第1話「届いたフィルム」
2015年8月、九州地方へ出向いたテレビ番組のクルーが音信不通となった。某県境の山中にて取材班4人のうち3人が遺体となって発見される。死因は頚部損傷による大量出血やショック等だ。しかし解剖の結果、その衝撃を受けるまでに皮膚が腐乱していた可能性があると言うのだから妙なお話だ。
「ゾンビにでもなったのかよ」
某テレビ局の一室にて俺は届け物を片手に過去の週刊誌を読んでいた。口には煙草をくわえている。これは自他ともに認めるヘビースモーカーである俺のスタイルだ。
ここ数年、民放各局のホラー番組は気味の悪さを自重するようになった。顔のよく知られたアイドルやタレントが怖がる顔をカメラに映し、今まで何度もみてきた心霊写真・心霊動画を地上波で流す。
実はこうしたオカルトを蔑んだ考え方が俺は嫌いだ。
念願の夏ホラーの特集を担当するディレクターとなって、様々な規制に「はい、わかりました」と頭を下げるのが……どうも嫌で仕方がなかった。
そんな俺にワクワクする話が飛び込んできた。
3年前に行方不明となった取材班の一人からスタジオ宛てに届き物が届いたのだ。届け主が木村華絵、遺体が見つからずに行方不明となった人間だ。
ふざけているのだろうか? 随分と凝った悪戯だ。内容はビデオらしい。
「倉木さん、ソレ、いまから観るのですか?」
後輩の清武が話しかけてきた。今年入社して俺の配下に入った新人だ。コイツもオカルトに興味があり、そうした番組制作に携わる俺の班の一員となっている。もっとも、俺ほどまでに詳しい感じでもなく、にわかのオカルト好きみたいだが。
「みてみなきゃあ、わからないだろ。もし使えそうなら使うさ」
「ワクワクしますね!」
「まぁな。ふざけて送ってきた物かもしれないが」
俺は包装物を開けた。中にはビデオカメラに入っていたと思われるSDカードと封筒入りの手紙があった。手紙にはこう記してある。
『金田友樹、近藤卓也、河村剛士のご冥福を祈ります。私はこのフィルムの中にいます。でも、もうどこにもいません。どうか私を探さないでください』
いよいよ悪ふざけもいいところだと感じた。
まぁ、何にしてもビデオをみてみなければ真実はわからない。
清武は手紙をみて目を輝かせてやがる。容貌も中身も変わった女だ。
俺はやれやれといった顔をして、カードリーダーにSDカードを差し込んだ。
「お! さっそくみるのですね!」
「ちょっと黙っていろ」
彼女の熱視線は手紙からモニターへと移り変わった――