ゴミ箱へ
「ケホ…ケホ…」
立ち込める土煙をかき分けながら一番高い瓦礫の上に立つ。見える範囲に人影が無く瓦礫と瓦礫に潰された魔獣の姿だけが見える。
「誰か無事な者はいないか!」
その呼びかけに答えるように瓦礫の一部が動き始める。瓦礫が落ちた直後は防御魔法で防げてはいたが、戦闘による消耗が激しかったようで途中で魔法が消えてしまった。幸い全ての瓦礫を受け止めた後に消えたので落ちる勢いは殺されていて、私達からするとあまり危険ではなかった。
「いやぁ、派手に落ちたなぁ!」
瓦礫を押しのけてナワニが出てきたのを皮切りに他の部隊の面々も姿を現してきた。ホッとするのも束の間インカムにも通信が入る。
『隊長、ナギです。後方組全員無事です』
「そうか、アイビー達の方も無事か?」
『はい、今確認中ですが、アイビーさん達負傷者の所には瓦礫が届いていないそうです。今の所ですが、瓦礫が落ちたことによる脱落者はいません』
ただしとナギが続けた。どうやら躱せずに瓦礫に挟まれてしまった者が数名いるようで、下手に動かすと瓦礫が連鎖して大きく崩れる危険があるから現在無事な人を動かして救助作業を行っている様だ。
「そうか、ご苦労。ナギはそのまま、そちらの指揮を執っていてくれ」
『了解しました。それとこちらに治療関係の方が転移されてきたので、少ししたらアイビーさんとバロックさんとセラさんの三人をそちらに送り出します』
「わかった。また、何かあったら連絡してくれ」
ナギからの返事を聞いて通信を切り転移者の方を見る。転移者の辺りには特に大きな瓦礫が散乱している。見える範囲には死体が見当たらないが、あの程度で死ぬとは到底思えない。キチンと死体を確認するまでは油断できない。一度瓦礫の上から降りて転移者がいたあたりに向かう。歩けば歩くほど魔獣の血の匂いが濃くなっていく。むせかえるほど気持ち悪い匂いだ。眉をひそめながら奥に行くと一際重たそうな瓦礫がたたずんでいた。丁度この辺りに転移者がいたはずだが、この瓦礫の下にいるのか?
そう思って何気なく瓦礫に触れると瓦礫が動き出した。
「…くそがぁ!」
その叫び声と共に瓦礫がこちらに飛んで来るのをすんでの所で避ける。飛んで行った瓦礫が他の瓦礫に当たってバラバラになる。瓦礫のあったところに目を向けると転移者が立っていた。片方の腕が折れてねじれている。片方の足が足首で立っているせいで力が入らずに内またで倒れそうになりながら立っている。
「まだ、生きるか」
もう苦しまずに死んでほしい。これ以上私の仲間を殺さずに死んでほしい。これ以上私を苦しませずに死んでほしい。
「当たり前だろ!死にたくないからな!」
肩上下させて全身で息をしながら転移者がポーションを取り出して中身を頭に振りかける。すると何かに気が付いたような顔をして転移者が段々と蒼くなる。
「そうだ、俺は死にたくないんだ!かっこつけて死ぬのに憧れていたが死ぬのは怖いんだ、痛いんだ、辛いんだ」
嫌な音を立てながら足首の向きが元に戻る。腕に力が入っている。内またで立っているのがやっとに見えていたのにしっかり地面を踏みつけて立っている。歪んでいく体が治って行っている。
「今分かった、俺は死にたくないから死にたくない。死にたくないんだぁ!」
何か錯乱したかのように転移者が叫びながら攻撃してくる。力におぼれたのかマトモになったのかは分からないが、とにかく攻撃をしてきている。魔獣を出さなくなって武器を振り回し始めた今がチャンスではあるが、他の奴らは救助作業中でまだこっちに来ることがついていない。むしろ二次被害とか出ると余計混乱しそうだ。
しかも、今の所コイツの殺し方が思い浮かばない。隙を与えず攻撃を続ければいいのだが、今の私が使える手が少なすぎて厳しい。武器に至っては刀一本だけでグレネードも銃もない。刀一本で今の転移者を殺すのは難しい。
「アアアアアアァァァァ!!」
しかも転移者の攻撃も今までの攻撃よりも明らかに変わっている。力で押すのではなく質と技で押して来ている感じだ。大振りではなく細かく高威力ではなく低威力で確実に反撃の手を潰していく攻撃を出してくるため、よけにくく防ぎにくい。
そして、攻撃を繰り出すたびに足元の瓦礫が崩れていき、あちこちで悲鳴が上がる。このままいけば瓦礫に挟まっている部隊員がさらに増えてしまう。ひとまず、ここから転移者を離した方がいい。連れて行くならあそこしかない
「こっちだ!」
そう叫んでこの墓所の出口に向かって走り出すのと同時にナギに連絡を入れる。背後で魔爆発が起きて体が押されて体勢を崩しかけるが側転の動きで何とか立て直して走る。
「ナギ!転移者が生きていた!救助作業の邪魔にならない様に転移者を想像課まで誘導する」
『え?えっと…』
あまりに突然すぎる通信に困惑を隠せていないが、今はそれどころじゃない。私はナギの返事を聞かずに続ける。
「創造課に出るための通路にまだ機雷があるのだろう?今から残った残弾で通路内の機雷を吹き飛ばせ!」
『あ、はい!了解しました!』
「あと、私に何か銃を渡して欲しい。私も移動しながら撃つ」
そう言って通信を切ると、ユッカとナワニがこちらに合流してきた。
「ほんましつこいな。しぶとさで言ったらGというよりもクマムシやな」
「そうっスね。本当に大人しく死んでくれない嫌な連中っスよね」
唯一遠距離武器であるリボルバーを撃って反撃しながらユッカが答える。
「それで隊長天丼が駄目になっちゃったッスけどこの後はどうするんスか?」
「簡単だ。ゴミを直接ゴミ箱に叩きこむ為に創造課に行く」
「ゴミ箱‥‥ああなるほど、アレか確かにその方が手っ取り早いな」
ナワニが納得したように頷く。ユッカもとても面白そうににやけながら頷いている。
そのまま魔法を躱しながら通路を進んでいると瓦礫の陰で何かが動いた。
「隊長!」
瓦礫の陰からナギが出てきて手に持っている物を私に投げる。慌ててそれを受け止めて見ると、ミニミ軽機関銃だ。おまけに予備のマガジンも付いている。
「一応魔法と銃弾による攻撃で機雷の除去を試みましたが、まだ通路の半分程度しか除去できていません」
「わかった。その先はこれで除去しながら進む。ナギ達も後から追ってこい」
ナギのサムズアップを見てから私は前を向く。




