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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case7 マッチポンプな救世主
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貴族の話 中編

 結果として私は処刑されることは無かったが爵位没収、国外へ追放されることとなった。屋敷は取り壊し、私たち家族は王都から追い出され辺境地でひっそりと余生を過ごすことを余儀なくされた。


 当然のことながら息子は学校を中退、何十年も王国を支え仕えていた我が家は一瞬にして無くなったのだ。


 処刑されずに追放となったのは温情なのかよくわからないが、こうして追放先の朽ちかけている家屋に仕えていた執事から送られる王都の状況報告を聞くのが今の私の数少ない楽しみになっていたが、最近は憂鬱の種になっている。お家が取り壊しになると言うことは使用人を全て解雇することだ。無論、全員の再就職先は私が地べたに頭を付けて確保したがそれでも皆不安はぬぐえなかったようだ。


 私は心の中で謝りながら私を子供のころから世話をしてくれている執事に少し願い事をした。私がいなくなった後の王都の情報をたまにでいいから送ってほしいと、頼むと彼は二つ返事で了承してくれた。何も機密が知りたいわけでは無い。私がいなくなった後の王都が心配だっただけだ。私が小さいころからずっといた場所だ。それを離れるとなった時に私の後釜は大丈夫だろうかと思った。その情報で私が暗躍することはないが、それでも知りたいと思ったのだ。それから私が王都から離れて数か月に一回朝一で手紙が届くようになった。最初の数年は特に気にする内容もなく平和な内容だった。


 だが次第に不穏な内容が増えてきた。


 始めは王国の奴隷制度が廃止されたと言うことだ。


 次に税金が異常に安くなったと手紙に書かれていた。


 その次の手紙は徴兵制度が廃止されたと書かれていた。


 その手紙を読み終えるたび私は酒が飲みたくなった。ここに書かれていることが嘘で会って欲しいと願いながら、もう一度手紙を読むが書いてある内容は毎回変わらなかった。

奴隷制度は我が国にとって大事な部分でもある。軽犯罪から重犯罪、そして借金奴隷に至るまで大事な我が国の一員であることに違いない。


 奴隷の一番の使い道は労働だ。犯罪奴隷は重労働が主な仕事先だが、借金奴隷は借金返済まで荷物運びから工場の従業員まで多岐にわたり、どちらも我が国を支える縁の下の力持ちである。

そして奴隷だろうと不当な扱いはせずにしっかりと契約をして、労働環境を整え、労働させる。女子供の奴隷ならば内職など重労働にならない仕事を割り当てる。奴隷の種類によるが、奴隷契約が終わった後に生活に困らないように正社員よりは少ないが給与が支給される奴隷もある。またこの制度は奴隷にも、仕事によるスキルアップや、奴隷期間を終えた後に改めて同じ場所に今度は正社員として就職したりとメリットがある。


 税金も高くし過ぎると領民から反感を買うが、毎年の収穫量を見て適切に徴収すれば、そこまで酷くはならないし、一部を毎年貯蓄することで飢饉の際に放出して餓死者を減らす目的もある。また王だからと言ってお金を無尽蔵に生み出せるなんてことは無く、決まりがある。その決まりとは別に国家予算を増やすのが税金だ。


 一定年齢に達した平民を兵隊として徴収する徴兵制度も、平民からは不満の声が上がったが国の平和を守るためだ。ただでさえ、隣の国はありもしない事実をでっちあげて何かと文句やら賠償金やらを請求するやつらだ。無論そんなよくわからない要求は無視しているが、いつ責められてもおかしくはない。それを防ぐためにそして万が一攻められるような事態になった際に国民に自衛手段を憶えさせるのと、いざとなった時に兵隊として動かせる者が多ければそれだけ勝算が上がるというものだ。


 だが、この手紙を読む限りでは奴隷の無くなった穴を埋める政策が撃ちだされているわけでもなく、税金に至っては毎年貯蓄している量にも及ばない程に減額されている。徴兵制度に至っては騎士団の増員で補うと書かれている。


 騎士団の給与や維持費が高いから徴兵制度を採用したという背景があるのにこれでは意味もない。奴隷制度や税金だって廃止するのなら少しずつ少なくして同時に不足分を補う政策を出さなければならないのに、それを一切に行わずに決行した結果、足りない分を補う為に通貨を王都以外の貴族からお金を搾り取ろうとし、それに反発した貴族たちが品物を制限した結果物価の高騰。それを抑えようとした貨幣の増量に寄り物の価値がトンデモナイ勢いで値上がりをしているそうだ。品物を増やそうにも工場で働いていた奴隷を埋める労働者が不足して生産量低下、場所によっては閉鎖まで動いている様だ。


