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今日の天気は晴れだ。朝のニュース番組では、美人キャスターが『今日は一日中晴れの予報ですが、明日の明け方頃からは暫く雨が続きそうです。洗濯物は云々』と、にこやかに述べていた。洗濯物の話は俺にとってはあまり関係無かった。取り敢えず、今日は傘を持っていく必要が無いことを確認してから、家を出た。天気が晴れだろうと、明日には雨が降ろうと、学校の鐘は鳴る。
南に向かって昇る太陽は容赦なく俺を照らす。少しは俺の気分を察してくれれば良いのに。届くはずのない文句を心の中で零しながら、最寄り駅に向かって歩いていく。
俺は、学校が好きではなかった。かと言って、嫌いと言うほど嫌いになる理由もなかった。何となく高校に進学してしまった凡庸な高校生のひとりだった。行きたくないわけではないけれど、行くことは面倒臭いと思う、そうやって密かに反抗していることがアイデンティティの一部になっている、どこにでもいる高校生だ。
ふと思う。やる気も無いのに、なんで進学なんてしたのか。それは、周りがそうしていたから。普通はそうするから。そうしないと社会の規範から落ちこぼれてしまうから。いや、そこまで深く考えていたわけじゃない。やはり、ただ何となく大勢の人間と行動を共にする方が安全だと判断したからだ。
俺みたいな平凡な人間には、平凡な道のりがお似合いなはずだ。学校に行かなくても飯を食べていける特技や才能があるわけではなかった。やはり俺には大勢がそうするように、踏み固められた安全な路を歩く方が合っている。
T字路に差し掛かり、若い親子と合流した。前を歩く子供は黄色の幼稚園指定のぶかぶかの帽子をかぶっている。
子供は何かの歌を口遊ながら、世界の全てを吸収するように大きな丸い目をさらに開いて、視線を様々な方向へ巡らせながら、短い歩幅で歩いていた。重心のコントロールが未だ難しいのか、進む方向が定まっておらず、時折ふらふらと車道の方へ出ていきそうになる。危なっかしい足取りの子供は、道沿いの敷地の方へ行ったかと思うと、突然立ち止まって、母親を呼び付けて、何かを指さしていた。俺はその様子を後目に、彼らを抜かして、駅へと急いだ。子供のペースについ合わせてしまい、歩みが遅れていた。いつも乗っている電車が着くまで後少しの時間だった。
最後は少し小走りになりながらも、いつもの通りの時間に乗車が出来た。