命を懸けた先に
出来た穴を上から見下ろして、様子を見る。下は瓦礫で埋め尽くされていて、さっきまで戦っていた二人の姿は見えない。さっき弾を防いでいる時に、下に崩れていった床の一部を見て咄嗟に考えた作戦だったが正直、穴が開いての下にまで広がっているか不安ではあった。しかし無事と言っていいのかは疑問だが大丈夫だったようだ。
というか、向こう銃ってなんだよ銃って、卑怯だろ!こちとら拳一つだぞ、鎧が無かったら死んでるよ!普通の人なら死んでいるが、向こう明らかに一般人とは思えない力を持っていたよな…。しょぼかったけど剣からビーム出して来たし
そう思い返すと思い出したかのように右腕と肩が痛む。
「いッつ…」
止血をしたいところだが、のんびりしていると奴らの仲間が来るかもしれない。全員があの二人と同じ力を持っているとしたら、あいつらだけだと無理かもしれない。さっさと目的の場所まで行かないと
鎧の隙間から一枚の紙を取り出して広げる。そこには、この洞窟?遺跡?の地図が書かれている。本当はイースがノズルさんから貰ったものだが、刀使いの方を吹き飛ばした後に力を使い果たして動けなくなったイースから渡された物だ。これのおかげで俺達はここまで真っ直ぐ行くことが出来た。さっきの戦いでボロボロになってしまってないか不安だったがクシャクシャになっている程度で問題なく読める。
「えっと…」
地図を見ながらゆっくりと歩き出す。地図によるともう次のフロアが目的の物があるようだ。
もう少し…もう少しで…!
満足に力の入らない体を引きずりながら進んでいく、先の見えない通路に入っていき歩くこと数十分、遂に通路の先に光が零れている部屋が見えた。
「あぁ…」
ようやくだ。そう思うと自然と足が軽くなる。今まで引きずるようにして動かしていた足が上がるようになる。左腕しか動かせなかったのに走るのに合わせて右腕を振れる。蜘蛛の糸を見つけたかのように走って部屋に入ると、部屋の光が俺を包み込む。
そうして光をくぐって部屋に入ると、部屋の中央に俺を歓迎するかのように一輪の花が部屋の中央で咲いていた。
花には緑、薄緑、茶色の三枚の花弁があり、ここからでも普通の花と違うのが分かる。
間違いない、あれが目的の花のノルニルフラワーだ!
そう思って部屋に入ってから止まっていた俺は歩き出す。
これで…ノアを!
まだ届かない距離なのに手を伸ばしながら歩いていく、早く手に入れたいそう思いながら部屋の中央まで歩いた時だ。
「よっと」
花の傍に男が急に現れた。白衣を着た男は俺を眼鏡越しにチラリと見た後に、興味なさげに目をそらして目の前にある花を向いた。
「ああ、あったあった」
そう言って男は手を伸ばして花を無造作に掴んで根っこごと引き抜いた。
「いやぁ、カメラが潰れた時はどうなるかと思ったけど、発信機も付けていてよかった。おかげでここまで無事に転移できたよ」
そう言って男はこちらに向いて満面の笑みを浮かべているが、それどころじゃない。
「お前…それをどうするんだ!」
俺は震える手で男の持っている花を指差す。
「何って使うのさ、治療にね。君だってそうだろう?助けたのだろう?これを使って」
そう言って花を指差す。
「あぁ、だからその花をよこせ」
そう言って一歩前に踏み出す。
「まぁまぁ、落ち着いて渡したとしても本当に効くのか?副作用が無いのか?とか調べないといけないだろ?」
「…」
確かにそうだ。しかも俺はその花の使い方を知らない。どうやって飲ませれば治るのかとか全く知らない。そんな状態で持って帰って、間違った使い方をして治せなかったらノア達をぬか喜びさせるところだった。しかも副作用で何か障害を残してしまったら悔やんでも悔やみきれない。
「ただし、俺達の組織ならその使い方を知っている。そこで提案なんだが一度私の組織で培養して増えた分を君に渡すというのはどうかな?見ての通りこの花は一輪しかない。ここで奪い合うよりは良いと思うのだが?」
確かにここで奪い合うのは得策ではない。目的の物は向こうが持っている。もし戦闘中に握りつぶしたり、駄目にしてしまったらノアに顔向けできない。
「本当に培養できるのか?信用できない」
「ああ、本当だとも私の所属している組織は君と同じ神から力を貰った人達だけで構成されているんだ。無論私も神から力を与えられている」
「何?」
ここで神の話が出てきたのか、しかもこいつも力を貰っているだと?!
