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第四夜 前半

お待たせしましまして、申し訳ございません。

なんとか年内に第四夜の前半部分だけでも間に合わせました。


セッション中はノリで行くので、各プレイヤーのイメージが多少ズレていても先に進むんですが、文章にする為に調整しました。


━━━━━ 前回のあらすじ ━━━━


村人を的確に救助しながら君たちはこの一連の事件の元凶であるイベントボスエネミーのもとへと走る。視線の先に見えるのは夕暮れの村にはなかった。異様な洋館。次第に近づくにつれあたりには重苦しい空気が立ち込める。

イベント期間中一度も開かれることがなかったという門その前に君たちはついにたどり着いた。


さぁ、運命を切り開く冒険者たちよ

今宵の悲恋劇を始めよう

運命システム(運命)に翻弄される哀れな人形たちを前に君たちは何を示すのか・・・


━━━━━━━━━━━━━━━


男は王であった。かつて領土を広げ、配下を増やし侵略する怪物たちの王であった。

王はある日、女とであった。やがて二人は恋に落ち互いが互いを求めあった。しかし、幸せは長くは続かなかった。怪物である王を討つために英雄たちが訪れたのだ。

王は奮闘するも女を庇い英雄の刃に倒れる。敗北の中にありながらも確かなものを得て王は眠りに付くはずであった。


━━━━━━━━━━━━━━━


男は王であった。かつて領土を広げ、配下を増やし侵略する怪物たちの王であった。

王はある日 女とであった。やがて二人は恋に落ち互いが互いを求めあった。しかし、幸せは長くは続かなかった。怪物である王を討つために英雄たちが訪れたのだ。

王は戦いの中不意を突かれるも女に助けられ勝利を掴む。庇った女になぜそうしたのかと慟哭で喉を枯らしながら叫ぶ王。絶対に許さぬと誓い王は___ザザザ


━━━━━━━━━━━━━━━


男は王であった。かつて領土を広げ、配下を増やし侵略する怪物たちの王であった。

王はある日 女とであった。やがて二人は恋に落ち互いが互いを求めあった。しかし、幸せは長くは続かなかった 怪物である王を討つために英雄たちが訪れたのだ。

王はその力を存分に振るい英雄たちを蹂躙した。戦いが終わり自らの帰りをまつ女を抱きしめながら____ザザザ


━━━━━━━━━━━━━━━


男は王であった。かつて領土を広げ、配下を増やし侵略する怪物たちの王であった。

王はある日___________ザザ

男は王であった。______

男は女を(守れた/なかった) 

慟哭する自分を涙する自分を怒り狂う自分を走馬灯のように眺める男。男は目覚めた。いつもとは違う場所であったが、繰り返される悪夢の元凶たる女は再び目の前にいた。男は怒りとともに女を罵倒しようとした。

「どうして私を起こした。どうしてほって置かなかったのだと」

しかしその言葉は喉元でとまり声として大気を震わせることはなかった。女の瞳を見てしまったからだ。情愛に濡れた女の瞳の奥に隠れる怯えを男は理解してしまったからだ。繰り返される悪夢の中でいくらでも女のことは我が身のように理解をしていた。この女は両親に村に環境に拒絶され続けてきたのであろう。ゆえにこのような怪物に縋らなければ自身を保つことすらできなかったのであろう。そっと手を頬へと当てると女が驚愕に目を開きながらも微笑む。知っている無限とも言える悪夢の中でこの女の喜ぶことなど知り尽くした。もはや半身とも言える存在をどうして拒めるものか。そのままそっと抱き寄せ耳元で囁いた。

「捧げよ」

女は歓喜の涙を流しつつそっと首を傾ける。目に映る白い項に牙をあてその柔肌を貫いた。口に広がる血の味に誓おう。いづれ来る終焉に向き合おうと喩え繰り返されようと今このときは女のために生きようと。

