ノーラの夢
「それじゃあさっきの話に戻ろうか」
リビングの席に付き、先ほどまでの話し合いの議題を再度提示する。
この空中庭園の空きに空きまくってしまっている無駄なスペース、これをどうするかという話だ。
その土地の使用例として二人に使いたい施設ややりたいことを聞いた。
すると、ノーラがおずおずとと言った表情で小さく手を挙げる。
「何か案があるのかな」
「う、うん。その、私がやりたいことって言うか、夢、見たいなものなんだけど……」
「聞かせてもらってもいいかな?」
「う、うん」
肯定したにもかかわらず、ノーラの表情はあまりうれしそうではない。
言うのを渋っているのは確かだが、何となく嫌というわけではなさそうだ。
恥ずかしそう、というのが適切だろうか。
「そんなに気にすることは無いわよ。軽い気持ちで行っちゃいなさい。どうせ私たちが無理難題だと思って投げかけたお願いでも軽く叶えちゃうんでしょうし」
エフィルはそう言って小さく笑いながら肩をすくめる。
その瞳にはある種の信頼のようなものが見えた。
そのことをうれしく思うと同時に、その信頼に答えたいとも思った。
そしてノーラにも同じくらいに信じてもらいたいとも。
「俺にできることならできる限り努力するよ。だから言ってみてほしいな」
「わ、笑わない?」
「笑ったりなんてしないさ。だから、素直な君の願いが聞きたい」
その言葉を聞いたノーラは少し俯いたまま数秒固まる。
そして小さな声で話し始めた。
「――っこ」
「え?」
「――たぼっこ」
「ごめん、もう少し大きな声で言ってもらえないかな」
「ひ、日向ぼっこが、したい、です」
そのことを聞いた俺とエフィルは二人で目を見開く。
これは驚いて当然だ。
何といったってノーラが『日向ぼっこ』を望んだこと自体が驚くべきことなのだ。
彼女は吸血鬼なのだ。
本来であれば太陽は本能的に憎むべき存在であり、まさしく天敵である。
吸血鬼とは、強い力を持つ代わりに太陽に嫌われた種族と言われている。
体を太陽の光にさらせば瞬く間に煙が上がり、発火。
そのまま全身に炎は燃え広がり最終的には真っ白な灰になってしまう。
そんな彼女が太陽光に当たりたいと言い出したのだ。
これを驚かずにいられるものきっといないだろう。
「ひ、日向ぼっこかい?」
衝撃のあまり、ノーラに再度聞き直してしまった。
「う、うん。変、だよね」
自分でもおかしさを自覚していたのか、諦めの念が見える表情でまた俯いてしまう。
その顔はあからさまに発言したことを後悔している様子だった。
「いや、少し驚いただけなんだ。ごめんよ、確かに種族的にはおかしなことかもしれないけれど、ノーラがそう望むのなら俺が何とかしよう」
ノーラはその言葉を聞いて驚いたように顔を上げる。
「ほ、本当に何とかできるの!?」
「ああ、問題ないよ。明日には太陽の光に当たっても大丈夫なようにする対策を考えておくからね」
「あ、ありがとうシグレ!!」
ノーラの顔がまるで夏の向日葵のようにはじけた。
それだけで彼女はきっと太陽の光が似合う女の子だとわかったような気がした。
青々とした草木たち、温かくい陽気な太陽、そして木陰で木漏れ日を浴びて眠るノーラ。
ああ、これは是非とも見てみたい。
どうも、何が何でも結果を出さなくてはいけなくなったな。
そしてエフィルもノーラに対して謝った。
「ごめんね。私も最初は驚いちゃったけど、今度一緒に外でお昼寝しましょ!」
「うんっ!」
ノーラと一緒に眠るエフィル、か。
ますます見たいな、これは。
溢れんばかりの下心を抱えながらそんなことを考えた。
これからどんなことをしようかだとか、他の場所にはどんな物を作ろうかなどと楽し気に話す二人を見ているとなんだか胸の内が温かく感じてくる。
木の下で並んで眠るエフィルとノーラ。
二人の綺麗な金と銀の髪が風で揺らめいて―――
きっとそこに二人がいるだけで絵になるようなお昼寝だろう。
よし、頑張ろう。
これから自分たちが作り上げていく空中庭園が、また少し楽しみになった。




