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新、竜神の加護を持つ少年  作者: 石の森は近所です。
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第05話、救出作戦

『我が本来の姿を晒せば、人伝いにうわさは広まり討伐隊、さらには勇者がこの山に入ってくる恐れがある。助けるのはコータ。お主一人でやるのだ』


 えっ、俺そんな力ないよ。

 それとも俺が知らないだけでチート能力が既にこの身にあったりするの?


『チート能力が何かは分からんが、異界渡りをした者は常人にはあり得ない程のマナをその身に宿す。この世界でマナはその量によって時には英雄や勇者をも誕生させるのだ』


 ほうほう、異世界からやって来た俺は、この世界の人族よりマナ量が多いらしい。


 ――だがまて。


 俺は父親の影響でアニメにハマり、時には格闘系のアニメも見たがリアルで戦った経験は一切ない。そんな俺がいきなり戦闘なんて、できるとは思えないんだが……。


『何、一晩掛けてこの周辺の魔物を倒せば嫌でも強くなれるじゃろうて』


 なれるじゃろうじゃねぇよ!

 強くなる前に魔物に殺されちまうわ!


『何、心配には及ばん。我が魔物を押さえ付けておくからのぉ、コータはとどめを刺すだけで良いのだ。ガハハ』


 少女たちを助けると決めたはいいが、まさか俺が自分で戦う羽目になるとは――。


 洞窟から湖の畔に戻ってきた俺たちは、作戦会議を開催していた。

 助けると決めた時には、クロの力を最大限に利用して助けてもらう気満々だった訳だが、いざ作戦会議が始まるとクロから待ったが掛かった。

 クロからすれば、人が数十人束で掛かってこられても傷すら負わない。

 それでは面白くあるまい。そんなクロの一言から急遽俺のパワーレベリングが始まった訳だが……。


 深夜に湖の水を飲みに来た小鬼(ゴブリン)にピクシーサイズのクロが上空から襲いかかり、地面に頭を押さえつける。俺は地面に這いつくばってバタバタとうつぶせに藻掻いている小鬼(ゴブリン)にこっそりと近づき、木で作った槍を心臓の辺りに突き刺す。


 ――そんなルーチンワークが丑三つ時まで続いた。

 シュールな絵面だが、月明かりしかなかった事で精神的な動揺は抑えられたと思う。

 これが昼間だったら両手にこびり付いた返り血と、むせ返る血の匂いで吐き気を催していただろう。


『ふむ、今宵はこんなものか』


 何がこんなものだよ。

 静かな湖畔の森の中が、血臭と小鬼(ゴブリン)の惨殺死体で溢れかえってんじゃねぇかよ!


『だがおかげでコータでも自身の肉体変化に気づいたのではないか? コータは既にこの世界の人族ではあり得ぬ程のマナを身に宿し、ステータスは英雄クラスじゃぞ』


 それを言われると確かに体はここに来た時より軽く、力が漲っている様な感じはする。

 でも能力値が上がったからといって、いざ戦闘で役立つかと言われると疑問が残る。

 だいたい助けるときに男たちと戦いになったら、剣相手に棍棒でどう戦えばいいんだ?

 それに奴隷なんだろ?

 この世界で合法な存在を、横からかっ攫うまねをしたら――俺が後で指名手配とかされちゃわないか?


『うぬっ……』


 何だよ。

 よく考えてみたら、竜が現れて彼女たちを攫えば何も問題はないじゃん。

 一体なんのためのパワーレベリングだったんだか……。


 ジト目をクロに向けるが、あっクロのやつ顔を背けやがった。


 そんな無駄な時間を真夜中まで過ごし、結局クロが小型の竜に変化して、3人の少女を攫ってくる事になった。


『ではコータよ、打ち合わせ通りに行くぞ』


 ――作戦は簡単。

 最初に俺が思い描いていた通りに、クロが小型のドラゴンに変化して3人を連れ去るだけ。

 我ながら単純だ。

 他人任せな作戦だと思うが、後々の事を考えると、俺の顔を見られるのは非常にまずいのだから仕方がない。

 いきなり知らない世界にやって来て、初日からお尋ね者になんてなれるか!


 そんなリスキーな人生、俺は嫌なのだ。


 俺は湖畔でクロが戻ってくるのを、たき火でもしながら待っている事にした。

 ちなみにたき火の炎は、クロが吐き出す炎を使ったので、原始的な枯れ木をこすり合わせる様なまねはしないで済んだ。

 ピクシーサイズでも高火力だと青い炎を吐き出したのには驚いたが、それだと一瞬で木が消滅してしまったんで、火力を落とした赤い炎で着火してもらった。


 クロが飛び立つと巨木はざわめき、地面に積もった落ち葉が舞う。

 湖の対岸の辺りで急旋回し上昇を始めるとあっという間に見えなくなった。


 クロが戻ってくる前に大量の枯れ木と落ち葉を拾いながら、クロが話してくれた内容を思い起こす。

 クロの話では中型サイズの竜でも厄災クラスと呼ばれ、国の首都ですらブレス一発で吹き飛ばす火力があるらしく、人が出入りするこの周辺でそんな竜が現れれば、全人類の敵として勇者クラスの討伐隊が編成される恐れがあるらしい。

