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エフィルの思い

ふぅ、と心地よく和んだ息をゆっくりと吐き出す。



「まさかそんなことになっていたなんてね……」



少しの間の静寂を破りエフィルがそう口にする。

空中庭園にある自宅のリビングで俺とエフィルとセフィラで紅茶を飲みながらこれまであったことを語りあっていた。

空中庭園に来たのが日が昇りだすような早朝だったので時間はいくらでもあった。積もる話は相当あったようで、この短い期間に自分の身に起きた驚くべき出来事の数々をエフィルとセフィラがお互いに交互に話した。

エフィルは、最初にあったときはエフィルと比べておとなし目な印象だったが、今は少し活発的な印象も感じている。おそらく姉の前でしか見せないセフィラの特別な一面なのだろう。

俺はと言うとその間二人の話を聞いて相槌を打ったり損場面の詳細を説明したりしていた。

しばらくその時間が続き、お互いに話すことが尽きたのでただゆっくりと紅茶を楽しんで今に至る。



「それにしてもおねえちゃんの旦那さんがあの大魔導師様なんてねー」

「それは私が一番驚いたわよ。最初は何だか頭のおかしな人くらいにしか思ってなかったのにね。今思えばあんな状況で告白されて色々思惑があったとはいえそのままついてきちゃうなんて私も相当参っていたたのかもしれないわ。まあ、今となってはよかったと思っているけれど」



エフィルが小さく笑い、その時の様子を思い浮かべるように目を細める。



「それは良かったよ。あ、紅茶のお変わりはいるかな?」

「いただくわ。ありがとうシグレ」



注がれる紅茶から漂うあたたかな香りが周囲の空気をゆったりとした雰囲気を作り出してくれる。

かぐわしい香りはティーポットから流れる液体から立ち上るものではあるが、それはティーポットの中にある素材から染み出したわけではない。

このティーポットは俺が作った魔道具の内に一つで、魔力を通すと中の液体が無差別で紅茶に代わるという代物だ。

この中にいれれば液体ならば冷水でも聖水でも泥水でもすべて紅茶に代わる。紅茶の種類としてはミルクティーだが、何を使ったミルクティーかと聞かれればアッサムのミルクティーのような気がする。そのあたりの詳しい味は何となくだ。こういった物を楽しむにはやはり楽しむ心が大事なのだ。決して適当ではない。

温まった状態で出てくるのは、飲む側のことを考えた匠の粋な気遣いである。



「そういえばセフィラに聞きたかったのだけれど」

「うん?どうしたのおねえちゃん」



エフィルが話を切り出そうとティーカップをソーサーに置くと、カチャリと小さく音を立てる。



「セフィラはこれからどうするの?」

「それは、どういう意味での質問なの?」



セフィラが家にやってきて最初にエフィルはセフィラを抱きしめ、セフィラの体が汚れていることに気が付きいた。

なのでそこでのやり取りがひと段落して二人は一緒に入浴をしに行ったのだが、その後でエフィルにある相談を持ち掛けられた。





「シグレ、ちょっといいかしら」

「うん?どうかしたの?」

「セフィラのことなんだけど、もしセフィラがここに住みたいって言ったら許可してもらえないかしら」



少し申し訳なさそうな表情でこちらをうかがうようにエフィルが言う。



「別にかまわないよ。もしかして――セフィラがまたこういう目に合うのが怖いのかな?」

「そう、ね。そうよ。これは完全に私個人の願いよ。私のせいで……ううん、私の見ていないところであの子が傷つくのが怖いのよ。だからこの家に、この空中庭園に置いておきたいの。これは単に私のエゴよ。だから私にから直接口にするのは私自信が許さないの。でももしあの子がここに残ることを望んだら、その時は―――」



エフィルはその先はただこちらをじっと見つめるだけで口にしようとはしなかった。

彼女はきっと今回の一件に少なからず責任を感じている。

実際は元よりあの村に来る予定ではあったものの、自分が森の外に無理に出ようとしなければここまで事態は悪化しなかったのではないか。そういった疑念が消えないのだろう。

こればかりは俺がどれだけ言っても本人が自分自身を許せるかどうかだ。そしてきっとそのきっかけを一番作ってくれるのはセフィラだろう。

今はセフィラを信じることが最良の選択肢のはずだ。

そう信じてセフィラに選択をゆだねることにした。






「セフィラがこれからどこに住むかって話よ」

「ここに住むって選択肢もあるってこと?」

「あなたがそうしたいならそれもかまわないわ」

「うーん……」



それを聞くとセフィラは少し考え込むように目を瞑る。

エフィルは少し緊張しているようで、力がこもった手を太ももに押し当てていた。

エフィル本人としてはこの家に残ってほしいのだろう。

数秒の後、セフィラは決意したように目を開く。

エフィルがごくりと固唾を呑んだ。



「うん、決めた。やっぱり私は村に戻るよ。お父さんとお母さんも急に娘二人がいなくなっちゃったら寂しいだろうし」

「そう……。やっぱりそうよね。わかったわ。急に変なこと言いだしてごめんなさい」

「気にしないでおねえちゃん。それに―――」



そう言うとセフィラはニカッと笑い、セフィラと同じ色の髪をふわりと揺らして立ち上がる。



「せっかくのアツアツな新婚さんを邪魔したら悪いしね」

「なぁっ!?」



予想外の返答にエフィルは驚愕の表情を浮かべ、その顔はまるで茹で上げられたように真っ赤になったいる。

いたずらっぽくほほ笑む彼女はエフィルにはばれないように少しだけ寂しそうにほほ笑んでいた。






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