転移してから
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浮遊感が収まって目を開けると私と隊長は橋の上に立っていました。周囲に人の気配はなく、少し遠くを見ると平原の先に町の影がうっすらと見えます。橋の反対側を見るとうって変わって木々が生い茂っている森がありました。橋から続いている道に沿って木々が無くなっていますが、それでも森の中は茂みがあるので見通しが悪そうです。
「隊長、ここは?」
隣にいるはずの隊長に聞きます。
「ここは、隠し通路の出口付近にある橋の上だ。見ろ」
隊長は橋の高欄に寄りかかり下を指差しました。私も隊長の隣に行き下を見ます。石造りの橋の下には少し大きな川が流れているのが見えます。深さは分かりませんが、川の流れがゆっくりなので、多分それなりの深さがあるのでしょう。入ったら溺れてしまいそうです。
そんなことを思いながら、隊長が指を指さした先をよく見ると川に明らかに人工的なそれでいて人が通れそうな通路が繋がっているのが見えます。
「あそこが隠し通路の出口だ。普段は下水を流す通路だが、一応隠し通路の出口となっているようだ。私達はあそこを監視すればいい」
「わかりました」
「よし、じゃあ出番が来るまでのんびり待つとするか…」
そう言って隊長は懐から最期までチョコたっぷりなお菓子と知恵の輪を取り出して、川逃れを眺めながら知恵の輪を弄って休憩し始めました。
「隊長何を…」
余りに予想外過ぎる行動に理解が追い付かないでいると隊長が私の方を見ました。しばらく隊長は何かを考えた後に
「食うか?」
そう言ってお菓子の箱を私に差し出して来ます。
「あ、ありがとうございます。いただきます……いえ、そうじゃなくて!監視ですよね?何で呑気にくつろいでるんですか!」
反射的に一本受け取ってしまいましたが、今は一応仕事中で向こうの方ではナギさん達が戦っているというのに、何呑気にお菓子食べて知恵の輪解いているんですか!この隊長は!もっと緊張感とか持ってください。
「そう怒らないでくれ、えっと…あれだ…禿げるぞ」
緊張を解くために冗談を言ったのかもしれませんが、今回の場合は逆効果です。明らかに挑発しているようにしか聞こえません。
「怒らせているのは隊長です。私だって本当は向こうに行きたいですし、やりたいことがあるんです。それを頑張って飲み込んで隊長の指示に従ったのに、こんなのんびりする為に来たんじゃないんです」
私はフレアさんに話さないといけないことがあったのに、こんなところでのんびりしている暇はないんです。
「そうか、だがずっと気を張っているのも無理な話だろう?」
そう言われると否定はできません。私も集中はあまり長く続かない性格なのでここで一切集中を途切れさせずに監視を知ろと言われたら、それこそ無理な話です。でもそれだと少し疑問に思うことが一点だけ存在します。
「それは、そうですが…でも、そしたら隊長はどうしてここを担当したんですか?私の勝手なイメージだと仕事中にこうやって過ごしている隊長は意外だったのですが」
私が思っている仕事中の隊長は転移者や転生者に喜び勇んで突撃するイメージがあります。今までの隊長のイメージだとここでのんびりするのが分かっていたのなら、ここは他の人に任せて隊長は攻めの部隊の方に参加しそうなイメージがあります。
「それはあれだ、ナギ達にお願いされてな。今までは転移者や転生者はものすごく危険な存在だから対応する人数を出来る限り絞ることにして大体の転移者や転生者は私ともう一人で対応して、他の皆が一般人の無力化をするのが理想的な作業だったから今までそうしていただけだ」
お菓子を口に運びながら話している隊長を見て、私も一本貰っている事を思い出して自分がずっと持っていたお菓子を口にします。最後の手に持っていた部分は汗のせいでふやけていましたが、それでもチョコは美味しかったですしスナック?も美味しかったです。
「今回の件も本当はナギにここを任せるつもりだったのだが『ずっと隊長が転移者と転生者の相手をしていたので、今回は私達に任せてください』と言われてな。本当は今回も私が相手をしたかったのだが、ナギ達の心配も理解できるから今回は折れることにして一度だけ変わってもらうことにしたんだ」
そう言ってカチャカチャと知恵の輪を弄っている隊長の顔は少し嬉しそうな顔をしています。ナギさん達に心配されて嬉しいのか転移者や転生者と戦わなくていいから嬉しいのかは私には分かりかねますが、どちらにしても隊長はこの状況になっているのが何よりうれしいみたいです。
「それにずっと緊張しっぱなしなのは無理な話だ。私達も一応生きているのだから、集中がずっと続くこと何てありえない。時が来るまではやり過ぎない程度に気を抜いた方が良い結果が出るんだ。アイビーの覚悟も思いも分かったが、どちらにしても私達の仕事はここに転移者が出てこない限り出番はない」
「そうですが…」
それでも、今の隊長みたいにのんびりできるわけありません。そこまで肝は据わっていません。
「まぁ、無理に休む必要はないが、それでも多少肩の力は抜いておけ。もし出番が来た時にそんな調子じゃ言いたいことも言えなくなるぞ」
隊長の言うことも分かりますが、どうやって休めばいいのでしょうか?
「…わかりました」
取り合えず落ち着くことにしようと、隊長の隣に立って川を眺めて気持ちを落ち着かせます。周りには人影が無く、耳をすませば川の流れる音と偶に頭上を通る鳥の鳴き声が聞こえるだけで、この辺りは平和そのものですね。自然と笑みがこぼれます。今ここにいるのが仕事じゃなければ釣りをしたいところです。
隊長がその様子を見て満足げに頷くと同時にバキッ!と言う音が隊長の手元でなりました。隊長が手元に視線を移すと、絡まっていた知恵の輪の金属部分が粉々に砕け散って破片が音を立てて川に落ちて行きました。
「あ…」
隊長が思わず声を上げますが後の祭り状態で、隊長の手元には知恵の輪の持ち手部分だけが残されています。隊長はしばらく固まっていましたが、やがてため息をついた後に残念そうな声で
「この前買ったばかりなのについてないな…」
そうつぶやきながら、粉々になった知恵の輪の残骸を仕舞って隊長はお菓子をタバコみたいに咥えながら川を眺めるのを再開しました。その背中には悲しさがあるようにも感じます。