 全ての文章を読みおえる前から思わず手に力が入り手紙がクシャクシャになる。

一体向こうで何があったんだ!こんな政策を行うなんて陛下は何を考えているんだ!いやそれよりも周りの貴族共は何をやっている。全員とまではいかないがその全員が国がより良くなればとぶつかり合った戦友たちだ。そんな彼らが、こんな政策を容認するわけがない。

確かめなければ。例え打ち首になろうとも私の愛する故国のために動く、それが私の覚悟だ。


「父さんそろそろ」


 息子の声にハッとして気が付く、もう朝日が昇りかけている。もうそろそろ畑に行かないといけない時間だ。手紙の続きは仕事が終わってからにして、取り合えず今後の事を家族に話さなければならないと思い手紙を棚に仕舞い畑の様子を見に出かけた。

しかし、私が動き出す前に事態が動き出した。


 夕食を食べる為に私より先に帰った息子が帰ってこないのだ。いや正確には一回家に帰って来ていた様だ。妻の証言では帰った後、少ししてもう一度出かけたそうだ。てっきり私の所に戻ったと思っていたと言っていたが当然私の所には戻って来ていない。


 一体どこに行ったんだと焦りながら周辺を探すが、どこにも見当たらない。日も落ちてきているしこれ以上の捜索は危険だ。私としては辞めたくはないがこれ以上探せば私も妻も危険が伴う。息子を探すために私たちまでいなくなってしまえば本末転倒だ。まだ探そうとする妻を説得して重たい足取りで家に戻る。家には夕食が並べられているがとても食べたいと思える状況ではない。

作られた料理に手を付けずにお互い席に座って沈黙が家の中に嫌というほどのしかかる。

その空気から逃れたかった。ふと何か空気を変える為の話題作りをしようと視線を上げた時にとあるものが視界に留まった。


 手紙だ。手紙が広げられた状態で机の上に置かれていた。

おかしい手紙は確かに棚にしまっておいたはずだ、何でここに置いてある?

何か嫌な予感を感じながら手紙の続きを読み始める。

手紙の続きには私が貴族から追放された夜、陛下と一緒にいた少年と陛下の娘である王女殿下が婚約発表したことが書いてあった。


 ……は?


 一瞬思考が停止する。平民と貴族が婚約する?一体どういうことだと手紙の続きを読み始める。どうやら、今までの手紙に書かれていた政策を打ち出していたのはあの時の少年、名前はヨイ=アカツキというそうだ。そのアカツキがいなくなった私の代わりに政策を出していたようだ。他にも王都にいる闇組織の掃討、その組織とズブズブの関係にいた貴族の捜索と粛清、王都の闇の部分を洗い出している。


 この少年は必要悪というのを知らないのか?何事もきれいごとで済ますことは出来ない局面がある。そのための彼らであり、彼らも彼らにしかできない部分から王都で活動している。いわば王都の汚れ役と言っても過言ではない。

まるで悪を全否定して善だけを信じる子供の様だ。そして手紙を読む限りその悪が埋めていた穴を補填する動きは一切していないようだ。

このまま行けば王国は確実に滅びる。本来なら何十年もかけて行うべき政策をこんな短期間で次々と実行すれば国政がガタガタになる。その前に止めなければ!そう考えた直後に一つの考えが頭をよぎる。息子はこの手紙を読んだのではないか?そして今王都で起きている事を知り、何とかしたいと思い飛び出したのではないかと。


 私はすぐに家を出て裏手にある厩舎に向かう。私達が近くの町に買い物に行ったりする際に乗る馬が2頭いるはずなのだが、一頭いなくなっている。脱走したわけでは無い。なぜなら一緒に置いてある鞍も無くなっているからだ。二頭ともいなくなっているのではなく、一頭無事と言うことは盗賊の仕業ではない。盗賊なら両方盗み家にも押し入っている。ということはやはり息子が乗って行ったということだ。目的地は言うまでもなく王都だろう。

息子も私のように国を愛している。今回のような無茶苦茶を知っていてもたってもいられなくなったのだろう。

しかし、今追いかけるのは危険だ。追いかけるとしても夜が明けてから私一人で行った方がいい。追放された王都で捕まるようなことになれば、どのような結末になるのかは目に見えている。そんな危険な所に妻を行かせるわけにはいかない。寂しい思いをさせるかもしれないが納得してもらう。

家に戻り妻にそう説明し寝る前に出発する準備を進めようとした。家に戻り、いつになく弱弱しい妻にゆっくりと説明し、ここで待つように話したらビンタされた。頬に鈍く響いている痛みに一瞬呆けるがすぐに気が付き妻の方を見る。


