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プロローグ

GM ヤマ氏や一緒にプレイした皆さんの厚意によりこの作品を投稿する事ができました。ありがとうございます。


タイトルを見て、ん?と感じた方もいると思います。森宮翔哉氏の「古き月を落とす者達」とこの作品は同じシナリオを元にしていますので似ている部分も存在すると思います。

TRPGセッションは水ものなのでパーティによって違うストーリーが展開されますのでキリー達のパーティがどういった経緯で何を取捨選択するのか楽しんでいただけたら嬉しい限りです。



黒剣騎士団ギルドハウスの執務室でレザリックさんから手渡された円卓会議からの依頼の書類に目を通していくうちに苦い表情になった。ため息を付きながら質問する。

「この依頼ですが……、嫌な予感しか感じないですね。黒剣騎士団うちからは私が行くのですか?」

「えぇ、あなたが一番適任だと思いますから。出来る限り内密で迅速に解決をお願いします」

この依頼は……。最悪の場合を想定した方が良いだろう。しかし、まぁ、こんな古いイベントの情報を知ってたなと思う。

「分かりました。万が一の場合にフォロー要員の準備をお願いします。では、やり掛けの仕事がありますので引き継ぎしてから待ち合わせ場所に向かいます」

「すみませんが、お願いします」

レザリックさんに一礼してキリーは部屋から退出した。




君たちはあるものは直接そしてあるものは人づてにとある喫茶店へと呼び出された。呼び出し人はサモナーのザインという一人の冒険者だった。彼からの依頼を受け君たちは旅立つことになるだろう。そこに待つイベントという運命の渦に巻き込まれることも知らずに……





一方、待ち合わせ場所の喫茶店にはキリー以外の招集された冒険者達が集まっていた。


スーツにローブを上に羽織った男性が3人の女性達と赤いバンダナをした男性の応対をしていた。

「あら、ザインさん、先日はお世話になりました。息災でしたか?」

ザインと呼ばれたスーツにローブを羽織った男性は神祇官の女性に答える。

「ああ 、あのときは世話になったね」

などと雑談している近くのテーブル席からは、

「うへへ、それにしても今回は女の子ばっかで約得だぜぇ~」

テーブルに足を乗せてパーティーメンバーを確認していた赤いバンダナと赤いサーコートがトレードマークの守護戦士の伊達龍之介が自分以外が女性だと知るとだらしなく鼻の下が伸びていて他の女性達に白い目で見られていた。

