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 そのとき僕は完全に忘れていた。


「突然ごめんなさい。偶然このアカウントを見かけてしまって、どうしても気になって」

「私のこと、覚えていますか?」


 なんてダイレクトメッセージが届いていたけど、意味を理解するのに時間を要した。


 YES、と自信を持って言いきれない俺は、何て返信をすれば良いのか、少し迷って、微かな希望を抱きながら「ほうれん草は食べられるようになりましたか?」と聞きかえした。


 直ぐに返事が来て、「恥ずかしいけど、まだ苦手です」「でも、少しだけ食べられるようになりました」


 このとき俺は呆然として固まってしまった。何とも言えないのは、感動か、恐れか。次に、なんと言えば良いのか分からなくなった。でも、何かを言わなければ、この会話はここで終わってしまう気がして、俺は終わらせたくなくて、何か言おうと考えていた。


「まだ、――市に住んでいるのですか?」先に向こうから質問をしてくれた。


「そうです。ずっと同じ家に住んでいます」


「懐かしい。何度も遊びにいった覚えがあります。いつもわんちゃんが出迎えてくれたり、お母さまがクッキーを焼いてくれたりして、とても楽しかった」


 もう、その面影は何も無いのだ。彼女の記憶の中にしか存在しない場所となってしまった。


「覚えています」


 その後、少しだけほとんど中身のない会話が続いて、もう日付が変わりそうな時刻だったので、彼女の明日の体調に配慮して、今日はもう切り上げようと思った。


「話は尽きませんが、明日の体調を考えてそろそろ寝ようと思います。今日はありがとうございました」


 直ぐに返事が来た。


「すみません。その通りですね。おやすみなさい」


「おやすみなさい」と打ち終わった時、寂しさを感じた。と同時に、今の出来事を客観視して、舞い上がった。


 翌日、自分は速く連絡したいのに、それを悟られるのが嫌で、相手からメッセージを送られてくるのを待ち構えていた。しかし、その日、メッセージは送られてこなかった。


 それから数日が経って、やっと連絡が来た。


「お久しぶりです」 と始まった文章。どの期間に対してお久しぶりなのかは分からなかったが、多分この数日のことだろう。


「あれから連絡が出来なくてごめんなさい。お仕事が忙しくて、本当は、もっとあなたとお話したいです」


「チャットの文字ですと、伝わりづらいこともあるかもしれないので、もし良ければ、今から送信する電話番号にかけて頂ければ幸いです」


「久しぶりにあなたの声を聞いてみたいです」






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