戦闘開始
言い切られた転移者は何も言い返せない様だった。口を結んでいる。これ以上言っても無駄だと言うことが分かっているのだろう。
「そっちの人も同じなんですか?」
先ほどまで無言だった魔法使いがそう聞いてきた。セラは少し驚いた顔をした後に少し考えてから話し出した。
「そうですね~ちょっと可哀想だとは思いますけど、おおむね同じですね~」
それは言わないで欲しかった。お互い嫌々やっていると思ってしまうと殺し終えた後にお互いに悲しくなってしまう。殺してくる者に怒りや憎しみを抱いて、それを生きる力に変えて欲しいと私は思っている。向こうが私達に同情してしまえば生きる気力を失うものが出てくる可能性が高くなるから、今のセラの発言は少し駄目だ。
だが、今の言葉はちゃんと言い切ったからよしとしよう。最初の頃は向こうに同情することがあって引き金を引けなかった頃に比べると大分成長した。やっぱり後輩がいると頑張れるんだな。
そう思い少し感慨にふけっていると転移者がこちらに聞こえるほど大きく息を吐いた後にこちらを睨んだ。
「そうか、だが俺はそっちの事情なんて知らん!俺の提案が飲めないのなら強引にでも俺の目的を果たさしてもらう。俺のために!」
転移者はそれだけ言うと黙って拳を握ってボクシングのような構えを取った。そして、その様子を見た魔法使いも杖を掲げて構えた。良かったちゃんと向かって戦ってくれる。
「そうか、ならとっとと来い!!」
気持ちをキチンと切り替える為に一度刀を振ってから切っ先を転移者に向けて構えてから挑発する。
「言われなくても!」
そう言うが早いか、転移者は強く地面を蹴ってこちらに向かって低く跳んできた。顔以外を鎧で覆っているとは思えないほどの速度で接近してきたのに少し驚きながら、私は刀を構えたまま正面から拳に刃を合わせようとする。転移者もそれを見て左手でジャブを繰り出した。
そして甲高い音を出して拳と刀が交わる。そのまま拳ごと叩き切れると思っていた予想に反して拳は刀を弾いて押し返している。私の刀はいろんな世界のトンデモ物質を混ぜて出来た相棒だ。切れ味は結構いいし、鉄くらいなら切れるのは実証済みだ。それなのに切れないのは加護か?しかし、この転移者の加護は『筋力増強』だけだったはずだ。どういうことだ?
「シャアァ!!」
少し戸惑っていると男は本命の右ストレートを出して来た。咄嗟に膝を曲げて下に回避すると頭の上に拳によって生み出された風が過ぎて行った。あの岩すらも砕く右ストレートだ、もし当たっていたら骨折していたのかもしれない。
その体制のまま蹴りを繰り出して転移者の右の脇腹をとらえ。そのまま振りぬいて転移者を壁まで吹き飛ばす。そのまま、後ろに下がるためにバックステップで距離を取る。
セラに追撃させたいが、ここではまだ下が不安だ。
「どうした?目的を果たすんじゃなかったのか?そんな程度か!お前の力は」
もっと挑発させてこっちに来るようにして、セラが撃っても大丈夫な場所にまで移動する。まだ地面から熱が伝わってくるからここは溶岩の上なのだろう。今も転移者が地面を蹴ったり壁に当たった時は少しヒヤリとした。だが先ほどよりかは熱が低い気がする。このままいけば大丈夫になるだろう。
壁にいる転移者を見ながらそう結論付ける。転移者はたいしてダメージがなさそうに体をはたいて汚れを落としてから再び構える。
セラは今の所出番が無いから後ろに下がらせた方がいいか?そう考えていると構えていた転移者がニヤリと笑う。一瞬意図が分からなかったが、ハッと気が付いて咄嗟に魔法使いの方を見る。
既に魔法使いの杖の先には氷と炎二つの塊が浮遊していた。今から阻止は間に合わないな
「セラ!通路の奥に向かって走れ」
「それは…」
「上級術式『ギヌンガガプ・マシンガン』」
セラとの話が終わる前に魔法使いが魔法名を言って、氷と炎の魔法が連続して襲い掛かってくる。後ろにセラがいる都合上回避が選択肢に入れられない。私が壁になってセラも飛んできた物が見れないだろう。たまに炎がかすったりして危ない。
刀を振るって氷と炎両方さばきながら、セラに言葉を投げかける。
「今のままだと私もセラも攻撃を食らってしまう。だから早く奥に行くんだ!」
そう言ってようやく奥に向かって走り出したので私も少しづつ後ろに下がりながらさばいていく。やがて、セラの足音が無くなって、こっちに向かってくる氷と炎の飛翔音しか聞こえなくなったのを確認いて回避しながらさばき始める。私と魔法使いの距離が開いたことで飛んで来るスピードが落ちて、軌道が見やすくなって少しさばくのが楽になった。
おかげで少し余裕が出来て回避が可能になってきた。それから少しの間は拮抗していたが魔法の威力と勢いが落ちてきた。魔法使いは汗をかいて息が切れてきているので、スタミナ切れが近い様だ。このまま持久戦で粘り勝つことにしよう。
しかし、その考えを崩すかのように転移者が突進をしてきた。
「な!?」
私は回避しようと体を動かそうとしたがここに来て魔法の勢いが戻ってきた。しかも、先ほどまで私を狙っていたのに、動きを封じるような軌道を変えている。このままだと直撃は免れないな。
しかたない。両手で持っていた刀から左手をほどいて転移者の拳の先腹を覆うようにしてクッションを作る。その間さばき切れなかった炎や氷が足や肩に当たるが転移者の攻撃の直撃の方がよっぽど重要だ。
ミシッと嫌な音を立てながら拳が左腕に当たり相殺しきれなかった勢いで体がくの字に曲がる。
「お…ぁ…」
腹に入っていた空気が吐き出され、転移者が拳を振り切った事によって漫画やアニメみたいに体が後方に跳ばされていく。少し吹き飛ばされた後に数回跳ねた後に体勢を整えて刀を床に突き立てて着地をする。立ち上がると同時に左腕に鈍い痛みが走る。ひびが入ったか折れたか、どちらにしても余り酷使はできないな。そう思っていると
「隊長!?」
声に振り向くとセラが小走りで近づいてきた。
「隊長、何でゴムボールみたいに飛んできたんですか~?」
「ちょっと、転移者に一撃貰ってしまってな。それよりもここは?」
今までの通路よりは広いスペースがあるから部屋の一つなんだろうか?
「あの通路から少し後ろにあった部屋です~。ここも展示室の一つみたいです~」
セラの言葉を聞きながら辺りを見回してみるとなるほど確かに台座や上と下に続く階段のような物もある。また展示品だったのかいくつかの場所から光が零れて部屋全体を明るく照らしている。ライトの出番はここでは必要なさそうだな
「そうか、なら十分に戦えるな。セラ、ようやく出番だ、銃を構えろ」
コツコツ
私が言い終わるほぼ同時に、こちらに向かって歩いてくる足音が聞こえてきて転移者が姿を現した。