「(…噂通り、といったところか)」

とやれやれという様な表情の武道家のラクリマ。彼女も円卓会議からD.D.Dに依頼されて派遣されている様だ。

「もう、兄上様ったら……鼻の下が伸びてますよ?」

先程、ザインと話していた神祇官のカエデが彼を窘める。

「おっと?いけねえいけねえ」

と表情を真顔に戻す。漫画ならキリッという擬音語と◝✧マークが付いていそうな感じだろう。

「(…腕のほうも噂通りだといいな)」ため息をつきながらラクリマは彼の様子を見ていた。

「(あれが噂の人ですの。表情めぐるましい殿方ですわね)」XQも今回パーティーのメイン盾になる彼を観察している。

「おっと、こっちにもカワイコちゃんが」

可愛らしい女性に囲まれてご満悦の伊達龍之介。

「初めまして、XQ<エクスキュー>と申しますわ。お会いできて光栄ですわ、伊達龍之介さん」

「仕事の間ぐらいは、よろしく頼む」

「私はカエデと申します。回復支援しかできませんが、どうぞよしなに」

「ま、俺のアレは挨拶みたいなもんさあ。こちらこそよろしく頼むぜっ」

「武闘家のラクリマ。今回は少し自由に動かせてもらう。まあ、その男が取りこぼしたりしたときの補助だと思ってくれ」

「うふふ、ご謙遜を。かの大手ギルド、D.D.Dに所属されていらっしゃるのですから、腕はお立ちになるのでしょう?」

カエデの褒め言葉にXQが反応する。

「そうなんですの?D.D.D直伝の戦術を自に見れるとは…ふふ、楽しみですわね」

対抗心と大手ギルドの戦術が見れるというので、目がランランに輝やいているXQにラクリマは少々引き気味になる。

「確かに所属はしているが…離れていた時期も長いからな。それに、野良PTも久々でな」

女性陣のやり取りを見ながら、1人足りないのに気付いた伊達龍之介はザインの方を無言で見る。

「やれやれ 。あぁ、 皆済まないね。 最後の一人のキリーくんと連絡がついたがまだ仕事に追われているようでね。少しばかり時間がかかるそうだ」

「いえ、先方にもご事情があるでしょうし、大丈夫です。」

ザインの説明にカエデは了承する。

「キリー姐さんか。まぁしゃーねーべ」

日頃、何かとアキバの街中で騒ぎを起こして警邏隊のお世話になる事の多い伊達龍之介はキリーとは顔馴染みで、時折、彼女から依頼(罰則的なもの)を受けることがある。

「まぁ、 待ち合わせの時間まで今しばらくある。なにここの茶代くらいは私がもとう。しばし談笑を楽しんでいてくれたまえ」

「兄上様はその方と面識がおありなんですか?」

カエデは伊達龍之介に尋ねる。彼女は彼を兄と慕っている様だ。

「ああ、まぁ、ちょっとな」

彼女の質問にうわの空で答える。

「(ラクリマにキリー姐さん……<D.D.D>に<黒剣>か。ただの野良PTでこんな被り方……こりゃあ何かあると思ったほうがいいな)」

難易度の高く厄介そうな依頼になるだろうと気を引き締めていた。一方、

「相変わらずとりまとめに奔走しているようだな…」

ラクリマは黒剣騎士団の内情を察して呆れていた。



「まさかザインさんの方からお話頂けるとは思ってもみませんでしたわ。ザインさんともずっとお会いしてみたかったんですの」

XQはいろいろと噂の多いザインにも興味があった様で話しかける。

「私の話など聞いても面白みはないと思うがね。どこにでもいるようなサモナーになにか御用かね。お嬢さん?」

「それこそご謙遜を。腕の立つ召喚術師だけでなく頭の切れる御方…アキバの裏の有名人だと噂されておりますわよ」

「やれやれ一体誰が流した噂だろうね」

っと彼は伊達龍之介の方に目をやりながら

「はっはっは、その内マフィアでも結成しそうだからなあw」

当の本人は無責任な発言をしながら笑っていた。

「うふふ、ザインさんは頭が切れるばかりじゃなくて、とっても情熱的な方なんですよ?」

ニコニコとカエデも追撃してきた。もっとも彼女は素で褒めているだけの様だが……。

「(この男も噂通りとみるべきか…どうゆう人選なのか聞きたいものだ)」ラクリマは2人の評価を聞きながら目の前の召喚術師を観察している。

「あぁ 、その手の事業は後々管理がめんどくさくなるのでね。 金にも特に興味がないのでやりはしないさ」

ザインはうんざりした様な表情で答えると

「興味さえ出れば、やるというようにも聞こえるな」

からかうようにラクリマは返す。

「掛ける手間と帰ってくるリターンの問題だよ 思っているほどあの手の管理職というのはめんどくさいしがらみがついてまわるものさ。アキバの治安という意味では円卓ギルドの努力でまぁ 、それなりの結果が付いてきてはいるしね。わざわざ介入する必要性も感じないといったところだね」

