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第4話「寂れた教会にて」

 私が目を覚ますと、黒木氏が人差し指をたてて「しーっ!」と小声で顔を近づけてくるのがみえた。



 記憶がある。体が震えている。どうやら気を失って倒れていたのは数分程度のことだったらしい。



「これをみなさい。いま外にでるのは危険だ」

「え……」



 黒木氏はドアを少しだけ開けてみせた。



 ドアから見える景色、それは想像を超えるような地獄だった。




 金田を襲っているのは河村君だけではなくなっていた。近藤さんもまた金田の身体のいたるところを噛みしめていた。血に染まる河村君と近藤さんの顏……



「当然よ。私たちを苦しめた罰よ。裁きがくだったのよ。殺してやる。殺してやる。殺してや――」



 バチン!



 私は頬をぶたれた。とっさに「何しやがる! この野郎!」と怒鳴っていた。しかし黒木氏もそれに屈することなく「自分の顔をよくみろ!」と手鏡をだしてみせた。



 手鏡に写った私の顏、それはもう人間の顔ではなかった。目は全て赤に染まり、顔は蒼白く生気を失っていた。



「これは……」



 私は気がつくと鼻血をだしていた。



「私がみえる時点で何かおかしい気がしたのだが……お前たち、あの男の殺害をしようと最初から企てていたのだな?」

「殺害……そんな……違う! 確かに殺意はあった。でもそれは……」



 黒木氏は額に手を当てて「おお、主よ、何ということだ……」と嘆きだした。



「何なのです? 貴方、何を知っているのです? 教えてください!」

「ああ、教えよう! 私だけを見ろ! 仲間のことは忘れるのだ! いいな!」

「はい、見ます……見ますから教えてください」

「答えろ。お前たちはあの金田という男と何があったのだ?」

「それは……」




 私は金田に対しての私たちの経緯を話した。私たち全員が彼に対して憎悪があること、そして何とか理性でそれを食い止めていたこと。高揚する気持ちを抑えながら冷静に話すよう努めた。陽は沈み、黒木氏は蝋燭に火を灯した。



「そうか。道理で見えたわけだな。私は私の家族を想うが為に禁術を使ったが、殺意が芽生えたお前達は“悪の根源”である私が見えてしまった。そして悪に魂を奪われたということか……」

「黒木さん、よくわからない。どういうこと?」

「私は30年前、人を殺した」

「!?」

「金銭問題で教会の人間とトラブルになってね、信頼している友人だったがね。教会のお金を騙し取られたのには我慢できなかったのだ。出頭するぐらいなら、自殺した方が良いと思ったよ。教会の運営は息子がしているからな。私が罪人として生き残るよりかはその方がいいと思ったのだ。ならば、ひっそりと死のう。そう思ったが、そこで禁術である錬金術の存在を思いだしたのだ……」

「実行したの?」

「ああ、実行した。最初はまさかの半信半疑だったさ。死ぬ前の悪あがきだとも思っていたさ。しかし術は確かに発動してしまった」

「術?」

「ああ、誰も私の姿を見えなくなったのだ。透明人間になったのだ。禁術書にはこう書いてある。確かな殺意を持った者か、確かな殺意を向けられた者にしか悪の根源はみえないと」

「でも私たちへ御便りをだせたのは……」

「透明になると言っても、何もかも透明になるわけではない。物質としては存在するのだ。車に轢かれでもすれば、誰にも見えない遺体となってそこで死ぬのだ。手紙を書いてだすことぐらいすぐできる」

「待って……はぁ……はぁ……疑問がある。私達がこんな化物になってしまったのは一体……それにあなた一体何の目的でここに私たちを呼ぼうとしたの!?」

「意識が遠のこうとしているな……これは私の推測に過ぎないが、殺意を抱いた者は私を目にすることで人間ならざる者になってしまうようだ。これは私の学が足りなかったということ、そのことはお詫びしよう。申し訳なかった」

「答えて。何で私たちを呼んだりしたの」

「これを渡したかったのだ」

「これは……」



 黒木氏が懐から取り出したのは手帳だった。全てのページに彼の想いが刻み込まれていた。当初これを渡して去るつもりだったと言う。しかし私たちが彼と会話ができることで、彼はあることを思いついたのだと言う。



 黒木氏は小屋の奥にある風呂敷に包まれた物の風呂敷をとってみせた。



 絵画だった。絵のなかに書いてあったのは家族であった。



「生きとし亡霊となって……家族への愛は薄まるかと思ったが増すばかりだよ。1年ぐらいはそっと傍についたりもしたが、私という存在は確かに存在もしなくなっていたからな……それに結界の外で生きていくと“消失”の可能性が高まるようだ」

「消失?」

「ああ、仏教でいうところの成仏みたいなものかな? パッと消えるらしい」



 会話をしていくなかで常識を絶する世界に入ってきたことを認識できた。そしてその度にだんだんと息切れがして、フラフラしてくるのも感じる。



「それで君はどうする? アイツらと一緒に死んでいきたいのか?」



 黒木氏はドアをそっと開けた。全身血まみれの金田、そして近藤さんと河村君はとっくみあって噛み合いをし始めていた。



 私もしたい。私も喰い殺してやりたい。



 心のなかで私でない私の声がするが私は首を横に振った。そして涙を零した。



「いいだろう。人間としての尊厳を護りたいというのなら、私と替わりなさい。ただ、この生き道ほど孤独なものはないぞ? 良いか?」

「お願いします……」



 私には選択肢なんてなかった。人間としての自分が奮い立って仕方ないのだ。




 黒木氏は彼の人差し指を手持ちのペンで切って、その傷から出る血を差し出した。



 私は彼の血を飲んだ。



 彼は呪文を唱え始めた。



 10分ぐらい経っただろうか、彼は私の手をとり尋ねた。



「汝よ、人間の富の為、秩序の為、罪を詫び、悪にその魂を売ると誓えるか?」

「はい……あの、でも、透明人間になる前にしたいことが……」

「何だ?」

「あのカメラに生前の私の声を、私の顔を残しておきたい……」

「その今にも餓鬼に染まりそうな顏を?」

「だって、もうみえなくなっちゃうもの」

「いいだろう。その替わり早くしなさい」

「はい、ありがとう。神父様」



 陽はとっくに沈んでいる。今の私の顔が目立たないように、蝋燭の火から遠い位置で暗視カメラを起動し、私はカメラに向かって話をした。



 話は数分で終わる。やがて私は黒木氏と向き合った。彼は彼の首飾りを私の首にかけた。



「良き旅路を」



 私の首に首飾りをかけた途端に、彼の体は全てが真っ黒に変色した。そして黒い粒子を散らばらせて一瞬のうちに彼は消えた。



 急に意識が戻った。



 さっきまであった気持ち悪さが嘘のようになくなっていた。



 鏡に私は映っていない。しかし物に触ることはできるようだ。



 ドアを開けて外をみる。そこには男3人の遺体が静かに転がっていた――



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