プロローグ
初投稿になります
紫烏賊です
コツコツと誰も人がいない歩いていき、少し大きな木製の扉を見つけてその前に立ちます。周りの扉は鉄製の扉ばかりなので、その木製の扉だけが異様に目立っているように感じます。
扉には金属製のプレートが付いており『異世界転移・転生対策課 実行部隊第753隊』と書かれています。どうやらここで合っているみたいです。
私が目覚めた後にすぐ服を着させられて「ここに配属になったから行ってきて」と目の前の人にメモを渡されて右も左も分からぬままに歩いてここまで来たのですけど、何をするのかは聞かされてないので不安しかないです。
でもずっと扉の前に立っていても仕方ないので、私は扉の前で一度深呼吸してから覚悟を決めて扉をコンコンとノックします。少しの沈黙の後にこっち近づく足音がした後に扉が開きました。
「はい」
そう言いながら開けられた扉の先にいた人は女性でした。
腰くらいまでで揃えられた長い黒い髪を腰まで伸ばしている、切れ目の人で服装は体格に合ったキッチリしたスーツ姿です。
「はじめまして、今日からここに配属になりましたナンバー301655772、アイビーです。よろしくお願いします」
とりあえず教えられたとおりの挨拶と自己紹介をしてからお辞儀をします。
女性は少し驚いた顔したあとに、ニコリと微笑んで
「はじめまして、異世界転移・転生対策課実行部隊 第753隊隊長、ナンバー153801414、シェフレラだ。話は聞いている。こちらこそ、これからよろしく。私の事は好きに呼んでくれて構わない」
そう言って左手を差し出しました。
「は、はい よろしくお願いします」
私は差し出された手を握って握手します。あ、結構ゴツゴツしてる。
そんな考えが頭をよぎった後にずっと聞きたかった質問を口にします。
「それで、あの、ここでは何をすればいいのですか?作られてから一通りの一般常識は入れられましたがここで何をするのか等の具体的な事は教えられなかったので」
私が目を覚ました時、何か機械のような物を頭に被せられてこうした言語機能や、一般常識などを頭に叩き込まれ、服を着ましたが、肝心な事は一切教えられませんでした。
私はここに配属することになったのは言われたので知っていますけど、私はここが何をするところなのか一切聞いていないので全く分かりません。
「そのことについても説明しよう。とりあえず中へ」
開けた扉を引き中へと促しながらシェフレラさんが言いました。
「はい、失礼します。」
私は扉をくぐると外とは全く違う内装に驚きました。部屋の中は落ち着いた雰囲気があり、床や壁が木材で作られているみたいで壁には窓があます。窓の向こうには緑の葉がついた木々が見えるので、この部屋だけではなくて外もあるみたいです。部屋の中央には長机と椅子そしてホワイドボードがあり、結構使い込まれているように見えます。
「適当に座って構わない。今飲み物を出すから少し待っていてくれ」
そう言って隊長は椅子を指した後に奥の部屋に行ってしまいました。
私はおずおずと椅子に座って、もう少し周りをもう少し見まわしてみます。
壁にはロッカーが6つありその内5つに名札がかけられていてロッカーの隣には胸くらいの高さの棚があります。その棚の上にはFAXのようなものが置いてありました。反対側の壁には階段があり二階があるんだと思います。ただ上の天井は吹き抜けになっていて屋根が見えますから、きっと階段のある方向にも建物が続いているんだと思います。
「少し珍しい内装だろう?」
いつの間にか戻ってきていた隊長が2つ持ったマグカップのうち一つを私に差し出しました。マグカップを受け取って覗き込むと白い液体が入っています。匂いからしてホットミルクでしょうか?
「少し前の休暇の時に訪れたコテージを模した物なんだ。個人的にはとても気に入っていていてね」
私と机をはさんで反対側の席に座りながらシェフレラさんが教えてくれます。私も先ほどから感じる木の匂いを嗅ぐととても心が安らぎます。
「そうなんですか。とても落ち着いた雰囲気がして私は好きです」
私がそう言うとシェフレラさんは少し嬉しそうに口元を綻ばせながら持っていたマグカップを上げて中身を飲みました。
「さて、これから仕事内容について説明したいところだが一通りの説明をしても、始業時刻まで少し時間が余ってしまうだろう。そこで少しお互いの自己紹介でもしないか?そちらは作られたばかりなので私の話ばかりになってしまうがこれから一緒に仕事をこなす間柄だ、お互いのことを少しでも知っておいた方がいいと思うのだが?」
「お願いします」
そう答えると隊長は、ではと自分の自己紹介を始めました。
それを聞きながら私は両手で持ってコップの中身を飲みながら、シェフレラさんは優しそうな人だと思い少し安心しました。
「さて、そろそろ我々の仕事について説明しよう」
一通りの自己紹介を終えたシェフレラさんはそう言うとコトリと空のコップを置き、席を立ってホワイトボードを私の前に引っ張って持ってきました。その後、シェフレラさんは思い出したように棚の所に行って引き出しから何か持ってきました。
「これを使ってメモしてくれ」
そう言って隊長が差し出したのはメモ帳とボールペンでした。
「あ、ありがとうございます」
私はお礼を言ってメモとボールペンを受け取りました。
「では、これから私達の仕事内容について説明を始める。もし分からない所や疑問に思った所が出たら遠慮なく質問してくれて構わない」
「わかりました」
私の返事を聞くとシェフレラさんは頷いて説明を始めました。
「良い返事だ。では始める。私達、異世界転移・転生対策課の目的は二つ、神の殺害と神によって別の世界へ行った魂と肉体の回収だ。」
「魂と肉体の回収…ですか?」
いきなりよくわからない仕事内容です。魂と肉体の回収?どういうことでしょうか?あと神様を殺すってわけわかんないんですけど?
