらをみる。

あの高度なら私の銃は届かないし、安全に魔法で攻撃できると踏んでいる。周りにいた兵士も先ほどの強風によって離れたか、距離を置いている。間違えても誤射する心配はない。

だが、それは空に攻撃が届かない人しかいなかったから通用するだけだ。

私の所には少なくとも二人いるぞ。


『準備完了です』

「撃て」


 直後にアイビーのライフルからの銃声が轟いた。


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