プロローグ
この世界は混沌だ。
人類が誕生してから20万年。
当初、食料を獲得するために戦っていた彼らは次第に知恵を付けると、己の欲望のままに暴力を振るい殺戮に目覚め、やがて力こそが王者の証となった。
時がたち、個人の力は姿を変え権力者を誕生させ、金が全ての世界へ生まれ変わるも、軍事力という力が世界を支配している力の構造は――今も変わっては居ない。
「困るなぁ~僕らで決めた約束を君が破るというのかい?」
荒れ果てた砂と岩だけの惑星で、若き少年と思しき人物の放った魔法が巨大な竜を襲う。竜は激しく息を切らし台地へ巨体を打ち付け傷つきながらも自分に隙のない視線を向ける少年へと告げる。
「それは分かっておるが――」
「分かっているなら従いなよ。ここは君の世界じゃないんだから」
「このまま傍観者であるとお主は――それで構わんと本気で思っておるのか!」
「君はあの子達へ情を移しすぎだよ。さっきの様な介入は我等の規律を捻じ曲げる。困るんだよねー。あれを僕がするならまだしも、君に動かれると――だからッ」
最後通告は終わったとばかりに、少年が片手を広げ、指を1本折るごとに宙に青い魔方陣が浮かびあがる。
「ぬっ、何を――」
「君には罰を受けてもらうよ。檻の中で反省するんだねっ――無限牢獄!!」
少年が5本目の指を折ったその瞬間、咄嗟に竜は自身が持てる最大の魔力を使って別世界へと飛んだ。その場に一人残された少年は悔しがる様子もなく意味ありげに呟く。
「アハハッ。逃げられたぁ~! でも、君の事だ。必ず戻って来るよねッ」
そして少年が遠くて近い青々とした惑星に視線を向けると、いつの間にやらその姿はかき消えていた。
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