「ああ、そうだな、分かりやすく言うと指定された人を殺してその死体を回収すると言うことだ」
急に分かりやすくなりましたが、その代わりに分からないことが増えました。私の仕事先って人を殺すってことですか?物騒過ぎませんか?
「とは言っても何も無差別にってわけじゃない。それなりに条件がある」
「その条件は神から力を貰って別の世界に移動しているか否かだけだ」
はー、もはや混乱状態です。訳わかめです。
そんな私の状態をシェフレラさんが察して説明を止めます。
「あー、そうかもっと前の話をした方が良いか。…えっと人は死ぬと全ての始まりの存在である『ソ』の下に集まり新しい命として生まれ変わる。そこは大丈夫か?」
「はい大丈夫です」
そこは知っています。何せ私自身そこから直接作られたので。私自身何も分からないような状態でも理解できました。あ、私あそこから生まれたんだ。と
「よし、次に神の存在だ。神は『ソ』から産み落とされた世界の管理と維持を仕事している」
「神様いるんですね」
「いるぞ、いっぱい」
神様は与えられた世界を気まぐれで滅ぼしたりはせず、むしろ世界が残るように資源を配置したり、逆に増え過ぎた場合には災害を起こして間引いたりする。しかし、偶に神様が間引いたりする必要のない命をうっかり殺してしまうことがあるそうです。例え神様だとしても必要のない命を弄ぶのは看過されないそうで、神様が不手際でその世界の生命体を殺した時にはそれ相応の処分が下るそうで、大体の神様は大事に管理するそうですが中には適当にしたり、調子に乗って沢山の世界を取って全部管理しようとする神様もいるそうです。
正直実感が湧きませんが実際シェフレラさんが冗談を言っているようには見えないので信じておきます。
「そして全ての神がその決まりを守ってくれればいいのだが、残念ながらその失敗を隠す神もいる」
神様がその不祥事を隠すために何をするか、死体を処分はしません。そんな事をすれば一発で神様を監査している人たちが気が付くそうです。なら、どうするか?生き返らせるんです。そして、別の世界に送り出します。元の世界に戻せば生き返りだ何だと騒ぎになってこれも監査している人たちにバレるからだそうです。
そして、その世界で簡単に死なないように神様から加護という名の力を分けてもらって送り出されます。要は示談金の代わりだそうです。君を生き返らせて凄い力あげるから許してっと、言うと大体の人は頷くそうです。
こうして、生前とほぼ変わらない姿で異世界へと渡った人を転移者、赤ちゃんに戻して異世界へと送るのを転生者と呼ぶそうです。
私の主な仕事はそんな神様の力を貰って異世界ではっちゃけている人を殺して、その死体を回収するのが目的だそうです。
「い、いきなり殺すんですか?」
「一応私達の前に交渉課というところが、転生者と転移者に対して大人しく来てもらう為に交渉をして連れてくることもある。しかし、あまりうまくいかないことが多い。どちらにしても殺すことは確定しているから、それならと抵抗したり、そもそもそんなことを聞く義理はないと突っぱねたりするな。大体成功率は一割前後といった所か、失敗すると最悪交渉相手に殺されることもある」
「えぇ…」
私だったら、そんなところでは働きたくないです。
「まぁ、理由があるから厳しいのだが、今はやめよう。アイビーが仕事に慣れてきたら、いずれ話そう」
「はぁ…」
「それで、交渉課が失敗したら次は私達の出番だ。私達が転移、転生者を殺害して持って帰る。以上だ」
簡単なように言っていますけど人を殺すんですよね?私はそんな簡単に殺し何てできません。
「まぁ、誰も最初から人殺し何て手が止まってしまうものだからな。気持ちは何となくわかる。しかしこれが私達の仕事だ。出来るようになってもらわないと困る」
「……」
説明が終わった今も混乱が続いています。いえ、理解はしていますが、それを受け入れられるのかは別の問題です。人を殺すのが私のいる場所の仕事だそうです。たとえ理由があってもすんなり受け入れられるほど私は冷酷ではありません。でもやらないと駄目なんですよね。
「さて、以上で説明は終了だ。もう一度言うが、私達の仕事は神によって転移転生してしまった人の殺害だ。本当は神も裁くのだがそれは別の部隊が動いてくれることになっているから基本的には気にしなくていい」
「はい」
正直神様を殺すなんて不敬すぎる気がするので、そっちに関わらないのは少しホッとします。
「では以上で一通りの説明は終わる。次は他のメンバーの紹介をしたいのだが、今全員出かけていて、もう少ししたら帰ってくると思う」
隊長がそう言ったときにガチャと扉の開く音がしました。