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脅迫の手紙

作者: たかな

三笠の奥方はどうも機嫌が悪い。

何故か?何て事はない。彼女は朝早くから脅迫めいた手紙を受け取ったからだ。

これが初めてならば、悪戯に違いないとタカをくくり、無視をすることができたが、

これと同様のものを既に一度受け取っている。

つまり二通目の脅迫状だというから、気分が悪いのも当然だ。

人間誰しも他人の脅迫されたら気分が悪い。

厭、それどころか怖いし、不安だし、飯すら喉を通らなくなるぐらい気分が悪くなる。

今、奥方はまさにその状況だった。


その不機嫌の元の手紙は、貧相な紙にこう書かれていた。

「三笠の奥方様。

拝啓。私は旦那様の元にて働いている央太郎と言ふもので御座います。

奥方様は私のよふな卑しい身分の下賎者からの手紙など、さぞかし驚かれていることでしよう。

実を言ひますと、此れは脅迫状の類いで御座ひます。まあまあ、慌てないで下さひ。

失礼。不肖にも私、奥方様の慌てた姿をつい想像して興奮してしまいました。狂人にも程があります。

さて、脅迫内容なので御座いますが、

奥様の一生を質にとります。

多分何の事か解っていらつしやらないと思いますが、何を質に取るのかは云えません。

今のうちに隠しておくことをお薦め致します。

其れでは。


昭和十二年四月

央太郎。」


盗人の不躾で無礼な手紙に三笠の奥方様は、相当腹が立ったようで、

この手紙を手に入れた若い女給を呼びつけ、

どういう訳か事情を聞き始めた。

「貴女?此の手紙を受け取ったものは」

「え、ええ…左様で御座います。どうかいたしましたか」

「どうもこうもありません。こんな恐ろしい手紙…何故拾ってきたの?」

「?拾ってはおりません。郵便受けに入っておりましたところを、私めが持って参りました」

奥方はさぞかしイライラした様子で、

「ほら御覧なさい。消印が押されてないわ。此は郵便で届けられたものじゃないということ。

誰かが入れたものか、お前が拾った振りをして私に読ませたかのどっちか…」


此のままでは犯人にされかねないと思い、女給は犯人じゃない旨と、

自分は字が書けないことを伝えた。


奥方様は困り始めた。

旦那様の関連会社の長を呼び、央太郎というものがいないか聞いたが、そんなものはいないとの答えが帰ってきたためだ。


そうこうしていると、二通目が届いた。

「三笠の奥方様

慌てて私めを探しているとの事を小耳に挟みました。

奥方様はひどいお方だ。

私のような奥方様のその指についた指環の欠片すら価値の無い私なぞ、

どうでもよいのですね。よくわかりました。

脅迫の続きをすることに致します。

明日までに私を捕まえないと、

夜には貴女の総てを頂きに上がらせて頂きます。


其れでは。

       央太郎」


それはそれはもうひどい焦りと不安が入り混じった、

ひどい顔だった。

”奥方様”と呼ばれる人生を盗むといわれている訳だから、それはそうだ。

当たり前なのかもしれない。


「はい、藤岡綜合法律事務所でございます」

「藤岡の先生、私です。三笠の…」

「ああ、奥様ですか。どうかされましたか?」

奥方様はこれ以上の心労を重ねたくないがために、

旦那様につく弁護士へと電話をかけた。

「先生に話すのは少し恥ずかしいのですが、

私先日より何者かから強迫されているんです。」

「ほう、そいつは頂けないですな…

そんな不届きな奴から私が守って見せましょう」

奥方様は状況と手紙の内容を弁護士に伝えると、弁護士はこう聞いた。

「本当に知らないのですか?央太郎が誰なのか?」

「知るものですか。なぜ私が下賎な民のことなど…」

「左様ですか…。では私にお任せください」


受話器を置くなりほっと一息ついた奥方様は、

今日は早めに床につくことを、女給に伝えると、

早々に自室に篭り、藤岡に頼んだのだから大丈夫と言い聞かせ、

そのまま眠りこけてしまった。



「奥様、おきてください!旦那様です!」

女給に起こされ、旦那様という言葉に敏感に反応し、慌てて寝所を整えているところに

三笠の旦那様がやってきた。

「やあ、ご機嫌いかがかな。今日はお前にお別れを言いに来たよ。

さあ、荷物をまとめて出て行ってくれ」

寝起きの頭ではろくに考えられない奥方様は必死に旦那様の言ったことを分解して考えた。

「何でですか?!何でお別れなのですか?!」

「お前は私の名前すら覚えていなかっただろう?

如何にお前が私を愛していないかがよくわかった。

私の秘書の山本と浮気していただろう?私は驚いたよ。

結婚する前からの関係だったそうじゃないか。

バカな話だが、ようやくそこで私はお前に愛されていないんじゃないかという疑問にいたったわけだ。

そして、もしも私の名前を見て、直ぐに気がついてくれたならば許そう。

そう寛大な心をもって考えていたんだ。だがしかし、お前は一向に気がつく様子がない。

なんせお前は私の家名で結婚をしたのだからな、当然だ。

で、あるのならば、私はお前を捨ててしまおう。そう考えて、藤岡と綿密な計画を立てたということだ。

そして、その裁判の結果。お前の死刑が言い渡された。そういうことだ」

「え…でもあなたの名前は”ようたろう”ですよね…?”おうたろう”なんて名前じゃないはずです!」

「お前は私の名前の読み方すら覚えていないということだ。

それだけどうでもいい金だけの存在だったということさ」


奥方様はそう旦那様から下されると、

まるで火を付けられた獣の声で泣きわめいた。

そしてそのまま狂い笑いながら屋敷から締め出され、

それを既に女給ではなくなった若い愛人が高笑いをしながら見ていた。


40〜50分程度で書いたものですが、

どうでしたか?

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― 新着の感想 ―
[一言] すごい!!これはおもしろい。私事ですがこう言うオチはかなり好きです。しかし『人間誰しも他人の脅迫されたら気分が悪い。』って言う一文は意味がわからなかったです。
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