しかし同時に思うのだ。システム(運命)によって繰り返される出来事の中でシステム(運命)よって惹かれるこの思いは果たして自分のものなのであろうか・・・っと


━━━━━━━━━━━━━━━


「ここが怪異の中心点、ですわね」

「たった数時間でこれか・・・。レベル以上に厄介な相手かもしれないな・・・」

XQは村の中に現れた洋館を見上げ、キリーは短時間でレイドゾーンに変化した洋館を前に呻く様につぶやく。

「このイベント、次はどうなるんですか?」「分かっていない。ゲーム時代、このイベントはクリアされていないんだ」

「さぁな?誰もクリアした事のないイベントだしな。第一、まだ私も始めてない頃のイベントで噂しか知らないんだ」

カエデはラクリマとキリーに尋ねるが、二人とも肩をすくめて苦笑する。

「なるほど、未知、ですか・・・」

「思い出した。当時まとめブログなんかで『実装するする詐欺』呼ばわりされてたイベントだったな、これ。鬼が出るか蛇が出るか…」

カエデのつぶやきに、伊達も詳しく事は分からず唸る。

「初めてのレイドに踏むこむのは冒険者の誉れですけど…。何でしょう、ちっとも嬉しくありませんわね」

「まぁ、悩んでも詮無いこと、是非もありません。」

「そもそも、終わったはずのイベントだからな。…」

何とも複雑な心境のXQに、カエデは先に進もうと促し、ラクリマは何とは無しにつぶやく。

門の前に佇んでいると一人の女が館の扉を開け姿を現した。

「…誰ですのっ」

XQは警戒して剣に手をかけ、

「彼女は・・・?」

「……」

キリーと伊達は訝しげに様子を伺う。

「ごきげんよう、私はカエデ冒険者です。あなたはこの館の方ですか?」

カエデは堂々とした態度で女性に対応する。

「ようこそお客様がた。主はみなさまのご来訪を心よりお待ちしておりました」

キリー達はそっと彼女のステータスを確認する。【セリア︰[モブ][半不死] [半大地人][ミニオン]】と表示されていた。

「あなたが村長の娘さんか・・・」

「貴方は…。セリアさん、ですわね?」

キリーとXQは彼女に確認をとる。

「(半不死、半大地人…か)」

ラクリマはステータスを確認して眉間にしわが寄る。

「はい、この村の村長の娘。いえ、この館の主に使えますセリアと申します」

二人の問にセリアは改めて自己紹介する。

「(無事だった、ってわけにはいかねぇか…)」タグに表示された内容に思わず眉を寄せる伊達。

「歓迎の意、ありがたく。ここの主様への面通りをお願いしたいのですが、よろしいですか?」

「はい どうぞ中へ」

カエデの言葉にセリアは皆を館内に招き入れる。

「主に会う前にあなたに聞きたい。この村や村長や妹に復讐したいか?」

キリーの質問にセリアはキョトンとした表情でセリアは首をかしげた。

「復讐・・・ですか・・・? いえ 考えたこともありませんでした。そうですね 普通に考えたらそういうことをすべきなのでしょうか・・・?」

考えた事も無かったという様な感じで答えるセリア。キリーは意外な返答に驚くが、セリアを警戒しながら観察する。伊達は無言で周囲を警戒する。

「なら、今村で起こっている事は知っているか」

