向こうの話 助ける為に
PV数4000を超えました!!
結局何が起きたのか俺が全てを知ったのは、それから一夜経った朝だった。今回の騒動は予想通り勇者の暗殺が目的だったようだ。しかし肝心の勇者は神輿のバランスが崩れた時に集まっていた人ごみの中に突っ込んでしまい見失っていた。それでも勇者がこの時点で勇者が死ななかったのは予想通りだったらしく戦闘になることも考えて戦いにくくなるようにパニックを起こして逃げないように他の通路に毒ガスを撒いたようだ。正直まどろっこしい作戦だが、向こうも相当警戒していたということだ。その勇者偽物なんだけどな。
その後、警備隊が介入を始めたが人ごみのせいで思うように動けず、落ち着くのに時間がかかってしまった。よって、この一夜の出来事で負傷者1000以上死者100人以上の被害が出てしまった。酷いのは毒ガスによる死者の割合は全くいないということだ。この毒ガスはじわじわと苦しめて死に至る毒ガスだそうで、それを吸った勇者が動けなくなった所を仕留める予定だそうだ。では何故死者がいるのか?それはパニックになった人が他の人を押し倒して踏みつけたりした結果死んでしまったり、群衆雪崩が発生してしまい倒れた人に覆いかぶさるようになって下敷きになった人が呼吸が出来なくなったことによる窒息死等が死者の割合を占めている。
俺とセッカさんは雪崩に遭いはしたが俺が全力で支えることでセッカさんが下敷きになることにはならなかったが、そのせいで身動きが取れなくなりノアを助けることが出来なかった。
「‥‥」
俺は町の広場に騒ぎの後に急いで作られた野外病院の一角、重症者がいるテントにいるノアの様子を見ている。ノアはライを庇って毒煙を吸ってしまい発見された時にはライは無事だったがノアが危篤状態だった。何とか命はとりとめたが、毒が抜けてない現状は予断を許さない状況である。ノアは意識が戻っていなくベットに横たわったままである。
「イツカ君」
「セッカさん…」
近づいてきたセッカさんは目の下に隈が出来ている。多分一睡もできていないのだろう。昨日まで元気だった人と同一人物とは考えられない
「…長くて一か月短ければ一週間だそうだ」
「…何がですか?」
何がとは言わなくても、そんな暗い顔で言っていたら嫌でも分かってしまう。でも俺の予想が外れて欲しいと思って震える手を抑えながら聞き返す。セッカさんは俯いて肩を震わせて絞り出すように答える。
「ノアの余命だ。‥‥」
聞きたくなかった。嘘であって欲しい。そう思ってセッカさんにすがるように肩を持って聞き返す。
「嘘ですよね?そうだと言ってくださいセッカさん。治す方法があるんでしょう?」
「嘘じゃないんだ…本当なんだ」
膝から崩れて手を突き嗚咽を漏らし始める。…認めない何か助ける方法があるはずだ。震える手を握りしめて、俺は傍にいる医者を捕まえる。
「なぁ!あんた医者なんだろ!ないのか?!ノアを助ける方法は?!」
この世界は魔法が主流になっているが何も魔法一強という訳ではなく医術や薬学も魔術の一環として研究、開発されている。魔法が混ざっているから元の世界とは少し勝手が違うがそれでもこの世界の病気のほとんどは治癒可能とされている。なら解毒剤があってもおかしくはないはずだ。
「ま、まだ分からないことが多く確証が取れていないので、はっきりとは言えませんが難しいかと…」
その言葉に俺は手を放して膝をつく。無い?方法が?勇者を殺すために新開発した毒を使ったというのか。
「そんな…」
「現在分かっているのは今回使用された毒物は今まで使われた毒物とはどれとも違うということです。初期症状から現在の状態まで既存の毒物のどの症状にも当てはまりません。現在、症状が近しい毒に使われている解毒剤を使用してはいますが、あまり効果は…」
そう言って医者は顔を伏せる。
「無論我々は全力を尽くします。しかし、万が一の事は覚悟をしておいてください」
そう言って医者は去って行った。
俺は力なく立ち上がってフラフラと外に出る。テントを出ると外は大騒ぎだった。一夜で完璧な医療システムの構築と医者などの人員確保を少し大きな田舎町が準備できるはずもなく一晩経った現在も混乱は続いている。重症者の設備を優先してくれたおかげでノアはベットに寝かされているが、他の軽傷者はそのあたりに放置されているようなものだ。
俺はその中を歩いていき近くの壁に寄りかかり座り込む。
…行こうなんて言わなければ良かった。手を離さなければ良かった。ノアに任せなければ良かった。
「無事でしたか」
「…ノズルさん」
顔を上げるとすぐそばにノズルさんが立っていた。頭に包帯を巻いているから、この人も巻き込まれたのだろう。
「お互い災難でしたね。こんな騒ぎに巻き込まれてしまって」
その話には合わせずに俺はノズルさんに聞きたいことがあった。
「ノズルさん、ノアの毒を消す方法はないのか」
「…一つあります。助かる方法が」
「本当か?!教えてくれ」
「しかし、この話はおとぎ話に出てくるような類の話です。本当にあるかは分かりませんよ?」
「それでいい、やらないよりはマシだ」
「…わかりました、お話ししましょう」
そう言ってノズルさんは一つの話をした。とある姫が不治の病に侵された時に王子が火山の奥にある秘宝を持って帰って治して幸せに暮らした、というよくありそうな話だった
「で、この二人は実際に存在していてお姫様の方は病に侵されていたそうです。で、話の通りに王子と結婚して子宝にも恵まれて、最期は玄孫に囲まれながら亡くなったそうです」
「で?」
「これは噂話なんですけど、秘宝が本当にある可能性があるんです。その話に出てきた火山もあります。お姫様の病も記録をたどるといつの間にか無くなっているんですよ。私は少し変だと思いましてね。もしかして秘宝が実際にあって、それを使ったけど、それを知られると不味いことがあるから記録からは消した…とね」
でも、人々の間に流れる話を完全に消すことは出来なかったから、こうして今の話が残っていると…
「それさえ聞ければ十分だ。俺が確かめてくる」
正直このままいても罪悪感で死にたくなってくる。その話が本当か知らないが本当に行って確かめてやる。
「待ってください」
「なんだよ!ここまで話して止めるのか?」
「いえ、あなたがこの話を受けることは予想できたので準備をさせています。具体的に言うとあなたの装備と、当時の仲間を呼んでいます。一晩待ってください」




