ダンジョンの主
「え?転移者って生き返ることがあるんですか?」
何気なしに聞いた後に驚きましたが、転移者が生き返るってしれっと言っていますけど結構すごい事ですよね。
「ああ、全員ではないが偶に生き返る奴がいたりする。だが生き返ると言っても方法は色々ある。魔法による蘇生魔法、アイテムによる蘇生、その他にも色々あるが…今回はアイテムによる蘇生の様のようだ」
資料を確認しながら隊長はナギさんが煎れてきたコーヒーを一口飲みました。FAXのアラームは隊長が操作してすでに止めています。
「アイテムっスか、他にも持っている可能性はありそうっスね…とりあえず、この後どうするっスか?」
「転移者の発見と駆除は勿論だが、現状目標が何処にいるか分からないから何とも言えないな」
「転移者の情報は書かれていないんですか~」
部屋のドアに鍵をかけて、気休め程度にロッカーをドアの前に置いてきたセラさんが戻ってきました。というか…
「皆さん、今ここが襲われているんですよ?!のんびりしていていいんですか!?」
転移者が暴れて行方不明だと言うのに皆さん飲み物飲んだり、いつもよりも雰囲気が緩んでいる気がします。早くいかないと被害が拡大してしまいますしなのよりカルセさん達のいる創造課が襲われていると思うと気が気ではありません。
「そうは言っても、武器は創造課から転送されてこないと、手元にある武器は隊長のやつ以外何もありませんのでこうしていた方が成果なんですよ」
「そうですよ。ここでアワアワしていても何もいいことはありません。まして手ぶらで殴りかかるなんてバロックさん以外では危険でしょう」
「そう…ですけど」
ナギさんとバロックさんの言いたいことは分かりますが、のんびりするのはどうかと思います。
「アイビー」
私の言葉を遮って隊長が口を開きました。。
「はやる気持ちは分かるが全員の装備が整ってから出ないと駆除に向かえないんだ。それに武器を持たずに突撃したところで、ナギの言う通り素手の私達では満足に戦えずに終わるだろう。私達も今すぐに出た方が良いのは分かるが、他の隊の足を引っ張るわけにもいかないから我慢して欲しい」
「…わかりました。すみません、わがまま言って」
「いや、アイビーの気持ちも良くわかる。…まだ転送されてこないようだから話をつづけるぞ」
このまま立ったままでいると不安になるので、ひとまず椅子に座って深呼吸をして目の前にあるお菓子を一口食べて気持ちを落ち着かせます。
「さて、今回逃げた転移者だが魔法のある世界によく存在するダンジョンの持ち主。所謂ダンジョンマスターの様だ」
「ダンジョンマスターですか」
「ああ、ダンジョンの生成理由は色々あるが、主な理由はダンジョンの核となる物質から生成されて、その核を守る役割として、その場に一番近い生物がダンジョンマスターとして生まれ変わる」
確かナギさんと行った世界にもあったような話を聞いたような気がします。その時はナギさんが私が丸投げした時に誤魔化すために話していましたね。あの話はそれ以上聞かなかったので知りませんでしたが、他の世界にも存在しているんですね。
「それで、その転移者がダンジョンマスターになったということですか」
「ああ、しかもダンジョンマスターになったのが転生者だから、ダンジョンマスターとしても能力に加えて神から貰った力も使用できるから、まさにやりたい放題だったようだ」
追加で送られてきた資料をパラパラとめくりながら隊長は続けます。
「ダンジョンマスターの能力って何ですか?」
「基本的はダンジョン内の生物の生成、管理できる能力だな。ダンジョンの核は入ってきた冒険者の血肉を栄養としているから、他の生物に殺してもらう必要がある。マスターは核から力を貰う代わりにダンジョンに栄養を渡すんだ」
そうして魔物などの強力なモンスターを生み出して、部屋に金銀財宝を置いて最初の冒険者には美味しい思いをさせて、次から来る冒険者を食っていっているそうです。ただし、この能力は核があって使える能力なので無くなったら全部消えてしまうそうですが、核は神様からの物ではないので基本的には放置するそうです。ダンジョンマスターのみが無くなってしまった核は次に核に近づいた生物を新しいダンジョンマスターとするそうなので放置だそうです。
「次に復活した状況だが、どうやら駆除後に死体を運んできた後に転移者の持っていたペンダントが光り、それと同時に死体が融合を始めて元に戻った様だ。因みにペンダントは光が収まると同時に破損した様だ」
「ペンダントですか?」
「ああ、これは核から貰った力の一部だそうだ。予備があるかは分からんがもし駆除した場合には注意して欲しい」
隊長がそう締めた時に机の上にいくつかの段ボール箱が現れました。よく見ると側面に私達の名前が書かれています
「やっと届いたか、各自中身を開けて武器を装備しろ」
隊長は段ボール箱の中から自分の名前の書いてある箱を持っていきました。私達も自分の名前が書かれている段ボールを開けて中の物を取り出します。
WA2000、XM8、コンバットナイフ、グレネード各種、サブのグロック18c、それと今回は29と18にレーザーサイトがくっついています。
なんでだろうと思いましたが、箱の底に説明と装備の正式名称が記載された紙が一枚ありました。なんでも、今回の戦闘では多人数対転移者という構図になる可能性が高く、誤射の危険性が上がるので防止のために付けているとのことです。
ふと思いましたが、私ガスティさん以外の部隊の人とは話したことが無いんですよね。偶に通路ですれ違う時に会釈するくらいで名前も知らない人ばかりなので少し不安です。出来るなら怒られないように終えたいです。
「皆、準備はいいか?」
部屋から持ってきた刀を腰に差しながら隊長が降りて着ました。
皆さん黙ってうなずいていますが、セラさんだけ表情が暗いです。どうしたんだろうと思ってよく見るとセラさんの持っている火器が重機関銃ではなくて、重心が短い銃を二丁持っています。
「あれ?セラさん、どうして前回の機関銃ではないんですか?」
前々回の仕事の時に大きな音と共に発射された弾丸が魔法使いが放った魔法を簡単に撃ち落していく光景は結構かっこよかったのですが
「あれを二丁持ちで連射すると外れた弾丸が壁とかを壊しちゃうから、代わりに今回はF2000とタボールが届いたんですよ」
セラさんはそう言ってため息をつきます。セラさん結構気に入っていたんですねあの銃
「…さて、全員準備が整ったようだから出るぞ。まずは他の隊と合流して目撃情報等を集めよう」
隊長がドアの前の荷物をどかして鍵を開け扉を開きました。