「ふーん、この村をどうこうしたいとは思ってないんだ?しかし、現状この村にグールが出現して村の人を襲っている。それにはどう思う?」

「はい 主さまに相応しき領土を得るため配下の者たちが動いているのは存じ上げております。立ち話もなんですから、質問は移動しながらでも構いませんか?」

ラクリマとキリーの質問に淡々とした口調で答えるセリア。

「構わん(その程度の存在、という事か。この娘にとって村は)」

「構わんよ。主とやらにもいろいろ聞いてみたいしさ」

「とくに何も感じませんっといったら人としておかしなことでしょうか・・・?ありがとうございます。それではこちらへ」

セリアはラクリマとキリーの同意に礼を言って館内を先導する。

「そうか・・・(無関心か……。主とやらに精神干渉されてるかもな。彼女の選択次第では……。気が重いなぁ)」

キリーはため息と共に言葉をもらした。

「そうですか、何も感じないんですか・・・」

「貴方は…。そういう事ですの」

くすくすっと口元を抑えて笑い出すセリアの後をついて行くカエデとXQは困惑と怒り、悲しみが混ざった複雑な心境で無表情になる。非情な決断を下す覚悟を決めた。

「変な質問ばっかで悪いなお嬢さん。ついでにもう一つ聞きたいんだが…。この館の主ってのはどういう奴なんだい?」

伊達が場の雰囲気を少しでも和ませようとしたのか、情報収集の為か、あるいは両方かは分からないがセリアに質問する。

「偉大なお方です。それこそ私如きが評価するのは恐れ多いことかと」

「そっか、月から来たって話だしな。そりゃあすげぇだろうな」

「名前も知らないんじゃ、失礼だしな。教えてもらっても構わないか?」

セリアの主を心酔する様な言葉に伊達はニヤリと笑い煽てる。キリーは伊達の話術に感心しながら、ザインからの情報提供で知っているが、確認の為に質問する。

石造りの洋館にセリアと伊達たちの足音が静かに響く、XQとラクリマは伊達たちの話に意識を向けながら、周辺を警戒しながら黙って足を進める。

「それには及ばない・・・。名は私から名乗ろう。セリアお客人たちを部屋にお招きしなさい」

奥の部屋の前へと差し掛かった時、声が聞こえる。

「はいっ。主様」

「おやおや、主自らですか」

嬉しそうに返事するセリアを横目に、キリーは苦笑する。

「堂々としたものですわね」

XQは聞こえた声の主の貫禄に感心し、伊達はセリアの様子にニマッと笑う。

「どうぞ、こちらです」

「お邪魔します」

セリアの案内にラクリマは黙って、カエデは会釈して部屋に入る。

「お嬢さん…いや、セリアちゃん。なんだかんだいって、主様大好きでしょ?きみ。さっきの返事、すっげぇ嬉しそうに聞こえたぜぇ~?」

伊達の台詞にキリーはそんなことには鋭いんだなと呆れつつ部屋に入る。

「失礼するわ」

XQはセリアの事は伊達に任せて、目視で部屋全体を見渡してから部屋へと入る。

「わざわざ、このような場所まで足をくれたことまずは感謝しよう。この城の主ウルリヒト・ブランゲーネだ」

広い執務室の奥、重厚な机の奥に座った、ウルリヒトと名乗る美しい男性が伊達たちを興味深そうに見ている。窓から満月の光が差し込み、男を照らす。その姿は古き月の主と呼ばれるにふさわしい貫禄と威厳に満ちている。

