向こうの話 納品して買い物
町に入ると御者の爺さんが言っていたようにいつもよりも人通りが多い。
「どうしようか、イツカ」
「んー、とりあえず荷物下ろす所に行こうか」
まずは荷物を降ろしに行かないと買い物も出来ないし、あそこなら馬車を止めることが出来る厩舎があるから少しは楽が出来ると思う。
「わかった」
「くれぐれも、人を引かないでね。嫌だから」
「わかってるよ」
ノアはゆっくりと馬車を目的の場所に向かって進めていく。周りを見ると買い物をしている人、食べながら歩いている人等沢山の人々が明るい顔をしながら歩いている。そしてそのほぼ全員が勇者の話をしているようだ。やはり、人が多いのは勇者が目当てみたいだから本当に来るのだろう。
しかし、本当に勇者が来るのなら少し危険だな。俺は勇者を辞める時に何処に行くのかは一部の知り合いを除いて話していない。もし、居場所がばれてしまえば少なからず厄介ごとが起きるのは間違いないから、なるべく勇者とその取り巻きには見られないようにしないと。勇者や勇者が連れているであろう護衛達が俺の事を知っているかどうかは分からないが見られないに越したことは無いだろう。
そのことを考えると道具関連の買い物を担当しておいてよかったとホッとする。道具が売られているのは必然的に室内になるから、勇者が店の中に入ってこない限りは大丈夫のはず。
買い物を終えたら速攻ノアと合流して帰ることにしよう、そうしよう。
「とうちゃーく」
ノアがそう言ったのとほぼ同時に荷台が止まる。見るといつも荷物をおろしている商会の建物の前にいた。でも到着ではない。ノアは再び荷台を動かして、そのまま建物の脇を通って裏の搬入口に寄せて止まる。
「おつかれー。人も多いからさっさと荷物下ろしちゃおう」
「私、受付してくるね」
「よろしく」
俺は荷台から降りて荷物を降ろし始める。この作業はノアに任せるよりも俺がやった方が早いから仕方ない。荷下ろしを終える頃にはノアが向こうで納品の確認のための職員を連れてこちらに来る。
「こんにちは」
俺達にとっては取引先の相手の人だから粗相のないようにふるまう。
「いつも、お疲れ様です。では納品のチェックをしちゃいますね」
いつも、こちらが下だからと言って偉そうな態度をとらない姿勢に感謝しながら、審査が終わるのをノアと一緒に大人しく待つ。
しばらくして全ての荷物の審査が終わった様で商会の人が歩いてきた。
「チェックが終わりました。数もそろっていますし、特に問題もないので大丈夫です。今、代金を用意しますので少し待っていてください」
そう言って商会の人は建物の中に入っていく。万が一襲われた場合の事を考えて、金は用意しているが最後まで持ってこないようにしているのだろう。そんなに時間が経たない内に商会の人がお金の入った袋を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが代金になります」
「はい」
ノアは受け取った後にその袋の中から一枚銅貨を取り出して眺める。極低い確率だが贋金が混ざっていることがあるから、その確認だ。商会も贋金があると信頼に関わるので、そのあたりはキッチリしているのは知っているが一応の確認である。
「確かに受け取りました。それで少しお願いがあるのですが、少しの間私達の荷車をこちらの厩舎に止めても大丈夫ですか?今日は何分人が多いので身動きできなくて…」
「…少し待ってくださいね」
商会の人はそう言って一度、中に入って行った。しばらくすると少し疲れた様子でこちらに戻ってきた。
「すみません少し待たせてしまって、担当の人を探してたもので…」
「いえ、大丈夫です。それよりも…」
「そうですよね。厩舎に止めるのは大丈夫の様です。ただし表の厩舎ではなくて裏の厩舎を使うことになってしまいますけど、それでも大丈夫ですか?」
この商会の表には見栄の為にそれなりに立派な厩舎が建っている。あそこを使うのは貴族などの所謂お金持ちで偉い人物が使うことが多い。対して俺達の荷車は中古、荷車を引く動物はロバ、どう考えても浮いてしまう。仕方ないと言えば仕方ないが、向こうからすれば、貴方達は表の厩舎を使うのは似合わないから裏の厩舎を使ってねと言っているような物になってしまうので少し様子を見るような目をしている。
「大丈夫ですよ」
「わかりました。使用を終える時には一度、中の職員に断ってからにしてください。そうしないと面倒なことになりますから」
「わかっています」
「では、案内します」
商会の人はロバの綱をノアから受け取って歩き出す。俺達も場所を覚えていた方がいいからついていく
厩舎に入ってすぐ近くのスペースにロバが入って、荷車は外に置かれることになった。
まぁ今の荷車には特にめぼしい物は無いし、奪おうとしてもロバとか馬が引くことを前提にして作られているから人が奪うのは厳しいだろうから、そのあたりの心配はしなくて良さそうだ。
「よし、じゃあ買い物に行こう。これ君の分のお金」
商会の人が帰った後に、ノアが袋の中のお金を大体半分に分けて渡してきた。俺は懐から袋を取り出して受け取る。流石に手に持ったままうろついたら、狙ってくださいと言っているようなものだから袋を持ってきている。
「じゃあ、本当は門の所に集まるのが楽なんだけど、集合場所はここにしよう」
「ああ、わかった」
そう決めてはいるが、いつも俺の方が終わるのが早いので、手伝いに向かうから結局いつも一緒に戻ることになっているが、決めておくのは別にいいか…
「うん、じゃあ行ってくるね。君もあまり遅くならないようにね」
「ああ、そっちもな」
そう言って、お互いに別方向に歩き出す。道具関連が売られている店は、市場とは反対方向にあるからな
さてと…まずは運搬用に使っている荷物を冷やしてくれる道具の売っている店が近いな、道中勇者の情報も知って鉢合わせになることが無いように注意しないとな。幸い今日は人が多いから、歩いているだけでもある程度は知ることが出来そうだな。
そう思った時、俺に一抹の不安がよぎる
「…いやぁ、まさか、な」
そんな、人が多いからってそんなベタなことは…
そう思ってはいるが少し不安だ。買い物はなるべく急ぐことにしよう。
俺は迷惑にならない程度に駆けだした。




