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有無相生  作者: うちょん
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おまけ②「髪型」


 おまけ②【髪型】













 帝斗は、髪の毛を短くした。

 女性の麗翔よりも長く、漆黒に染まっていた綺麗な髪だったが、それを躊躇なく切った。

 もともと、長くしていたのは、帝斗の趣味とかそういうわけではない。

 帝斗の昔のことが関係していて、長い方が慣れているというところだろうか。

 鳳如を始め、琉峯、麗翔、煙桜、そして帝斗の部下たちだって、帝斗の髪の毛は長い方が見慣れているのだが、まあ、短いのが似合わないわけでもない。

 ただ、今までの帝斗とは違う感じがしてしまうらしく。

 「帝斗、髪の毛伸ばすの?」

 「あ?もういいよ、面倒臭ぇし」

 「なんで?また伸ばせばいいじゃない。長い方が似合ってるわよ」

 「麗翔、お前喧嘩売ってんの?なんで男が長い方が似合うなんて言われなきゃならねえんだよ。それで俺が喜ぶと思ってんのか?」

 「だって、ずーっと長かったじゃない。ねえ、琉峯?」

 「・・・どちらでも」

 「だよな琉峯」

 なぜ麗翔が長くしろと言ってくるのか分からない帝斗は、鳳如に書き直すようにと言われた報告書と睨めっこしていた。

 琉峯はその隣で帝斗の報告書の手伝いをしており、麗翔は邪魔をしている。

 煙桜はというと、鳳如となにやら大事な話をしているらしく、今この場にはいない。

 「長髪っていうのが帝斗のチャームポイントだったのにね。短髪になったらなんか・・、なんていうか・・・」

 「俺は髪だけの男か」

 「短い方が洗うのには楽ですよね」

 「そうなんだよ。今までは結構時間もかかってたんだけどよ、短ぇとあっさりと終わるもんだな。しかも洗い終わってからも、湯船につかねえようにまとめなきゃならなかったんだけど、その手間もねぇし。いやー、楽だわ楽」