「ちぃーっす、お邪魔してまーっす」

「感謝、ね」

伊達は軽い挨拶をし、ラクリマは怪訝そうな顔をしながらつぶやく。

「なにぶん時間がなかったものでね。大した歓迎はできないがくつろいでくれたまえ」

「お初にお目にかかります。XQ<エクスキュー>と申しますわ」

ウルリヒトの言葉にXQは丁寧に挨拶と自己紹介をする。ウルリヒトはセリアへ目配せをし茶の用意を進めるように促す。

「あ、どもッス、伊達龍之介ッス」

伊達は片手を上げ大仰にソファーに座り、カエデは無言でぺこりとお辞儀をして、伊達の隣の席に座った。

「古き月の主よ。あなたはここで何をしようとしているのですか?」

キリーは名乗りもせず、古き月の主(ウルリヒト)を真っ直ぐ見つめ単刀直入にきく。

「何をとは異な事を。この身は不詳ながら王の名を冠するものなれば国を持たねば箔もつくまい」

「それで、村をアンデットに襲わせたと?」

キリーは古き月の主(ウルリヒト)を睨みつけ唸る様に尋ねる。伊達は「(国に……箔、か)」様子を伺いながらもヘラヘラした表情を崩さない。

「私達はグールを狩ってやって来ましたわ。国を持つという事は、アレは貴方の手駒だったのかしら?」

「正しく言えば私は何も命を下してはいないのだがね。配下の者たちが望むままに振舞わせているだけだよ」

XQの失礼に古き月の主(ウルリヒト)は首を竦めて答える。

「あなたが命じれば退いてくれるのですか?」

「・・・どうせあまり意味のないことだと思うのだがな」

キリーの問いに彼はボソッとつぶやいた後、

「その通りだね 私が退けと命じれば彼らは動きを止めるだろう」

と続けた。

「まるで貴方に責がないみたいな言い方をされるのね?」

「責とは何かね?」

XQの言葉に古き月の主(ウルリヒト)は問い直す。

「いやしかし、それにしてもイケメンだねぇ~、あんた。俺もアキバの種馬って呼ばれるくらいにはイケメンだけどよ?こりゃあセリアちゃんもメロメロになっちゃうわけだなぁ~?」

伊達はヘラヘラ笑いながら古き月の主(ウルリヒト)を揶揄った。

「ふむ。人の価値観から見るとそう見えるもの

なのかね・・・」 

いや、そういう風に生み出されたのだろう。伊達の言葉に目を細めた古き月の主(ウルリヒト)は果たしてそうなのであろうかと疑問をもつ。

「勝手に配下を増やしておいて、放置とは傲慢ですわね」

伊達はXQをそっと手で制した。ラクリマは疑問の視線で伊達を睨んでいたが、XQを制したのを見て沈黙している。

「んで、だ」

「傲慢か。そうかもしれないね。さてこちらからも質問をさせてもらってもいいかな」

「お?なんだいなんだい」

「君たちは運命というものをどのように認識しているかね」

「…また抽象的な質問だなあ」

古き月の主(ウルリヒト)の質問に伊達は頭を掻きながらつぶやく。

「…は?」

ラクリマは思わず、といった風に声が漏れた。

「突飛な話ですわね」

「運命ねぇ……」

XQは目を瞬かせて、つぶやき。キリーは警戒は解かないで思案する。

「私と同じ不死の存在である君たちは、いや、私と比べるまでもなく不死の英雄たる君たちにとって運命とはなんだ」

伊達の目つきが鋭くなり、ラクリマは│古き月のウルリヒトの言葉に目を見開く。

「いいぜ、答えよう。ウルリヒト・ブランゲーネ」

古き月の主(ウルリヒト)は視線を伊達へと向ける。

「ここでそういう質問をしてくるってことは、アンタは『運命』って言葉に何かしらの執着があるってことだ。だから、俺も真剣に答える。俺にとって…いや、俺達にとって『運命』ってのは本当に数奇なものなんだ。アンタを含むこの世界の住人たちゃ、俺達のことを不死身の英雄だなんだいうが、それだってみんながみんな望んで手に入れたものじゃない。俺に限って言えば、最初にこの力を手に入れた時、この世界を守るために使おうって思った。誰がどうやって、そういうふうにしたのかは分かんねえ、けど、俺はこの力を俺の出来る範囲で使おうとしたけど、失敗した。俺が助けようとした女の子は、俺の目の前でゴブリンに殺された。あと一歩のところで…。力は力に過ぎなかった。俺はこの力に酔いしれていただけだった。この力を手に入れたのは、運命でも何でもなかった。だから、俺は否定する。運命を」

「ふむ つまりは君は運命を本当の意味で感じたことがないのだね・・・」

古き月の主(ウルリヒト)は伊達に対して羨望のまなざしを向けながら、

「あの娘が死ななければならなかったのは、運命なんかじゃないって、証明するためにも俺にとって、運命は否定すべきものだ」

「貴重な意見をありがとう・・・しかし・・・つまりは・・・」

徐々に言葉は小さくなりながら考え込んでいるようだ。

「否定すべき、か……」

ラクリマはつぶやくと、そっと右脚に手を添える。

「…私にとっては『問い』だな。理不尽に、こちらの事なぞお構いなしに、唐突になされる」

「問い・・・」

ラクリマの答えに考え込んでいた古き月の主(ウルリヒト)はつぶやきながら視線をラクリマに向ける。

「ああ。自分で選択して生きていた中に、投げ込まれる絶対のもの。答えないなんて選択肢だけがないくせに、正解なんてわかりはしない。……生きて答えをだして、ようやく自分の中で踏ん切りがついたころにまた別の問を投げかけられる。何度も、何度も それだけだ。道しるべにもならない。それが本当に運命なのかもわからない。漠然とした、ただの理不尽。そんなもの、生きている間に気にするだけ馬鹿げている。不意に思い返して、ああ、あれがそうだったのかと思うぐらいだ」

