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夢見る乙女

しばらく歩いた後に、一般人や観光客が多い区画を出て金持ちが利用するような高級な店が立ち並ぶ通りに出る。

ここらの店ならいい素材でエフィリアの体に合ったオーダーメイドの服を作ることができるだろう。



「でも、私の服だけでいいの?むしろシグレの服こそ買った方がいいと思うんだけど」

「俺の?――そうか、そういえばそうだった」



自身の服装に目をやると、俺の今の服装は以前塔にいたときからずっと着ている黒のローブだ。

動きやすい伸縮性の高い生地で作られており、体やローブ自体は魔術でいくらでも清潔に保つことができるのでずっとこの服を着たままになっていた。

正直に言って見た目は新品も同然だが、この格好で店に入るのはいささか憚られる。

むしろエフィルに恥をかかせてしまうだろう。

そんなことにはするわけにはいかない。

そうなればせっかく得た信頼ポイントがまた失われてしまう上にそんな相手に対する接客態度がエフィルにまで及べば人間に対して再びよくない印象を持ってしまうかもしれない。

もしこの店をエフィルが気に入れば今後もきっと来ることになるだろう。

そういったことには気を付けて行かねば。



「少し目を閉じていてくれないか」

「え?どうしたの突然」

「大丈夫。エフィルには何もしないよ」

「そ、そう?わかった」



そういいながらエフィルは目をそっと閉じる。

そうさせた本人が言うのもなんだが少し無防備すぎる気もする。だがこれも一つの信頼の証として受け取っておこう。

それはそうと、こちらは自分自身のことを済ませねばならない。

見た目は――そうだな、この間塔に来た貴族の服装を少し地味目にした感じでいいだろう。

魔術で衣服を変更し、衣服が変わる瞬間はご都合主義のごとく真っ白な光で覆う。

光が収まったときには俺の服装は、少し派手な衣服が苦手な貴族の息子くらいには見えるであろう物に代わっていた。

エフィルは少しサイズが合わないとはいえ、それなりの高級感のある服装をしているのでこれで二人とも店に入れるだけの格好にはなっただろう。



「もういいよ」

「ん、思ったより早かったわね。って、いっ、いつの間に着替えたの!?というかどこから取り出したの!?そしてローブはどこにしまったの!?」

「四次元ポケトかな」

「よじげ…?よくわからないけど、シグレってたまに驚くようなことするわよね…空飛ぶ島から飛び降りてきたリとか」

「さて、店に入ろうか」



足首を激しくくじいた黒歴史を掘り返される前に会話を強制終了させて店の扉を開ける。

金属の装飾が施された高級感のある扉を開けると、中はふかふかの絨毯がひかれており少し薄暗い。言い表しずらいが、新しい生地の匂いというような匂いが漂っている。

個人的にはこの真新しい匂いは結構嫌いではない。

品揃えについては、流石はアトランティと言うだけある。

一般的に貴族が好みそうな装飾の施されたドレス以外にも、他種族の中で高級とされる素材を使った衣服も多く取り揃えられているようだ。

客はどうやら今は俺たち以外は店内におらず、すぐに店員にオーダーメイドでエフィリアの服を頼むことができそうだ。

店のカウンターにいる初老の店員に話しかけるべく近づく。



「いらっしゃいませ。どのような衣服をご所望でしょうか」

「ああ、彼女に最高品質のものを頼みたいんだ。衣服の好みは彼女に聞いてくれ。値段はいくらかかってもかまわない。できるだけ良い性能の物を良い品質で頼む」

「いくらかかってもと申されましても……具体的にご予算をうかがわなくては私共としてもなんとも……」

「そうか、じゃあこれだけ先に渡しておくから足りないようなら言ってくれ」



と言いながらとりあえず持ってきた金貨の4分の一ほどが入った袋を渡す。ドシャッと言う音を立てながら袋が店員の手に渡り、店員が中を確認して驚いて袋を取り落としそうになった。



「こっ、これだけの額の物となりますと装飾で鎧のように重くなってしまうことになりますが…」

「え?それは困るな。じゃあ今回のオーダーメイドの仕事で彼女がここの服を気に入ったら今後俺からの注文を最優先で仕事をしてくれるという事にしてくれればいい」

「そ、それはこれだけの金貨をすべていただけるという事ですか?」

「それで構わないよ」

「わ、分かりました……。わたくしが責任をもってこの依頼をお引き受けいたしましょう」


今まで金なんて使う事がなかったから金庫には貢がれた分のお金ががほとんど丸々残っていた。

その中のごく一部の更に一部を渡しただけでこの反応とは……。

なんだか本当に貴族になったみたいだ。

現在の金貨の価値は興味がなかったので知らないが、どうやら俺はかなり大金持ちらしい。

初老の店員がパンパンと軽く手を叩くと奥から数人の別の店員が出てくる。

初老の店員の話を聞くと少し驚きながらもすぐに作業のための準備をしに再度作業場の中へ戻っていった。



「随分訓練されているみたいだ。ここにしたのは正解だったかな。それと――」



恐らくもう少ししたら採寸のために呼ばれるであろう今回の主役を呼ぶべく振り返る。

どうやらここでも見たことのない衣服や生地などが珍しいようで、目を輝かせて店内中を小走りで見て回っていた。

少しニュアンスが違うかもしれないが、どこの世界でも女の子と言うのはウィンドウショッピングが好きな生き物らしい。

そうしている間にも採寸のために女性の店員が中から出て来た。どうやら準備が整ったらしい。



「エフィル。採寸してもらって来てもいいかな」

「――えっ!?あ、採寸ね!わかってるわ。じゃあちょっと行ってくるわね」



まるで夢見る乙女のような表情で飾ってある商品を見ていたエフィルだったが、俺が呼んでいることに気が付いて慌てて店員についていく。

今から作られる服が彼女の夢を満たすようなものになればいいんだが。

すると、初老の店員がこちらに近づいて来た。



「可愛らしいお方ですな」

「俺の妻だよ。つい最近夫婦になったばかりなのだけれど、せっかくだから彼女の服も彼女が望むものをそろえたいと思ってね」

「なるほどなるほど、それはおめでとうございます。私共にお任せいただければ必ずやご期待にそった品にして見せましょう」



その言葉通りに美しい衣装を身にまとったエフィルを想像する。彼女なら元が良いからどんな服でもに合いそうだ。

はっはっはと朗らかな笑いを上げる初老の店員。しばらく彼と雑談をしながらエフィリアの採寸を期待しながら待った。






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