 「いっそハゲさせれば?」

 「麗翔てめぇ、女でもいつかブン殴ってやつぞ」

 「そうですよ、麗翔。いつかハゲるんですから」

 「琉峯、お前大人しい顔して一番失礼なこと言ってるからな」

 そんな会話をしていると、煙桜が煙草を吸いながら部屋に入ってきて、その後ろからは鳳如も来た。

 こうして5人揃う事は珍しくはないが、鳳如は帝斗の髪の毛を見るなり、楽しそうに口元をおさえてケラケラ笑った。

 こういう奴等しかいないのかと、帝斗は唇を尖らせる。

 「あーあ。帝斗、本当に短くなったね」

 「馬鹿にしてんのか」

 「してないでしょ。似合う似合う」

 「棒読み止めろ」

 「でもせっかくなら、あの長い髪で三つ編みとかしてみたかったなー。ちょんまげとかさ。色々出来たよねー」

 「鳳如、お前俺で遊ぶことしか考えてねぇの?」

 「そんなことないよー?だってよく考えてみな?俺も琉峯も短いんだよ?煙桜なんてこれからハゲゆくんだよ?どうやって遊べると思うの?」

 みなさまお忘れかもしれないが、鳳如はこうしてへらへら話すこともある。

 状況によって、みなさまご存知の口調に変わるのだ。

 鳳如の言葉に対し、煙草を吸っている煙桜は窓際に向かいながら、呆れたようにため息を吐く。

 「てめぇも同じようなもんじゃねえか」

 「えー、俺と煙桜は同じなわけ?すっごくショックなんだけど。俺はまだアレンジきくでしょ?」

 「まあ、確かに鳳如は煙桜よりもアレンジきくだろうけどよ、その短さじゃちょっと縛るくらいじゃねえの?」

 「そう?まあ、面倒だから絶対にやりたくないけどね」

 「じゃあ言うな。言いだしっぺの癖に」

 「結局のところ、私が一番ってことね!やっぱり髪の毛で色々やるなら女子でしょ!髪染めたり、パーマかけたり、今じゃ色々アレンジ出来るみたいだし!」

 勝ち誇ったように、麗翔が髪をかきあげながら声を張る。

 だが、誰も反応しなかった。

 それどころか、話は帝斗の髪の切り方に変わっていて。

 「帝斗、それ自分で切ったの?」

 「おう」

 「やっぱりね。毛先バラバラだよ」

 「仕方ねぇだろ。誰に切ってもらえってんだよ。誰も器用な奴いねぇじゃねえか」

 「俺は琉峯に切ってもらってるぜ」

 「俺もー」

 「え、まじ?琉峯、なんで俺の髪は切ってくれねぇの?」

 「頼まれませんでしたので」

 「器用って言ったら琉峯でしょ。料理も出来る子だよ?繊細で器用さが必要なものは琉峯に任せれば大丈夫」

 「まじか」

 「まじだよ。ちなみにね、細かい職人作業は煙桜で、豪快で雑なことは帝斗」

 「おい。なんで俺は豪快で雑なんだよ。もっと良いところあるだろ」

 「あったっけ?」

 鳳如が、煙桜を見ながら問いかけると、煙桜も同じように首を傾げた。

 そこで、鳳如は少しだけ言い方を変えた。

 「じゃあね、元気でおおらかなことは帝斗?」

 「なんで最後?で終わるんだよ。それに元気でおおらかな仕事ってなんだよ。さっきから俺のこと馬鹿にしやがって」

 「馬鹿にしてないよ。帝斗の良いところだろ?褒めた心算なんだけどなぁ・・・。あ、それなら、帝斗の良いところをみんなで言っていこう」

 「いや、そんなのは求めてねぇよ」

 「じゃあ俺からねー」

 「聞いてねぇし」

 んーと、と考え始めると、鳳如は「元気」とついさっき言ったことをそのまま言って、煙桜の方を指差した。

 煙桜は自分を指さして怪訝そうな顔をしたが、顎に手をあてて少し考えたあと、「気紛れ」と言った。

 次に煙桜に指をさされた琉峯は、「練習好き」と言った。

 続いての麗翔が「きー?き、き、き・・・、昨日髪切った」と言うと、また鳳如に戻って次々に何かが始まった。

 「大した奴?」

 「つ、つまらねぇ冗談を言う」

 「う・・・歌、が苦手?」

 「てー、手が綺麗」

 「いつもにやけてる」

 「ルンバを踊って姿を見たことがない」

 「至って普通の人」

 「トイレは男子用」

 「美味いもんが好き」

 「今日日の若い奴らは年上を敬わねえ」

 「エンジ色が似合うかもしれない」

 「いー!?い、イルカが好きかも?」

 「モダンな雰囲気を醸し出してない」

 「色気がない」

 「い・・・色味がない」

 「いーーー、急がない」

 「いぶし銀じゃない」

 「いい男じゃない」

 「いとこじゃない」

 「意味がない」

 「意地が悪い」

 「い「おいいいいいい!!!!てめぇら何人の悪口をしりとり形式で言ってんだよ!!吃驚だよ!まさか最初は良いこと言ってるよとちょっと思った俺だけど、聞けば聞くほど悪口になってるっつの!!!てか何だ!?もはや琉峯の“練習好き”あたりから怪しいなとは思ってたけど、まさかだよ!!意味分かんねえしりとり続いたな!!」・・・帝斗、まだ終わってねぇぞ」