ラクリマは淡々と最後は吐き捨てる様に、また、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。伏せていた目線をあげ、王を見据える。

伊達は自分にも思い当たるところがあったのだろうか苦笑し、ラクリマヘにっこり笑ってそっとサムズアップした。

「やはり君たち冒険者にとって運命とはそのよ

うなものなのだね」

眩しいものを見た様な、憧れや羨望の混ざった感情を持て余しながら「(だからこそ彼らはこの世界でもっとも特別で尊い存在なのだろう)」と古き月の主(ウルリヒト)は思う。

「ああ。お前がなぜ運命などきいたかは知らんが、私の答えはこんなものだ」

ラクリマは伊達の笑顔に気づいて、呆気にとられた後、顔を逸らす。

「私の愚かな問に答えてくれたことを感謝する

よ」

「ふん。礼は全員答えてからにしろ」 

ラクリマは礼を言われるとは思わず驚き、誤魔化す様に、ちらっとまだ応えてない人たちを見る。

「そうしてもらえるとこちらとしてもありがたい限りだね」

古き月の主(ウルリヒト)はいつの間にか手元に置かれていたティーカップを口元へと運ぶ。

「二人だけ、というのもおかしいからな」

「ラクリマさん・・・それはつまり他のものも答えろってことですよね・・・?」

ラクリマの言葉にカエデは彼女を見て確認した後、自らの答えを述べ始めた。

「では、答えさせていただきます。私にとって運命とは風です。時には追い風となり、時には向かい風となり、時に嵐となって吹き荒れる。そして、感じようとしなければ感じられないモノ、です。常にそこにあるけれど、感じようとしなければ見過ごしてしまう、当たり前にあるものだと思います。私はそんなふうに思っています。ここの村人さんとの出会いも、ミナさんと交わした会話も、全部運命です。勿論、あなたとこうして言葉を交わすことすら。だから私はこれらの運命を大事にしたかった、そこにあることを感じていたから・・・・・・。でも・・・・・・。いえ、今更言っても詮無いことです。どうですか?ご満足いただけましたか?」

