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夕陽が照らす公園には、滑らかな口笛の音色だけが聞こえていた。
「綺麗……!」 少女は滑り台から降りて、ジャングルジムの下へ走る。「ねえ、レオ、何それ、スゴい!? どうやってやるの!?」
錆びたジャングルジムの縁に腰掛けていた少年は、そこから飛び降りて、隣に立つ少女に答えた。
「クチブエ」
「だから、それ、どうやるの!? 私もやりたい!」少女は手を上下に振って訴えた。
「んー、ユーリには無理かなあ」少年はしばらく考えるふりをして、「これはな、ほうれん草を食える奴にしか出来ない、コウトウなギジュツなんだよ」言い終えると、また口笛を見せびらかすように吹いて、ブランコに飛び乗った。
「なにそれずるい。……食べれないものは食べれないんだもん」少女はとぼとぼと歩きながら、隣のブランコに座った。
「まあ、おちこむなよ。クチブエが無理でも、似たような歌なら歌えるだろ?」
「……むぅ、そうだけど、私はレオとおなじクチブエがしたいの」
「オレは、お前の歌、好きだけどな。クチブエなんかより、綺麗じゃん」
「え? ホント!? …………嬉しい」少女はとびきりの笑顔を見せた、が、すぐに不貞腐れた顔になる。「なんか、いい感じのこと言って、キレイに丸め込まれた気がするんだけど……」
「あ、バレた?」座席の上に立っていた少年は、勢いよく振れるそれから、飛んで、着地した。「でもさ、お前の歌が綺麗なのはウソじゃないよ」
「ほら、またそういうこと言う」 少女はブランコをとめた。
「ウソじゃないって」
「ウソ」
「じゃあ、ダンゲンしてやる。お前、将来すごい歌手になるよ」
「…………ウソ」