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 月曜日は、久しぶりの晴れた天気だった。快晴とまでは行かずとも、十分に開放感のある空模様だ。1週間近く雨が続いたものだから、普段なら微妙な天気だと感じる雲量の今日でさえ、清々しく思えてしまう。


 今日からは特別時間割として、文化祭の準備が始まった。それは金曜日の午前まで続き、午後には前夜祭が開かれる。実質的に本番は土日の2日間だけだった。


「よーし、それじゃあ、気合い入れて、いっちょ頑張りますか!」


 クラスの実行委員を務める女子生徒が声を上げた。


「おう!」 「しゃあ!」 「うおお!」 各々気合を入れた返事が飛ぶ。


「おー!」 可愛らしく拳を上げた花見と目が合った。心臓の調子を狂るわせていると、彼女は拳を俺の方に向けて、グッと、握り直した。「頑張ろうね!」


「お、おう」 ゆるゆると拳を掲げてみせた。久しぶりのコミュニケーションに動揺していたのは俺だけのようだった。テスト前以来か。あの時の花見は少し様子がおかしかったが、今は全くそのような素振りはない。


「はいはーい、みんな注目! 今年のステージの演し物は、演劇をやろうと思っています」


 実行委員兼ステージ・リーダーの桃山薫(ももやまかおる)は話を進めていく。


 文化祭の準備を行うにあたり、生徒たちはそれぞれの担当の場所に別れていた。各ホームルーム教室は店舗担当が使用するため、ステージ担当はそれぞれ空き教室を利用することになっていた。2年C組には、東棟1階にある第2会議室が割り当てられた。


 桃山はホワイトボードにペンを走らせていた。体と重なって文字はよく見えない。


「じゃん!」 書き終えた彼女は、脇にどいて、それを両手で示した。


『運命の森』


「ザダメノモリ、ね。脚本は私が考えました! エッヘン」


 おぉー、とか、へぇー、とかフワフワと一同が反応。


「どういう話なんだ?」 このよく通る声の主は辰巳冬弥(たつみとうや)だ。バスケ部所属で、真面目で成績は優秀、積極的な言動が目立つ人間だ。なぜそんな情報を知っているかといえば、去年同じクラスだったから、色々と小耳には挟む。俺は彼の自信たっぷりな表情が嫌いだった。


 おそらくこの中では、桃山を除いて最も発言力があるだろう。今後も彼と彼女のやり取りを中心にして話が進んでいくはずだ。


「あ、そうそう、まずはこれを渡さなきゃだ」 桃山はファイルの中から取りだした冊子をひとりずつに配っていく。


「とりあえず、それ、読んでもらおっかな。そのあとで、役とか、小道具の担当とか、細かいこと決めようかなと思ってまーす」


「ありがとう、わかったよ」 これも辰巳だ。


 表紙には渋い毛筆のフォントでタイトルが印刷されていた。内容は全く想像がつかないが。


 視線を上げて、ホワイトボードを再度見やった。別にわざわざ書かなくても良かったんじゃないかなと思ったが、誰も気にしている様子はなかった。さっそく紙をめくる音が複数聞こえてくる。


 俺も表紙をめくって、1ページ目を読み始めた。



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