伊達は照れくさそうに頬を掻き、ラクリマは目を細めて、眩しいものを見る様にカエデの答えを聞いていた。

「君はこの世界を愛しているのだね?」

古き月の主(ウルリヒト)はカエデを見つめ尋ねる。

「はい、ちょっとだらしないところもありますが、皆さんのことをよく思ってくれる兄上様も、実りをもたらしてくれる自然も、そこで暮らす人々も、大好きです。」

キリーは黙ったまま、古き月の主(ウルリヒト)と仲間たちの様子を観察していたが、カエデが伊達の事を話す姿に彼の押しかけ相棒の苦労を偲ぶ。

「って、サラっと俺を引き合いに出すなよっ!?」

「ふふ、兄上様のこと、大好きですから」

まさか、自分を引き合いに出されるとは思わなかった伊達は驚いてカエデに文句を言うと、彼女は悪びれることもなく言い、微笑んだ。

「龍之介さんはモテるわね」

「ったく、俺ぁそんな大層なもんでもねーってのによ・・・」

XQの揶揄いと、他の女性たちの生暖かい視線に伊達は渋面になり、居心地悪そうに頭を搔く。

モテるとか言うよりもほっとけないとか恩義、憧れとかで伊達の周辺にいる女性は多いよなぁとキリーと思う。

「それにしても…ここまで来ると黙っていられる雰囲気じゃないですわね…。全く。こういう話はしたくなかったんですのに」

XQは、はぁ〜っとため息をつき、古き月の主(ウルリヒト)を睨みつける。

「そこの貴方」

ぴっと古き月の主(ウルリヒト)を指す。

「今から話すことは貴方に向けて言うわけではありませんわ。そう、ひとりごとのようなものです」

宣言する様に言った後、床に目を伏せて少しづつ語りだす。

「昔、自らの境遇を呪った事がありましたわ。『親』『家』『血筋』『人生』……。自分では変えられない、逃れられない道。それが運命だと。愚かにも私はそう思って。自分で自分に枷をして、自らの可能性を閉ざしていましたの。でも、何の因果か。私の道は大きく逸れ 想像のつかない場所へと繋がりましたわ。そこでの日々は、大変ではあったけれど。本当に……。本当に大切なものをくれましたわ。この思いは、手放さないと決めましたの。もしもまた、逃れられない運命というものが現れたら。そんなもの私が斬り捨ててやりますわ」

最後に消え入るような小さな声で、

「私はもう、一人じゃありませんからね」

伊達は静かに耳を傾け、古き月の主(ウルリヒト)は、今までの中で一番興味深そうに聞いている。

「不躾な質問を一つ投げさせてほしい」

「…何かしら?」

「君にとって運命の転機は、なんだったのか

ね?」

僅かに身を乗り出し、その瞳には真剣味が帯びており、XQは古き月の主(ウルリヒト)の目を見て、答えなければならない問いだと直感的に思った。

「分からないかもしれないけれど。私はこの世界へと”やってきた”のよ」

「いや、それでようやく得心がいった。やはり、私の考えは間違っていなかったのだな・・・」

呆然とつぶやきながら、

「感謝を・・・」

「…どういう事かしら?」

礼を言う古き月の主(ウルリヒト)にXQは首を傾げる。

「無自覚なのか・・・」

「……どういう意味だ?」

礼を言われる意味が分からず、訝しげな表情で伊達は尋ねる。

「そのままの意味だ。やはり君たちは特別な存在なのだろう。故に尊く、故に気高く、故に美しい」

「やめてくれ……。そんな言葉が欲しくて冒険者をやってるわけじゃねぇんだ」

相手の真意が分からず、困惑する伊達。

古き月の主(ウルリヒト)は伊達たちを眩しいものを見た様な感じで眺め、「(だが故に残酷で無慈悲で無自覚に傲慢なのだ)」と思い目を閉じる。

XQとカエデは真意を測りかねて訝しげな表情をする。

「安易に使ってほしい言葉ではないな。しかし、特別というなら私の目には、お前こそ特別に見えるぞ。ウルリヒト・ブランゲーネ」

ラクリマは古き月の主(ウルリヒト)に憤り睨みつけ言う。

「みんな落ち着けよ。さて、最後は私の番か・・・。運命なんて思うのは、生涯の伴侶だけで十分だと思ってる」

キリーの突拍子ない発言に皆が彼女を見た。キリーは苦笑して皆を見渡すと、古き月の主(ウルリヒト)を見つめる。

「貴方にはシステム(運命)によって定められた相手セリアが居るでしょ?彼女の事はどう思ってるの?」

「彼女は私のものだが・・・」

古き月の主(ウルリヒト)はセリアを見た後、呆れ気味に答える。そんな様子見たキリーは「(少なくとも使い捨ての道具ではなく、それなりに想いは有るか……)」と推測し、内心ほっとする。吸血鬼は気に入ったものには執着するが、それ以外はどうでもいいとなる傾向があるからだ。

「そうだな、さっきのは極論だが、私は道は自ら切り開くものと思っているからな。何でも都合の悪い事は、運命で片づけて諦めるなんて、まっぴら御免こうむる。失敗したなら自身の力が足りなかっただけの事だ」

キリーの言葉に伊達たちは彼女を見つめ、「(何だかんだ言っても、キリー(姐)さんも黒剣の人なんだな)」と思わずにはいられなかった。

「まぁ、私が思う運命とは出会いだろうな。何かと、誰かと出会う事がきっかけで事態が動く。どのように動くかは、出会った本人たちの選択次第だな。あまり参考にはならないとは思うが。なぁ、月の主よ。何故、運命にこだわる?まるで憎んでいる様にも見える……。ん?もしかして、テストサーバー()での記憶があるのか?」

