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暖かな夕食

ノーラを助ける。

その言葉の意味を考える。

今は隣ですやすやと眠ってしまっている可愛らしい少女が口にした言葉。



『あの子を―――ノーラを助けてあげてほしいの』



『助ける』といえば、俺はあの実験室からノーラを助け出した。

これも言ってしまえば俺は彼女を助けたことになるだろう。

しかし、エフィルが俺に言った助けるというのはそういう事ではないはずだ。

これは心の問題だ。

彼女を助けてほしいというエフィルの願いには答えたい。ならばまず彼女が必要としている助けについて考えるべきだ。



「ノーラの求める救い、願いは何なんだろうなぁ……」



もしかしたらこれはいらないおせっかいなのだろうか。

彼女からしたら、知らない人間が自分の内部に侵入してきて不快な思いをするだけかもしれない。



「こればっかりは本人に確認しない限りはわからないな」



そう考えるとノーラも今は寝ているようだし、亜人種が攫われる事件は収まっているだろうから他にやることもない。

ふと隣を見てみると、横には都合よく可愛らしいうちの嫁がこれまた可愛らしい寝息を立てている。

体制を変え、エフィルと向かい合う形でベッドに寝転んだ。

エフィルを起こさないようにして彼女の頬に触れる。

ぷにぷにと柔らかい感触が指に触れる。

あの時はくすんでごわごわになってしまっていた髪も、今では艶があるサラサラで撫で心地最高な髪になっていた。

俺はそもそもでエフィルを救えていただろうか。

最近は段々と感情や、人の心と言えるものを取り戻せている気がするが、エフィルと初対面だった時はそれなりにひどい状態だった気がする。

そんな状態でエフィルを半ば強引にここまで連れてきて、彼女を救う事が俺には出来てたんだろうか。

そんなことを考えながら、緩やかなまどろみの中に意識を手放していった。




昼寝の後にエフィルと紅茶を飲みながらリビングで紅茶を楽しんでいると、二階からの階段を降りる音が聞こえてきた。



「あ、あの……」

「おや、起きたか。おはよう、というほど早くはないけれどね」

「そうね、もう夕方だものね」



すでに外の日は落ち、窓からは赤い夕陽が見えていた。

俺たちにとってはおそようではあるものの、ヴァンパイアである彼女にとってはむしろ早起きだ。

彼女達バンパイアはもともと闇夜の中に生き、影と共に生活をする種族だ。

俺たちとは体内時計がそもそもで違うのだろう。



「気分はどうかな?」

「は、はい、大分よくなりました」

「そうか、それは良かった」

「別にそんなふうにかしこまる必要はないってさっきも言ったじゃない。もっと気楽にしていいのよ」

「わ、わかり――わかっ、た?」



なぜ疑問形なのかはさておき、彼女の夕食もとい朝食を作ろう。

入浴後はすぐに倒れるように寝てしまったという話だったし、きっとおなかをすかせているはずだ。

この家での料理は交代制だ。

これは二人で決めたことで、最初は俺が一人で作ると言っていたが、エフィルはそれはだめだと意見を入れた。

そこで間をとってその日ごとに交代制ということになった。

要するに今晩の担当は俺だ。




「これから夕食を作るけれど、何かリクエストはあるかな?」

「えっ、わ、わたし?」

「そうだよノーラ。今日は君が食べたいものを作ろう」

「そんな…ほんとに私が決めてもいいの……?」

「当然じゃない。あなただって今日からうちの家族なんだから」



家族、その言葉に反応するようにノーラが目を見開く。

何度か口をパクパクさせてなにかを言いたげだったが、そのたびに躊躇するように口を閉じてしまう。

そして自分の中で何かに納得がいったのか、彼女は口を閉じて小さくほほ笑んだ。



「それなら、シチューがいいな」

「わかった。そこの椅子に掛けて待っていてくれ」

「う、うん」



ノーラに一声掛けて席を立つ。

リビングと併設してあるキッチンへと向かい、鍋を取り出す。

その中に、シチューの差材料となるものを次々に敷き詰めていき、再度蓋を閉める。

丸い金属製の鍋をIHクッキングヒーターの上に起き、蓋に縁を描くように指先でなぞった。

すると、次第にぐつぐつという音が聞こえ始め、鍋からは良い回路が立ち上り始める。

数秒後、蓋をあけると、中には先ほどまでの元の形のまま入っていたはずの具材たちはきれいに切りそろえられ、おいしそうなシチューが煮えていた。

戸棚から人数分の木の器を取り出し、こぼさないように気を付けて盛り付けていく。

少しとろみのついているため、ゆっくりと器の中に広がっていった。

ニンジンやジャガイモ、鶏肉と言った具材も程よく火が通っていておいしそうだ。

各3人分の夕食をトレイに乗せ、リビングまで運んでいく。



「お待たせ。出来たよ」

「え、えぇ!?は、はやくない……?」

「やっぱりこれを初めて見たら驚くわよね。私も最初はかなり驚いたわ。これでめちゃめちゃおいしいんだから料理を一から作る人間の立つ瀬がないわよね」



そう言ってエフィルは頬を膨らませる。



「俺はエフィルの料理はエフィルの愛情を感じるから好きだな」

「そ、そうかしら。そういわれると私も作ったかいがあるけれど――って、早く食べましょ!せっかくのシチューなのに冷めちゃうわ」

「う、うん。そうだね」

「それじゃあ、二人ともどうぞ召し上がれ」



二人はそれぞれスプーンで熱々のシチューをすくい、口元に近づ行ける。

ふーふーと息を吹きかけて適温までシチューを冷ましていく様子は見ていて心温まるものがある。

そしてパクリ、と二人は口にシチューを入れたと同時に表情をほころばせた。



「やっぱり私の予想通りおいしいわね。クリーミーでまったりしているけど、後味がそこまで強くないから飽きずに食べられそう」

「う、うん!それに具材のお肉もお野菜もしっかり中まで火が通っててほろほろだし、大きさも丁度良くて食べやすいね」



俺の作ったシチューはどうやら好評のようで、二人の反応や感想も上々だ。

これなら作ったかいもあるというものだろう。

と言っても一瞬しかけてないから別に苦労もなにもしていないのだが。

自分でも一口食べてみるが、なかなかの出来栄えだと思った。

今度はビーフシチューにも挑戦してみてもいいかもしれない。



「そういえば二人に聞こうと思ってたんだけど、この空中庭園や今住んでいる家をこの先どうしていくかについてそろそろ決めたいと思っているんだ。何かいい案はないかな」



突然の話にノーラが首をかしげる。



「どうしていくかって、どういうこと?」

「この空中庭園って、無駄に広くて空き地が多いのよ。だから、何か建てようって話を前からしてたの。このところの一連の騒ぎが何やらひと段落ついてシグレが暇になったらしいから、その計画を進めようってことじゃないかしら」

「そういうことだね」

「なるほど」



エフィルの的確な説明に頷く。

ノーラも今のエフィルの説明で今朝見たここの景色とあてはめて理解してくれたようだ。

それじゃあ俺も考えてきた案を出すとしよう。

椅子に座りなおして姿勢を変える。



「そこで提案なんだけど――――」



そう言って俺は自分の案を話し始めた。






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