『ソ』の力
「これ後で絶対室長から怒られますよね」
手を合わせてバイクを弔った後に顔を上げながらユッカが思い出したように言った。
「…一応、借りものだからな。思いっきりぶち壊したが、その分あの転移者のバイクもあるから少しは軽くなると思うぞ。あと他の部隊に連絡してくれ転移者の処理は完了したと」
「了解っス」
ユッカがインカムを操作して何処かと話し始めたのを確認して、持っていたミニミを置いて絡み合い炎上する二台に近づき、その内の転移者が乗っていたバイクの残骸を持ち上げる。あの室長ならこのバイクの残骸を渡せばある程度の事は許してくれるだろう。どちらにしても一度謝りに行くつもりだが…
「…ウッ」
頭上から声がして顔を上げると転移者の顔が私の真上にあった。顔中傷だらけで血が滲んで痛々しい。転移者は顔を一度しかめた後にうっすらと目を開けて私を見た途端に噛みつかんばかりの顔をして私を睨みつける。
「てめえ!」
「起きたのか、起きない方が楽に死ねたのに」
「ふざけ…な!?」
体を動かそうとして自分の状態にようやく気が付く。両腕両足が『ソ』に埋まり壁に埋まっているような状態でいる。そして、その体も徐々に『ソ』の中に沈んでいっている。
「どうなってんだよこれ!」
転移者が必死に体を動かして『ソ』から出ようともがくが、暴れれば暴れるほどに『ソ』に体が沈んでいく。そこまで沈むと私の刀も吸い込まれるかもしれないから切れないな。
「無駄だ。これは殺した転移者を処理する場所で、お前が入っているのは転移者を入れる言わばゴミ箱のような物だ。抵抗したら辛いだけだ」
「ふざけるな!こんな終わり方は嫌だ!俺はまだあいつらに言ってないことが!」
「それはそちらの事情だ。私達も急に殺しに行ったわけでは無い。キチンと通達しお前が拒否したから殺しただけだ。それを何の準備も覚悟もなく今までと同じように軽い気持ちで戦いに臨んだお前の落ち度だ。よくあるだろ、言いたいことを後でと言った奴はその戦いで死んだりする。そうなっただけだ」
いつ死ぬか分からないからこそ私達は休日に悔いが残らないようにするし、企画も休日に入ってから決める。毎回、出かけるたびに帰らないかもしれないと考えないから死ぬ時に後悔する。
「なんで!俺は神様に選ばれた…そうだこんなことをして神様が何もしないとでも!」
そこまで言った所で後ろから足音が聞こえ振り返る。
「ん、また先客だ」
「…ガスティか」
近づいてきたのは315殺神隊の隊長のガスティだ。片手にはポリタンクを持って私の隣まで歩いてきて冷ややかな目で私と一緒に転移者を見上げる。
「そう、そこで生きながら飲み込まれているが、ここで暴れた奴?」
「ああ、今『ソ』に入ったからな無事に飲み込まれるのを見ている所だ。そっちは仕事帰りか?」
「そう、そこの転移者を別世界に送りこみやがった神様が殺害できたから、今から『ソ』に戻すところ」
そう言ってガスティが持っていたポリタンクを重そうに持ち上げる。そして『ソ』の光で透けて見える中身が揺れる。どうやら無事に神を殺すことが出来たようでなによりだ。
「…嘘だ!」
ただ一人だけ転移者が顔を青ざめながら首を振りながら嘘だと繰り返す。
「本当だ、見るか?」
そう言ってポリタンクのふたを開けて中身が見えるように持ち上げるがそれを私が止める。
「それを見しても神だと分からないと思うぞ。ガスティの戦い方は荒いからな」
「…それも、そうか」
「ふ、ふざけるな!…そうだ」
何か思いついた顔をして転移者が何かを集中したが、すぐに目を開けて焦り出す。
「な、何で魔法もメニューも出ないんだ」
ああ、メニューとか魔法を使って打開策を探ろうとしたのか。だが、何であろうと『ソ』は取り込んでしまうのでメニューも魔法も生み出した瞬間に『ソ』に取り込まれるので意味はない。
「さて、そろそろさようならだが、最期に言いたいことはあるか?」
いよいよ転移者の後頭部を『ソ』が取り込み始めた。もう体の半分くらいが『ソ』の中に取り込まれている。
「な、なあ助けてくれよ!俺は知らなかったんだ!神様からの力を持って異世界に行くことが駄目な事なんて、だから許してくれ!もう元の世界に行ってもいいからさ!」
涙を流しながら転移者が訴えかける。
「それは無理な相談だ」
「犯罪者を知らなかったで許すわけないでしょ」
犯罪者が知らなかったで許される国家があるなんて世界は何処にもない。ここは私達は違反した時点で死刑が確定するからどの世界の法律よりも厳しいがそれも仕方ない。神の力の除去が『ソ』に入れて完全分解しか方法がない現状、死は逃れられないからこうするしかない。
しかし、そんな意図など転移者には通じることもなく、転移者の表情が変わりこの世の全てを恨むがごとく顔を真っ赤にして怒鳴り始める。
「クソォ!恨んでやる!絶対お前らは滅ぶことになる!今に優越感に浸ってろ!絶対に復讐してやるからなぁ!!」
そう恨み言を言いながら転移者が『ソ』に取り込まれていく。最後の最後まで恨みながら『ソ』の中に消えて行った。
…別に誰も優越感になど浸っていない。人を殺して優越感に浸れるほど、私は異常でもない。いつも一杯一杯だ。あるのは無事に終わった安堵感と私の部隊から誰も欠けることなく仕事を終えることが出来た安心感だけだ。
「…大丈夫か?」
ガスティが少し心配して声をかけてくれた。
「大丈夫だ」
「それならいい。俺も仕事をしないと」
ガスティがそう言って持っていたポリタンクを『ソ』の中に入れて、全部が中に入ったのを見届けてから私に軽く会釈して帰っていく。
一息入れる間もなく今度はユッカがめんどくさそうに頭を掻きながら近づいてきた。
「隊長、上から返事が来ました。『色々言いたいことがあるから来い』だそうっス」
「わかった。ナギ達はどうしてる?」
「ひとまず召集されたのは隊長とナギだけ何で、治療が必要なアイビーちゃんはバロックが背負って能力課にセラちゃんも一緒について行ってるみたいッス」
「そうか、なら問題はなさそうだな。ひとまずそこの燃えてる二台を消化してから、上の用事を済ませるとしよう」
私とユッカは協力して消火活動をして、火が消えた頃に他の部隊が来たので後を任せて上の待つ部屋に向かった。