「貴方の隣が私のいる場所です。それが何処であろうとついていくのが私です」


 先ほどまでの姿は何処に行ったのか、覚悟完了した顔でそう宣言し私よりも先に出発の準備を始めた。


 ……いやいやいや、落ちぶれても私は家の長である。愛する妻を危険地帯に向かわせるわけにはいかない。何とか止めようと説得に説得を重ねたが妻が折れることは無く、逆に私が折れる結果に終わった。流石王家もいる魔境のごときお茶会を汗一つかかずに乗り切った妻だ。そしてこうなった妻は何者にも動かせないことを私は知っている。なぜなら、その心の強さに惚れて婚約を申し込んだのだから。そして今、再び惚れ直した。


 そして私も覚悟を決める。夜が終わり空が白くなってきたころ私と妻は同じ馬に乗り出発する。これでも乗馬は貴族の頃から嗜んでいた。追放されてからも世話や散歩の時に乗りこなしていたので特に不安もなく街道を駆けていく。

私達が住んでいる地区から王都まで最短で数週間かかる。しかし道中ずっと馬に走らせるわけにも行かないので途中途中で休憩しながら少しずつ王都に近づいていくので実際に到着するのはもっと遅くなる。本当はもっと急ぎたいのだが、馬を強引に走らせて使い物にならなくなるよりは、しっかり休ませないといけない。息子を追いかける間、王都への道中にある村や町で息子を見なかったのか聞き込みをしてみるとほとんどの町で見たという人がいたので息子は王都に向かっていると見て間違いない。乗っている量の問題か、息子を見かけたという日がどんどん離れていき、王都に着くころには一週間の日にちが空いていた。


 さて、問題は王都にどう侵入するかだ。王都周辺は高い城壁と堀に囲われており、入るには検問所を通過する必要がある。私の顔が分からない道中の村や町ならまだしも流石に王都ではバレてしまうかもしれない。王都に入れさえすれば何とでも出来るのだが……


 結局、身銭を切って賄賂を贈り何とか王都に侵入することが出来た。


 王都の様子は私の頃とは打って変わって活気に満ち溢れていた。手紙に書いている事が本当なら税金減税、裏の組織掃討、徴兵で働き盛りの男を取られないといいところばかりだ。

しかし、税金の減少率が異常だ。これでは納税率が倍になっても国の支出に追い付かない。

私達はなるべく顔を隠しながら裏の組織に接触を試みた。手紙で大体の組織が摘発されていると書かれていたが、完全に壊滅したとは書かれていない。私達が現状身を寄せられるのはあそこしかない。


 彼らを好待遇にしたことは無かったが冷遇した覚えもない。そう思い裏に足を踏み入れたほぼ直後に誰かに拉致された。

抵抗をしようとしたが頭に何かをかぶせられて、手足を縛られ身動き一つとれない状態だ。そのままどこかに運ばれるのを感じながら、曲がり角を曲がるたびに頭にある地図を参照する。段々中央からそれてスラム街に向かっている様だ。物取りならそこらへんに物だけ取ってそこら辺に転がすだろうし、王国の騎士とかならスラム街に向かう理由が無い。であるなら答えは絞られる。

しばらく揺られていたがどこかの建物に入った後に地下に降りている様だ。扉が開く音がして椅子のような物に座らされて被り物をはがされた。


 予想通り地下室らしく正面には一人の男が座っていた。

ボサボサの髪に無精ひげを生やした壮年の男、私が探していた人物の『ボス』だ。無論本名ではない。


「よお、元貴族様、俺の事は知っているか?」


 そう挑発的に笑う奴とは裏腹に今置かれている状況に少し驚く。ボスは裏社会を牛耳っていた裏の王だ。私がいた頃にはもっと多くの部下がいたと聞いていたのだが、この部屋には私と奴の方に私を運んだであろう二組の男がいるだけだ。部屋にも人が隠れられそうな場所は無く、ただ石造りの壁がむき出しに配置されている。


「ボスだろう?裏社会の王の」


 内心いきなり話せるとは思わず狼狽しながらも、それを顔に出さないように話を続ける。部屋に妻の姿が見えないのは気がかりだが裏には裏のルールがある。流石にいきなり殺すことは無いだろう。


「よく知ってるな。ま、今じゃ十数人のチンピラを束ねたお山の大将になり下がったがな」


 そう言って力なく笑う。やはり、彼の所にも粛正の波が来ていたか、だが裏ではそれなりの勢力の頭をはっていた。彼をここまで落とすとは今の騎士団はそこまで力があるのか。


「やはり、裏組織の粛清の影響か、しかし貴様をここまで追い詰めるとはいったいどれほどの騎士団が動員されたのか」


「……一人だよ」


「え」


「一人のガキに俺達の組織は壊滅させられた」


「子供?外見とかの特徴はわかるか?」


 私の脳裏にはあの少年、ヨイ アカツキの顔が思い浮かぶが多分違うだろう。


「黒髪、平たい顔をした男だ。この辺りじゃ見ない変な格好をしていた」


まぎれもなく彼だった。

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