めんどくさそうに答える。

「ま、なんだかんだで悪党になりきれんクチだからな、こいつぁ。心配はいらねぇやな」

伊達龍之介は適当に締めると

「そういった青臭い評価は求めてはいないのだがね」

ボソッとザインはつぶやく。

「別に心配でこの話を振ったわけじゃないんだがな……」

意図していない方に転がった話に少々バツが悪そうにしていた。


陰でこそこそと話している女性達。

「…カエデさん今度詳しくそのお話しお聞きしたいですわっ」

XQがカエデに小声で話しかける。

「うふふ、そうですね、お話出来たらお話させていただきますね」

同意していたら

「無駄な個人情報の流失はやめたまえ 。カエデくん」

ザインが不機嫌な声で注意すると

「あら、個人情報ではなく私の個人的な主観のお話ですよ?まぁ、ザインさんがお嫌なら仕方ないですね」

カエデはザインに向かっては微笑し、肩をすくめる。

「あらあら残念ですわ。でもザインさんとは一度PTでご一緒したいものですわね。…手合わせでも構いませんけど」

くすくすと笑いながらXQはザインに言うと、

「それは遠慮願うね。 武器攻撃職と切った張ったをできるほど私は運動が得意ではなくてね」

渋面になりながら肩をすくめつつ答える。

「ザインさんに止められてしましましたし、ザインさんのお話は出来ませんが、“知り合い”のお話ならさせていただきますね?」

にっこりとXQに微笑む。

「では今度おいしいケーキの店にご一緒しましょう。お話が楽しみですわ」

にっこりとカエデに微笑み返す。

「えぇ、何なら今回の1件が終ったら打ち上げかねていきますか?皆で」

「あら、それは楽しみです。是非お願いしますわ」

XQとカエデは手を合わせて意気投合しているので、

「私は気が向けばお邪魔しよう」

ラクリマは社交辞令で言うと

「そんなことおっしゃらずに一緒に来ませんか?皆さんとご一緒出来るなら私はとても嬉しいのですが…」

「……私は甘いものが苦手なのだが、それでよければ」

「うふふ、勿論ですよ。甘くないケーキもありますし、是非ご一緒しましょう?」

にっこりと微笑むカエデに畳み込まれて

「ああ…」

ラクリマは若干押され気味に了承する。

「…む。悪いが、いったん席を外す」

と言って店を一旦出て行った。

「ありがとうございます、どうぞごゆっくり」

ニコニコと笑顔で送り出すカエデ。

「ああすまねぇ、俺もちょっと〈変人窟〉へ。紫音って機工師にハルバード預けてんだよ」

「そうなんですか、武具は大切ですもんね、どうぞ行って来て下さいませ」

「行ってらっしゃいませ。相棒はじっくりと手入れしてくださいましね」

XQとカエデに送り出され伊達龍之介も店を出て行った。



数十分後

「やれやれ・・・戻ったぜぃ・・・」

ゲンナリとした表情で戻った伊達龍之介をザインは不思議そうな表情で迎える。

「おや随分とかかったね?」

「お帰りなさいませ、いかがでしたか?」

笑顔で彼を迎えるカエデ。

「いやー参った。今回ハルバード使えねえの」

明るく振舞っているが少々困惑気味に話す伊達龍之介にカエデが声をかける。

「あら、それは災難でしたね、大丈夫ですか?」

「耐久値減りまくってたからまとめてオーバーホールに出したまではいいんだが、殺人鬼事件の影響で遅れるとか言われちまってよ」

盛大にため息を付きながら椅子に座り込む。

「あの事件もまだ解決には至っていませんし・・・怖い事件ですよね。一刻も早く解決できればよいのですけれど……」

心配気に彼の方を見るカエデ。

「ようやく伊達さんのハルバード捌きを見れると思ったのですが…残念ですわ」

残念そうな表情のXQ。

「んで、こんなん渡されてきたのよ」

伊達龍之介はごとんと見た目ガトリングガンにしか見えないボウガン【量産採用試験型連装式突撃弩<ガーランド>】を机の上に放り出すと、カエデはびっくりして声も出ない様子で、XQはマジマジとそのボウガンを見る。

「随分と厳つい得物ですわね?」

「いやホントどーしろってんだよこれ・・・〈ドリホリ〉のロボ野郎が使ってるのとほぼ同じモンだしな」

古アルヴ族の遺跡から発掘した物をベースに変人窟とロデ研の有志達の技術と酔狂の結晶の鎧に身を包んだ守護戦士で、外見がアー〇ード・〇アのロボットにしか見えず、著しく世界観をぶち壊している友人の武器に途方にくれていた。