「そして私達の組織の中には薬学方面の力を貰っているメンバーがいる。そいつの力を使えば培養と正しい使い方を見つけてくれるんだ」
「…なるほど」
聞いて見るといい話ではある。信じられないということを除いては、だが
「確かに俺は神様から力を貰っている。それを知っているということと、前ならそれだけでも信じられたのだが、さっき同じように俺が転移してきたということを知って殺しに来た奴らがいるから、おいそれと信じる事は出来なくなったんだ」
「そうだよねぇ…。でも信じてくれとしか言えないんだよねぇ…それに私達あいつらと敵対しているんだ。ほら、敵の敵は味方という訳で信じてくれないかな?」
そう言って男は深く頭を下げる。
…完全に信じたわけでは無い。信じたわけでは無いが、少なくとも向こうよりは話を聞いてくれるし不意打ちで攻撃してこないから、まだ信じることが出来る。
「…分かった、信じよう」
俺はこの話に乗ってみることにした。
「そうかい!?助かったよ」
男は顔を輝かせながら俺の方に駆け寄って左手を握ってブンブン振り回している。
「礼はいいからさっさと行こう。追手が来ると面倒だ」
正直いつ後ろから狙われてもおかしくはない。さっさと移動した方が良いだろう。
「そうだね…。で、この後の事だが、私達の方の用事が終わるのに二か月ぐらいかかるから、その後に完成品を渡せるよ」
そう言って男手を離して自分の懐を探り出す。
「…は?」
二か月だと…
「さてと…って、どうしたんだい?」
懐からスイッチのような物を取り出しながら男が振り返り、俺の顔を見て問いかける。多分俺はとても変な顔をしているのだろう。
「…二か月…二か月かかるのか?」
「ああ、使い方に関しては時間を取らないが、培養に関しては少し時間がかかるからそれぐらいになってしまうね」
そうか…二か月か…
「だめだ。二か月も待てない」
「え、どうして?!」
面を食らったような顔をしながら男は問いかける。
「その間にノアが死んでしまう」
俺が一番大事なのはノア達で、そのためにここまで来た。二か月なんて待っていたらノアが生きていないかもしれない。
「ああ、助けたい人がいるのかい?でも、私にも仕事があるから渡せないねぇ。それに二か月待てばどんな病気も治せる万能薬が量産できるのだよ!それに比べれば少しの犠牲は仕方ないと思うのだが?」
そう言って男は再び笑みを浮かべる。その顔を見ながら、あぁ、少しは信用できると思っていたが駄目だと思った。こいつも大を救う為に小を切り捨てるのか。
「そうか、話し合いは決裂だな。それをよこせ」
そう言って背を向けて距離を取る。
「何故だい!?薬を量産して持って帰れば君は英雄扱い、この世界は今後永久的に病魔による死の恐れから解放されるというのに!」
「それだよ」
俺は振り返って痛む右腕を無理に動かして構える。
「俺は英雄に何て呼ばれたくない。他の人の幸せがどうなろうが知ったこっちゃない!俺は、ただ俺の大好きな人たちが幸せに生きて欲しいだけだ。だから、てめえからそれを奪って使い方を吐かせて、俺の幸せのために使わせてもらう!!」
最期の力を振り絞って地面を蹴って男に向かっていく、それを見ながら男はこれ見よがしにため息をついてこういった。
「そうか…残念だよ…じゃあ死んで」
イツカ「ノア(個人)のために使いたい」
白衣君「みんなが助かるのなら数人の犠牲は仕方ないよ」
イツカ「なら奪って使い方を教えてもらうとしよう」