キリーは古き月の主(ウルリヒト)の様子を見ながら自論を述べる。何故、運命に対してこだわるのかが不可解だった。ゲーム時代ではイベントがクリアされず、削除されてるから前回の記憶があるはずないのだ。

「私もまた異端であることは自覚している。いっそ無知であれたらいかに幸せであったのだろうな」

「(どうやら、記憶がある様だな。テストサーバー()では何度も検証するから、記憶があるなら、繰り返す悪夢の様なものか……。そりゃ、運命(システム)を憎むわな……)」キリーは彼の言葉から推測した。

「異端か。それなら受け入れるな」

ラクリマは暗い表情で笑い、

「なら私たちと『同じ』といった不死の存在よ。何かを知ってしまったお前の運命とは何だ?」

「運命とは祝福であり呪いだ。この世界に生を、いや、この世界に存在するすべてのモノに刻み込まれた言葉だ。それは肉に限らず魂にまで及ぶおぞましきモノだ」

激高をしているのか周囲に強烈な魔力を漏らしながら王は答えた

「っ…!」

伊達は僅かに気圧される。

「この世界にある限りこの法から逃れる術はない。いや本来ならそもそも知覚することすら不可能な現象だ」

「その(悪夢)から逃れるすべを見いだせず、足掻いたが折れたか・・・。その力を生かす方法を模索しようとしなかったのには悲しさを感じざる得ないよ」

キリーは残念そうな表情で古き月の主(ウルリヒト)を見つめて、つぶやく。ラクリマは彼の怒りをいっそ無感情な目で「(ああ、これも一緒か)」と眺める。カエデは黙って、XQは警戒をしたまま彼の言葉に耳を傾け言葉を待つ 。

「故にこう言おう。世界の楔より解き放たれた英雄よ。貴殿らの血肉の全てを食らいつくし、私もまたその理の外を目指そうっと。茶も冷めてしまったことだ、そろそろ始めよう。一番聞きたいことも聞けたことだ」

男が天窓を見上げると空には真円の月が見える。

「…そこは分かりあえんな」

ラクリマは言い様すっと武器を構える。

「……一応、聞いておきたい」

伊達は古き月の主(ウルリヒト)に問おうとするが、

「既に言葉を交わすときは過ぎたよ冒険者。あとは力で問たまえ」

古き月の主(ウルリヒト)はすげなく言い放つ。

「……そうかよ。なら、俺達が勝ったら、最後まで話を聞いてもらおうじゃねぇか」

伊達は不貞腐れた様に食い下がる。

「一方的ですね・・・」

カエデは悲しげにつぶやく。

古き月の主(ウルリヒト)がその威を全開にすると周囲にあったものが吹き飛ばされ部屋にあった燭台の火が消え去り、執務室の様な部屋から謁見の間の様な部屋に様変わりした。

「っ…なんだ、今の」

ラクリマは威圧からくる風圧と様変わりした 部屋に驚く。

「運命だ何だ大層な御託並べといて、結局は小細工頼みってか?よぉ!」

伊達は驚きとやるせない苛立ちをぶつける。

「出来れば誰も悲しまない結末を迎えたいですが……。」

カエデは静かに目を閉じ、意識を切り替える。

「結局貴方は何なのかしら。斬り合うしかないのなら…戦いの中で見極めさせて頂くわ」

XQは言い放つや否や武器を構えた。

悲しき輪廻(繰り返す悪夢)から解き放ちたいけどね・・・」

キリーは風圧に耐えながら月の主を悲しげに見つめ、つぶやくと武器を携えた。

「エネミーらしからぬと思えばそれらしいこともある…。つくづく人間くさいやつだ」

ラクリマは呆れ気味につぶやいた。


伊達たちは風圧に後ずさりながらも来るべき戦いに備えた。




この第四夜の前半は各キャラの根幹に関わる会話シーンですので、大変気を使いましたし、私が途中で緊急の用事が入った為に離席する事になり、戻って来る間に進めて貰ったので、キリーの会話シーンは書き下ろしになります。


後半の戦闘シーンで最終話になりますが、後日談として一話書き下ろしを予定しています。


次は1月中には出したいと思います。


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