第5話「真相は闇のなかにある」
木村華絵から送られたフィルムを観たが衝撃的な内容だった。
大枠はトモッキーこと金田友樹が取材地をリポートする内容の動画だったが、随所で彼が撮影クルーに暴行する場面が隠し撮りされていた。その内容たるや、目を覆うほどのものだった。おそらく訴訟の物的証拠として撮ったものだ。
だが、これより衝撃だった内容の動画がある。それは“存在もしない人間”と自然に会話をしているものだ。返事もない人間とあたかも返事があるように話をしているのだ。黒木なんて人物の姿も声もどこにも見当たらないのだ。
たまたまカメラに映ってないだけではないか? たまたま声が小さい人物なのでは?
そう思うのも無理はないだろうな。あるいはそう見せかけて視聴者を動揺させる動画を撮っていたのかもしれない。
しかし、数々ある疑問に追い打ちをかけるのが、最後の木村華絵による一幕だ。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。私はこれからいなくなります。和ちゃん、百合子、佳奈恵、富由美、みんな、本当にごめんなさい。この仕事をやってきて嫌なことはたくさんあった、そして“この仕事のために”私はこの世を去ります。こんな不出来な私だけど……でもこれだけは言わして……」
彼女の真っ黒な瞳からポロポロと涙が零れる。
「みんな、愛しているよ……」
そしてここでこのフィルムは切れる。
このビデオと手紙を送ってきたのは木村華絵本人で間違いないはないだろう。
しかし一体どこから……届け主の住所は佐賀県佐賀市にある木村とは全く縁も所縁もないフェイクであることが判明した。彼女がこれを俺たちテレビ局へ送るなら彼女が透明人間にでもなるしか手段はない。
俺は今日何本目になるかわからない煙草を吸っていた。
木村華絵のフィルムは俺たちで特許を取り、番組にとり入れた。そして他局に売りだし、それが飛ぶように売れた。ワイドショーでは連日にわたって例の事件の報道が再熱した。しかし1ヵ月もしない内にその話は風化されていった。
プロの俺だからわかる。あの暗視カメラで映った彼女の顏……
あの顔の皮膚は腐乱した人間の皮膚。そして彼女の瞳にも違和感があった。
しかし誰に何を聞いても、憶測を語り合うだけの無駄な時間の過ごし方にしかならないだろう。そうこうしているうちに新しい番組の仕事を任された。今度の仕事はホラーやオカルトといった類のものでない。生活に役立つ豆知識を学ぶゴールデンタイムでやってもいいようなくだらない番組だ。
ところで一連の木村華絵の騒ぎが静まりだした折、後輩の清武が急に退社した。そして俺に電話をよこした。何でも木村華絵を例の惨劇があった場所で見かけたのだと言う。
俺も何回か訪ねたが、何もないただの山道だ。教会と見せかけた山小屋も実に殺風景な造形物に過ぎなかった。
寒い今は12月だ。東京では雪が降ったりもしたが、九州ではどうだろうか。よりによってこんな時に誘うだなんて、やはり常識もクソもない女だ。
俺は今日何本目になるか分からない煙草を吸ったあと、コートを羽織って外にでた。何か面白い物が撮れたならと思ってカメラも持参した。
これから起きることなんて、俺は全く想像してもいなかった――