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異世界転移・転生対策課  作者: 紫烏賊
case6 幸せな未来を壊せ
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残った人たち

 アイビーが出て行って少しした後に、ナギとセラが追いかける為に席を立って私に目配せをしてから部屋から出て行く。


「…あれでいいのだろうか」


 その言葉は残っているユッカとバロックに向けてではなく自分自身に問いかける。答えは私にも分からない。見つからない。もとより人の内面を察するのが苦手な私が見つけられるものでもないだろう。


「それは俺も分からないっス。でも、今のアイビーちゃんの状態は、いつかはぶつかることになることっスから、今超えないといけないっス。それがアイビーちゃんのためっスから」


 それは分かっている。私達がどこかの世界に訪れて繋がりを持つということは、当然ながら転移者や転生者と出会うリスクが高くなる。もちろんすべての世界にいるわけでは無いしそんな草むらに入ってすぐにエンカウントするような物でもない。可能性で言えば通り魔に出会ってしまう確率よりもはるかに低い。だから私もまだまだ先の事だろうと楽観視してしまっていた。だから、ナギから報告を受けた時は本当に驚いたし、動揺した。


 そして、一瞬報告するかも躊躇ったが、アイビーのためとは言えわざと報告しないのは駄目だと思い、断腸の思いで報告した。だが、報告した後に私の部隊に処理を振られるのも予想外だった。上曰く、『復旧で回せる人員が無いし、新しく作っても練度不足で無駄死にになってしまう。今手が空いている部隊が君の部隊しかないんだ』と言ってきた。


 正直ふざけるな!と言いたいところだが他の部隊は実際ほとんど何かしらの事情で手が空いてない。元々来る仕事も転移者が死亡したことによって本来は追加休暇にする予定だったので代わりにこの仕事が入ったという訳らしい。仕事が決まった以上文句を言うことは出来ても拒否することは出来ない。たった一人のために仕事をキャンセルすることはできない。それが決まりだ。そう納得はしたが問題はアイビーだ。訓練の合間に彼女の友人の話は聞いている。出会ったのは数日程度ではあったが、その間に確かな信頼関係を築けていたようでとても嬉しく思った。願わくばそのまま良い友人関係でいて欲しかったが、現実は残酷なものだ。


「そうだな。それとユッカ、済まないな嫌われ役をやってもらって」


「大丈夫っスよ隊長、俺から頼んだことっスから、その分アイビーちゃんの背中を押すのは任せるっスよ」


「ああ、分かっている。ナギ達にも悪いことをさせた、後で謝らなければ」


 ユッカには先ほどの会話の中で嫌われ者、汚れ役をやってもらった。本当なら私がやりたかった所だが『隊長は隊長で皆のまとめ役っスから嫌われるのは駄目っス。そういうのはお調子者役の俺の仕事っス』と言って強引に変わられた。不満はあるがユッカの言うことにも一理あるのは確かだ。不承不承ながらユッカに同意して汚れ役を頼むことにした。


 次にナギ達三人にはブリーフィング前に集まってもらって事情を説明して私とユッカ以外がしゃべると問題が複雑化する可能性を考えて、ブリーフィング中は離さないで欲しいと頼んでいた。そのかわり、納得しようがしまいが、どちらにしてもアイビーは傷つくことになるからフォローをしてあげて欲しいとお願いしていた。


 私やユッカ達が行くよりもアイビーと同じ立場で立てるセラに私よりもしっかりしているナギを向かわせた方が良いだろうと判断した。


「で、アイビーさんが立ち直ったら戦わせるんですか?」


 バロックがトレイに皆のコップを回収しながら確かめるように私に聞いてくる。


「いや、私は鬼じゃない。友人と殺しあうなんてアイビーが耐えられるかわからん。他に適当な理由を付けて後方待機にさせる」


 出来れば逃走者が出ないように監視とか武器を最低限にしてグレネードでかく乱させるだけに徹するようにさせることにする予定だ。


「そうっスね。問題はアイビーちゃんが立ち直るかですけど」


「それは、アイビー次第だ。無論私達も出来るだけ支えるが、最期に立つのはアイビーの力だけだ」


 正直な所どんなに励ましても応援しても道を作っても、最終的に立って歩き出すのはその人自身だ。その力がアイビーにあるかと言われると正直不安だ。以前も後の事を考えずに良かれと思って助けたことを私に注意された時は少し引きずっていた。今回はそれの日じゃない位の出来事だ。しかし、アイビーには乗り越えてもらわないといけない。そうでもしないと、いつか押しつぶされる時が来てしまうからその日が来ない為にこうしたのだ。


「心配ですね」


 私の心中を察してかバロックが同調する。


「ああ、だがこればかりはアイビー次第だ」


 本当にこれがアイビーの為になるのか?嫌がっている彼女に良かれと思ってやってはいるが結果的に彼女を追い詰めてないか?いやいや元々、この仕事が決まった時点でアイビーがこうなるのは予想していた。だからこれはアイビーを信じる為にやっていることだ。しかし、その信じるのも勝手に信じられて迷惑しているのではないか?いや…違う…


 自分の中に生まれてくるマイナスな考えを頭から消すために、目の前に残っていたコップの中身を一気に飲み干す。慣れないコーヒーの苦みで涙目になりながらコップを机の上に置くと、バロックがそれを回収した。


「そう言えばバロックは追いかけないのか?」


 てっきりナギ達と一緒に追いかける物だと勝手に思っていたから、ここでのんびしりしているのに驚く。


「私はここの三番目の古株ですから、アイビーさんはナギさんとセラさんに任せて私はここの後片づけと三人が戻ってきた時に出す飲み物の準備でもしようかと。隊長こそ追いかけると思ったのですが?」


 そう言えばそうだったな。ナギは創造課からの途中編入で合流したから私とユッカを覗くとバロックが三番目と言うことになる。自身はそのことを余り大っぴらには言わないが自覚はあるからこうして裏方に回っているのだろう。


「私はユッカほどではないがアイビーを追い詰める一因になってしまった。その私が追いかければアイビーが過剰に反応してしまうかもしれない。だから、私とユッカはナギ達の代わりに記録課で調べ物をしているさ」


 そう言って突っ立ているユッカの腕を掴んで部屋を出て記録課に向けて歩き出す。帰った時にアイビーがいたらちゃんと謝らないとな。

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