インド人とイチャイチャしたいだと!?
自宅へ戻るなり、玄関に置かれたウニに目が留まった。
『話し掛けると答えてくれるよ♪』
そう書かれた紙を信じ、ちょいと恥ずかしげにウニに話し掛けてみる。
「最近テレビでインドの人々の生活に密着したドキュメンタリーを見たんだけど、インドの女性って綺麗だよね……何とかしてお近づきになれないかな?」
ウニは僕の問に何と答えるだろうか……?
ドキドキワクワクしてウニを見つめていると、玄関の扉が勢い良く放たれた!
―――バァーーン!!
「ワレェ! インドの女とイチャイチャこきたいとかどうゆう了見や!!」
ズカズカと玄関へ入り込む一人の女性。残念ながら僕の嫁さんだ。
「き、聞いていたのか!?」
「はい。残念ながら♪」
僕は天を仰ぎ顔を手で押さえた。
「私という女が居りながらインドに手を出すとか何を仰っておられるのかしら!?」
グイグイと僕を押しやる嫁さんは大層御立腹の様だ! 僕はポケットからスマホを取り出し電話が掛かってきた振りをする事にした。
「で、電話だ、出ないと―――!!」
「アンタ何か落としたわよ?」
嫁さんが指差す足下には、『インド喫茶 シヴァのぬくもり』の会員カードが落ちていた。
「―――あ!」
「何よ『あ!』って! アンタ私という女が居ながらにしてインドに喫茶してたわね!? 度し難いわ!!」
ギリギリと壁まで詰め寄る嫁さんに僕は冷や汗が止まらなくなっていた。このままでは何をされるか分からない!!
「しかもゴールドカードじゃないの!! アンタ何回通ったわけ!?」
マズい……これはかなりマズいぞ!
「いいわ。それならば私がインド人になるわ!」
「……へ?」
突然家へ上がり僕の部屋へと入る音がした。
「な、何を―――!?」
「借りるわよ」
慌てて追い掛けると、僕の部屋からインド喫茶のポイントで交換したサリーを取り出した嫁さん。何故知っている!?
嫁さんはサリーを羽織ると、ソレっぽいだけのベリーダンスを踊り始めた。
「どう!? インドに到着したんじゃない!? さあ、私で喫茶しなさい!!」
「……ま、まぁ一応ソレっぽいけど……」
「……何よ、何が不満なの!!」
ベリーダンスを止め僕に詰め寄る嫁さんは怒りに満ちており、インドの女性とはかけ離れた表情をしていた……。
「インドの言葉で話してよ」
僕は嫁さんにニヤリと笑い、出来そうに無い無理難題を吹っ掛けた!
「……す、すぱしーば?」
「ブブッ―――!!」
僕は思わず笑ってしまった。インドのイの字も感じられない発言に笑いを堪えきれず抱腹絶倒だ!
「い、今のがロシア語だって言うのはプーチンでも知ってるわよ!!」
さり気にプーチン大統領を馬鹿にする嫁さんはきっと怖い物知らずなんだろう。僕には恐ろしくて一生出来ない……。
「気を取り直して! え~っと…………め、めるしー♪」
「ハハハハハハハハ!!!!」
気取ったポーズでフランス語を披露する嫁さんに僕は涙が出て来てしまった!
「そうよ! インドと言えばカレーよ! 待ってなさい!」
そう言ってサリーを着たまま台所でカレーを作り出す嫁さん。その姿だけはインドっぽい。
暫くしてかれーの良い匂いがしてきた。お腹の虫が騒ぎ出すのも時間の問題だろう。僕は促されるがままに席に着いた。
「はい、お待たせ♪」
サリーを未だ着たままな嫁にちょいと興奮しながらも、僕は出されたカレーにスプーンを差し込んだ。
「それとナンもどうぞ」
出されたのは平べったいパンの様な物だった。インド喫茶で散々食べたから今更なんだけどね……。
「それとピロシキもどうぞ」
何故か出て来たロシアのパン。まあ、いいか……。
「それとクロワッサンもどうぞ」
これまた何故出て来たのか分からないフランスのパン。
嫁さんはサリーを着たままアンニュイな表情でコサックダンスを踊っている。
「ちょいと喫茶が国際的過ぎやしないかい?」
「嫁喫茶よ。これで問題無いわ」
嫁の作ったカレーは美味しかった。お互いにカレーを食べ合いつまらないことで笑い合う。とても充実した一日だった。
それと、サリーにカレーを零した嫁さん。僕の10000ポイントはカレーに塗れた…………
読んで頂きましてありがとうございました!
恐らくこの話が一番私らしい『インド人とウニ企画』かと思います(笑)