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教室に戻ると、既に花見たちも入っていた。彼女は、俺に気づく様子もなくお喋りに夢中になっている。そのことに少しがっかりしながら、自分の席に着くと、間もなくチャイムがなった。しばらくして、担任の先生が入ってきた。
2分後に先生は教室をあとにした。SHRの内容は至極薄っぺらいものだったが、それは毎日のことだった。扉がしまったのを合図にして、生徒たちはまた立ち上がり、1限目の授業開始までの時間、各々動き始める。
先程トイレは済ませてしまったし、何をするでもなく席に座っていると、誰かに名を呼ばれた。座ったまま仰ぎ見ると、長い髪の女子生徒が机の前に立っていた。
「今度の文化祭の担当、決めてないの、あなただけだから、今決めてくれる?」 彼女はボールペンと1枚の紙を机の上に置いた。「これ、締め切りが今日の昼休みまでなの」
「うん、わかった」
彼女が言う担当とは、店舗担当かステージ担当のどちらかのことだ。
俺はすぐにあの名前を探していた。
「人数はだいたい半分ずつくらいだから、どちらでもやりたい方で良いよ」
「それじゃあ、ステージで」
「よし、決まりね。はぁ~、実行委員もなかなか骨が折れるなあ」
「お疲れ」
「じゃ、それでよろしくね」
蝉川高校の文化祭は毎年だいたい7月の初週に3日間行われる。
全学年各クラスが教室を利用して何かしらの店舗を開く。生徒たちはもちろん外部の人間も自由に見物できる。種類は様々で、スタンダードな飲食店からバブル期を彷彿とさせるクラブや、お化け屋敷なんかもある。
それと、並行して体育館ではステージを利用した演し物が行われる。こちらも演出は各クラスの自由で、限度を守ればどのようなショーを行っても良い。時代劇や童話の舞台をしたり、ダンスを発表したり。幕間には吹奏楽部やバンドの演奏が入る。
それぞれ生徒会や教師陣が審査をし、最終的に最も優れたクラスが決定されるのだ。
俺が彼女を初めて見たのは、去年の文化祭のときだった。