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合理と感情

艶を失ってしまってはいるものの、それでも美しいと言える金色の長髪を手の中でサラサラと遊ばせる。せっかくの髪なのだからしっかりとケアしてあげよう。

今までは俺一人だったから料理なんてせずに体内でビタミンから何から生成していたけれど、せっかくなのだからふたりで一緒に食事なんてのもいいかもしれない。



「すぅ、すぅ」



エフィルはと言うと、先ほどから俺の腕の中で寝息を立てて熟睡している。しっかりと眠ってもらうために魔術を使用してた。効果の程はこの通りだ。

すやすやと眠るエフィルの寝顔を見ながら少し思考を巡らせる。

俺の行動のすべては基本的にこうすることは夫なら当然だろうと思ったものを実行しているに過ぎない。

それらは俺自身の心理的な要因からおこるものではなく、常識、知識から来るものだ。それを考えると彼女には少し申し訳なく思う。一目惚れ、と言うのは本当のことだが、俺自身が愛しているかと考えれば―――。

薄ら暗い思考が深まるにつれ、脳の端がチリチリと焼けていくような気がする。あまり心地のいい感覚ではない。何とか考える方向を変えなくては。



「感情のことについてはこれから何とかしようと決めたのだから今考えても意味はないはず。いちいち物事に理屈や原理を深く求めてしまうのは俺の悪い癖だ。」



自分自身い言い聞かせるようにそう口に出す。

ひとまずこの件についてはここで一度きりは無そう。

そんなことよりエフィルの話だ。

エルフの里というのは凄まじく奥地というわけではないが、そう簡単に人間が侵入できるような場所でもない。

そこに偶然通りがかった盗賊というのはよくよく考えると少しおかしさを感じる。

盗賊だと言うならそんな人通りの少ない場所よりも街道沿いの商団なんかを狙ったほうが効率がいいはずだ。

確かにエルフを捕まえて一攫千金という可能性も無きにしも非ずといった感じではあるが、そこまでリスキーな事をしなくてはいけないほど追い詰められている連中がそんな人里離れた場所まで足を運ぶだろうか。

そうなれば、十中八九何らかの目的を持ってエルフを捕まえに来た連中だろう。

貴族どもが愛玩動物にするために襲わせたか、それともマナーを守らない魔術師どもが特殊な実験のためにエルフの体の一部を求めていたか……。

なんにせよ、しっかりと調査する必要があるだろう。

そう心に決めて自分も眠りについた。






翌朝、朝食を済ませてエフィルに空中庭園を案内する。

この空中庭園は、中央から湧き出ている噴水の水で四つの区画に分けられている。

まずは自宅のある区画だ。

ここは真上から見ると右上に位置しており、俺たちが昨日寝泊まりした一軒家とちょっとした花壇がある程度だ。

他は今のところは空き地になっている。

草原に近い状態なので、昼寝場所としてはこのままでもいいかもしれない程度にだけ考えている。

次に自宅のある左隣の区画だ。

ここには巨大な図書館を作る予定だ。俺が今まで読んだ本や、俺が自分自身で書いた書物なんかも保管さする。

基本的には俺が塔にあった本たちから離れたくなかったというのと、旅先で新しい本に出会った場合に新しく蔵書として追加するためだ。

その下にある区画には果樹園がある。

当然こんな空飛ぶ庭園にある果樹園なのだからただの果樹園ではない。

ここでは、ちょっとした魔術の実験をしている。果物に色々な術式を盛り込んで、その果実を食べることで魔術の効果を発揮することができるというものだ。

今はちなみにゴールデンアップルを栽培している。

最後に右下の区画だが、ここは一番この空中庭園で庭園と呼べる場所だ。

比較的中央の噴水に近い場所に小さな屋根付きのスペースが作られており、その中にはテーブルと椅子が並んでいる。

暇なときにはここで紅茶でも飲もうと思っているが、今のところはまだ一度も使用していない。



「なんというか……無駄に広いわね」

「ある程度のことならこの庭園内で済ませたいと思ったからね。これだけあればそれなりの生活をしようと思っても十分かなと思ったんだけど、なかなか自分以外が喜ぶ物が思いつかなくて」