 「煙桜、『終わってねぇぞ』じゃねえから!お前がテーマならとっくに終わってるだろうからな!あまりに特徴なさすぎて終わってるやつだからな!!」

 「良い勝負だったねー。引き分けってとこかな」

 「引き分けじゃねぇよ。全員負けだ。ゲームオーバーだ」

 「楽しかったわね」

 「しりとりなんて久しぶりです」

 「琉峯、お前のやつ結構酷かったからな。俺、初めてお前に苛立ちそうになっちゃったよ」

 「次は煙桜でやってみる?」

 「止めろ」

 「楽しそうね!」

 「止めろ」

 「勝ったら何かあるんですか?」

 「止めろ」

 「そうだなー。勝ったら煙桜にマッサージしてもらえるってのはどう?」

 「嫌よ、私。セクハラされそう」

 「誰がするか」

 「俺は骨折られそう」

 「折ってやるよ」

 「俺は煙桜に稽古つけてほしいです」

 「だからそういう・・・あ?」

 「じゃあわかった。麗翔が勝ったらみんなで麗翔の料理を食べよう。罰ゲームとして」

「罰ゲームって言ったわね」

「琉峯が勝ったら帝斗にバリカン使おう」

 「何でだよ」

 「帝斗が勝ったら煙桜に禁煙させよう」

 「何でだよ」

 「煙桜が勝ったら琉峯にハイテンションになってもらおう」

 「何でですか」

 「じゃあ、鳳如が勝ったらどうなるの?」

 「俺?俺が勝ったら、みんな俺の前で跪いてね」

 「「「「何でだよ(ですか)(よ)」」」」

 そんなわけの分からないやりとりをしていた日から数日後のこと。

 「あれ?帝斗、髪伸びた?」

 「あ?ああ、伸びたかもな。ちょっと首の後ろが痒い」

 「なんか中途半端だね」

 「そうか?」

 「うん、そうだよ」

 「・・・なんだ?その手に持ってるものは」

 「知らない?バリカンだよ?」

 「とりあえず落ち着いてそのバリカンを床に置いてくれ、鳳如」

 「どうして?俺は落ち着いてるよ?」

 「なんか顔が怖いから。笑顔だけど怖いから」

 「帝斗、男は潔いのがモテるらしいよ」

 「モテなくて良いからそれは絶対嫌だ。俺は潔くないから。バリカンは何があっても嫌だ」

 「帝斗、どうして俺から離れるの?」

 「鳳如、どうして俺に近づいてくるんだ?」

 「帝斗のためだよ」

 「煙桜、通りかかったなら俺を助けてくれ」

 「・・・・・・断る」

 「煙桜!!!お願いだから俺を身捨ててくれるな!!あんな恐ろしい物を恐ろしい奴が持ってるんだぞ!!俺がこれからどういう目に遭うかくらい想像がつくだろ!!」

 じりじりと帝斗に近づいてくる鳳如に、背中を向けて逃げればすぐに捕まることは予想出来たため、正面を向いたまま、一歩一歩後ろに下がって行くしかない。

 そんな様子を煙桜は煙草を吸いながら悠悠と眺めていたが、ふと何かを思い付いたのか、鳳如にこんなことを提案してみた。

 「鳳如」

 「なに、煙桜」

 「折角なら、帝斗よりも長い髪のやつの方が、やりがいがあると思うぞ」

 「?」

 「今の帝斗をはげさせたところで、若い奴はすぐにまた伸びるだろうからな」

 「じゃあ何?煙桜がする?」

 「馬鹿言うな。それよりもっと、適人がいるじゃねえか」

 「「??」」




 「鳳如は何をしておるんじゃ」

 「よう分からんが、オロチの髪をバリカンで短くしようとしておるらしい」

 「なんでまた」

 「さてのう。あ、鳳如がオロチの首をホールドしおった」

 「オロチも災難じゃのう。わしらは骨を拾ってやることしか出来ぬが」

 「・・・主、助ける心算は無さそうじゃのう」

 「全くもって」

 「しかし、鳳如が個人的にオロチにそんなことをする理由はないはずじゃ。誰かのさしがねかのう?」

 「・・・・・・」

 「なあ煙桜」

 「んー?」

 「なんであんなこと言ったんだ?お前、オロチとは酒飲み友だちだろ?」

 「あ?誰があんな奴と友達なんだよ」

 「は?じゃあなんなわけ?」

 「あいつはな」

 「うん?」

 「あいつは、俺が大事にとっておいた、部屋に隠しておいた※ラ・モールを飲みやがったんだ。その代償としては安いもんだろ」

 ※ラ・モールとは、こっちの世界のお酒で、ウォッカベースの強いお酒である。ワインのように、少し寝かせるとより一層味わいが深まると言われている。

 「・・・ああ、そういうこと」

 オロチの未来図を想像しているのか、煙桜は心なしか微笑んでいるように見える。

 「・・・煙桜の酒には手を出さねぇ」

 帝斗は、心の中で誓った。

 それからオロチがどうなったのかは、鳳如だけが知っていること。


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