 そんな意見から今回の救出作戦は小型のサイズで行うことに決まった。

 小型の竜なら村里まではぐれ竜が100年に一度程度の確率では現れるらしく、山奥で遭遇したとしても討伐隊が編成される恐れはまずないだろうって話だ。


 話の中に勇者が存在するって事に驚きを隠せなかったが、ついでにクロの本来の大きさならどうなんかを聞いてみた所――クロの時代にはクロ程に巨大な竜は存在しなかった。

 故に竜神と竜人族の間で崇め奉られる存在であり、人里に降りる事はなく――遙か上空から地上に生きる生物の営みを観察して楽しんでいたらしい。


 そんなクロがなぜ、傷を負い俺の世界に避難してきたのか気になったが、まずは少女たちの救出を最優先だ。


 クロは大きく湖をうかいし、洞窟に隠れているジャス達の頭上から威嚇の咆吼を放ち、その混乱に乗じて3人を救い出す手筈になっている。


 そろそろ洞窟に着いた頃だろうかと思っていると、大音量の咆吼が鳴り響いた。


「グワァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーー」


 遠く離れていても地面が微かに振動するほどの声の暴力に腰を抜かす。

 それは近くで発せられた洞窟前ではより顕著だ。

 洞窟の陰から這いずり逃げ出すジャス達。

 腰を抜かした俺よりも動けるだけ肝が据わっている。

 だが少女たちは恐怖に恐れ戦き全員が失神していた。


 クロはゆっくりと洞窟前に降り立つとジロリとジャス達が逃げ込んだ洞窟奥を睨む。

 フンっ、と軽く鼻をならすと一番手前の人族の少女を口に咥えた。


「ドラゴンが娘を食った! ひやぁぁぁぁぁーーーーー」


 ジャス達は奴隷の娘が食われる様子を見てとると腰を抜かし這いずりながらさらに奥へと逃げ込んでいった。

 クロはそのすきに片手に一人ずつ掴むと、大きく翼を広げ一気に羽ばたいた。

 大きく高度をあげジャス達には湖と反対方向に飛び去るように見せかけ、雲に隠れると大きくうかいし湖へと戻ってきた。

 俺のいる場所まで来てホバリングすると、両手で掴んだ獣人の娘2人を降ろす。

 2人を降ろした後でクロも着地し、口に咥えた人族の少女も降ろした。


 ――さすがに3人は気を失ったままだ。


 洞窟の方では外が静まり、危険が去ったと見てジャス達が出てきていた。

 クロが最初に飛び立った方向を指差し何かを言い合っている。


『どうやら、うまくいったようじゃな。あの者達は山脈の彼方(かなた)へ飛んでいったと誘導されてくれたぞ』


 愉快そうにガハハと笑いながらクロが教えてくれた。


 さて問題はこれからどうするかだよな。


 さすがにジャス達が洞窟に居る以上はあそこを住処にはできないし。

 俺が今後の事を考えて居ると、隣から仕事帰りのおやじのようなせりふが聞こえてきた。


『軽く運動したら腹が減ったぞ。飯にしようではないか』


 飯って言われても、どこにそんなもんがあるんだよ。

 まさか――奴隷の娘達を食うとか言わないよな?


『馬鹿者! 人間の肉なんぞまずくて我でも食わぬわ!』


 えっ、アニメとかの竜って人を食ってたけど?

 何々、何でそんな冷めた瞳を俺に向けるわけ?

 俺、変な事言った?


『コータが見ておったアニメとやらの竜は食っておったが、本来竜は草食じゃ。たまに肉や魚も食すが少なくとも人ではないのぉ』


 人じゃないとすると他には昨晩、俺が倒した小鬼の死体しかない。

 まさか――あれだった嫌だなとか考えていると、


『たわけ。簡単な魚の串焼きでも食そうではないか。なんせこの湖は魚の宝庫じゃすぐに捕まえられるぞ』


 魚と聞いてホッとしていると、言うや否やクロが湖に入っていく。

 沖の方へ行くとまるでカラスが行水をしているようにしか見えない。


『何か失敬な視線を感じるのだが……』


 あんな遠くから俺の思考を読めるのも驚きだが、離れているクロの言葉が脳内に響いてくくるぞ。さすが異世界。

 あ、異世界は関係ないのか。


 クロがジト目でこちらを睨むが華麗にスルーしてやった。


 しばらくして湖から上がってきたクロは口から大量の魚を吐き出す。


『ふむ、こんなものか……』


「うぉっ、鵜飼ですか! 竜なのに鵜飼?」


『仕方なかろうが。この手で小さな魚は掴めんからのぉ』


 なるほど言われてみればそれもそうだ。

 小型の竜とはいえ全長10mはある。当然それに付いている手足も人の5倍はある。

 納得した俺はクロが吐き出した魚を見るが、どれも40cmはありそうな立派な魚だ。

 地球でいうヘラブナに近い姿形をしている。


『何をボサッとしておる。次はコータが働く番じゃぞ。棒きれを探して串焼きを作るのだ』


 人間の様に器用に手足は動かせないらしい。

 俺は前もって周囲から集めておいた木から枝をもいで魚の口から差し込む。

 ――とりあえずは10本。

 串刺しにした魚を一定間隔でたき火の周りの地面に差し込んでいく。

 集めてあった落ち葉と枯れ木をたき火にくべるが湿気った落ち葉が混ざっていたようで、炎が一気に小さくなるが、それを見て取ったクロがすかさず口からブレスもどきを吐き出すことで対処する。

 クロはいつの間にかピクシーサイズに変化していた。

 すごく便利だな。

 まるでガスバーナーみたいだ。

 そんな不敬な事を考えたが、またクロにジト目を向けられる前に次の準備に取りかかる。

 そうこうしている間に10分が経過し、魚からこぼれ落ちる油が火であぶられパチパチと音を鳴らす。

 さて、そろそろ食べ頃かな?

 クロの世界に転移してきて初めての朝食が始まった。


お読み下さり有り難うございます。


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