「それであちこちに空き地が多いわけね」

「そういう事かな」



そう言いながら案内を終えて家の方に戻る。

歩きながら「そういえば」と思いフェリアに話しかける。



「そういえばシリラではどんな部屋に住んでいたの?」

「私の部屋?まぁ、エルフの家は一般的に森の奥の木々が密集しているところに木の生え方に合わせて木造の家を作るんだけど、そんな作り方するから結構家とか部屋が曲がった感じが多かったのよね。だから大きな家具とかはあんまり持ってなかったのよ。でも昨日あの部屋で過ごしてあれくらいの大きさの家具も割といいかなと思って――って、そういえばシグレはエルフの集落に行ったことあるんだったわね。でもそれなら私の家具の説明いらなかったんじゃない?」



エフィルがどうしてこんな話を?と言いたげな顔でこちらを見てくる。



「エフィルが嫌じゃなければエフィルの家具とか服とかを人間の国に買いに行こうかなと思ってさ」

「え?――今ある分で十分間に合ってるよ」



視線が少しぶれた。これは何か隠してるか?



魔術『サードアイ』を作動させる。

特定の相手の心、思考を読み取る魔術だ。

魔力の出力次第で効果人数も効果範囲も上がる便利な魔術だが、それだけの人数の思考によって発生したデータを処理仕切るだけの脳の処理能力がないとまともに行使できない。

俺は別にそれなりの人数はさばけるが、今は相手はエフィル一人なので特別心配することもないだろう。

魔術行使をした直後に、エフィルの思考が流れ込んでくる。



(うーん、家具に服かぁ…。家具はまだいいとして服の方はこの服ちょっと胸のあたりがスカスカ――い、いや、これから成長するけれど!するけれど!それでもちょっと気になるわね…。でも正直言ってあまり甘えるのもなんだか申し訳ない気が…)



なるほど。

パジャマの方は俺の手作りだったが、今着ているのは以前機会があってもともと持っていたドレスだ。

普段着からドレスしかなくてはいつも森の中で激しく動き回っていたエルフのエフィルは少し窮屈だろう。

これはやはり一度下降りた方がいいかもしれないな。



「エフィルは別に人間の街に行っても平気かな?」

「それは別に構わないわ。人間にはひどい目に合わされたけれど、別にそれで人間みんながひどい人たちとは思っていないもの。エルフも人間も悪い人がいれば善い人だっているわ。た、例えば、し、シグレ…とか…」

「え?なんだって?」

「な、なんでもないわよ!」

「そうか、それじゃあ支度をしに家に一度戻ろうか」



そう言ってその場の会話を終了させ、来た道をたどり家に向かって歩き出す。その後ろからエフィリアも慌てたように俺についてくる。



善い人、か。



どうやら俺に対する警戒はずいぶんと解けたようだ。それはそれでうれしい、と思う。

俺としてもいちいち警戒されていたら疲れてしまう。

だとしても俺は善い人ではないと思う。

さっきだってエフィルのことなんて考えずに彼女の思考を覗き込んだ。

その方が手っ取り早くて、俺個人として楽で、合理的だと思ったからだ。思ってしまったからだ。

誰だって相手に自分の考えを読み取られるなんて嫌なはずなのに。

後になって先程の魔術の行使について胸にもやもやとした気持ちが渦巻いていく。

自分自身で感情的な部分を取り戻していきたいと言ったくせにもしそれを知ったときの相手の気持ちを考えていなかった。

エフィルには表情に影が落ちているのを悟られないように歩き、下に行くための準備に必要な項目と工程のフローチャートを頭中で組み立てていった。






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