「あら、じゃあ、お友達とご一緒の武器なんですか?それは喜ばしいことなのでは?」

カエデはとりなすが伊達龍之介はゲンナリとした表情でつぶやく。

「"アレ"と同じかぁ・・・」

「弩砲…さんでしたか。未知のテクノロジーかと思っていましたが量産化されて

いたのですね」

XQはある意味アキバの名物になっている人物〔夢見る弩砲騎士〕通称:弩砲〈どほう〉の事を知っている様だ。

「あらあら、そんな顔なさるなんて、お友達さんに悪いですよ?兄上様?」

「いやまぁダチはダチだけどよ?なんつーか、一緒にされるってのはちょっと・・・なぁ・・・?」

「うふふふ、兄上様ったら」

複雑な表情をしている伊達龍之介に仕方が無いなぁと言う感じで笑うカエデに周囲が苦笑しているとカランカランと店のドアをが開く。

「…なんだその武器は」

ラクリマは 机に置かれてるゴツい武器見て驚き尋ねる。

「……名前は〈ガーランド〉っていうらしいぜ?」

伊達龍之介は素直に武器の名を教える。

「いや訊きたいのは名前じゃなく……何処の作だそれ」

違うだろと言いたげな表情で問い質す。

「変人窟の紫音って言ったらわかるかい?アレを一般冒険者向けに量産しよーって馬鹿がいてだな・・・」

「分かった、それで十分だ」

伊達龍之介は分かりやすく解説しようとしたが、ラクリマは変人堀あたりで察して話をさえぎった。

「兄上様、バカだなんてそんな…研究開発に情熱を注がれてる熱意ある方なのでしょう?」

カエデが伊達龍之介の発言を窘めると不意に店のドアが開き、ドアに取付けてあるベルがカランカランと軽快な音を店内に響かせる。

「遅くなってしまって。すまない。んっ?何で弩砲の武器がここにあるんだ?」

キリーは 謝罪しながら店に入ると、テーブルの上に見たこののある武器を見て驚く。

「やぁ、 忙しいところ呼び立ててすまないね」

ザインは席をたち店のドアを開けたキリーへと歩み寄る。

「ただでさえ人手足りてないんだ、早めに済ませたい」

キリーは事前に依頼内容と詳細な情報を知り、時間をかけると最悪な状態になりそうで内心焦り、イラついていた。

「そうはいっても・・・ね」

っとザインはキリーと視線を合わせた後、他のメンバーを見わたす。

「まぁいい 。ではこれで今回君たちへ頼む依頼のPTメンバーは揃った。 さぁ仕事の話をしよう」

「よぉザイン。今回は随分と物々しい顔ぶれじゃねーか」

全員揃ったので、感じていた疑問をザインにぶつける伊達龍之介。

「待っていましたわザインさん。一体どんな依頼事なのかしら」

XQはこれからどんな依頼がくるのかワクワクしている様だ。

「皆様揃われたようですね、少しでも皆様のお力になれるよう頑張ります」

カエデはマイペースで挨拶をする。

キリーは適当な椅子に座り、

「そういえば、真っ当に顔合わすのは初めてだったな。はじめまして、黒剣騎士団のキリーだ」

ザインに向かって挨拶をする。

「ああ、 スライム討伐戦のときは慌ただしくまともに挨拶をする間もなかったからね。君のことは様々な者たちから聞いているよ。所謂傑物だとね」

キリーは自嘲気味に苦笑しながら返す。

「君のうわさは聞いているよ、ザインくん」

「おや?私の名も随分広がったものだね。とりあえずかけてくれたまえ。飲み物は紅茶でよかったかね?」

賞賛とも皮肉ともつかない返しに苦笑しつつも、依頼内容を全員に説明する前に飲み物をすすめる。

「ああ、俺はコーヒーをブラックで」

「種類があるならアッサムで。ないなら適当に頼む」

ラクリマは好みの茶葉を頼む。

「紅茶で構いませんわ。角砂糖は2つでお願いします」

「ありがとうございます、では私はレモンティーをアイスでお願いします」

「珈琲をブラックで」

それぞれ飲み物を頼むと

「マスター聞こえたね。 注文は以上だ。」

ザインはカウンターの奥でグラスを磨いていた老紳士に頼む。彼は苦笑とともにアルコールランプへ火を灯す。同時に背後のコンロでは湯が沸かされポットとカップを温めているようだ。

「ほー、サイフォン方式か。こっちじゃ珍しいな」

キリーはカウンターを見てつぶやく。

「さて、 飲み物が来るまでには今しばらくかかるがその間に仕事の内容を一通り説明しておくね」

「はい、よろしくお願いします」

カエデは姿勢を正し、ラクリマは吐き出しそうになったため息を飲み込んで静かに聴く。

「依頼内容は、簡単にいえば人探しだね。とある村で大地人の少女が行方不明になったのでその捜索依頼がこちらへと回ってきたのだよ」

ザインは切り出すと

「人探し・・・ですか・・・・・・」

カエデはちょっと悲しいそうな表情になる。過去に何かあった事件を思い出を思い出したようだ。

「ただの人探しならこんな面子じゃないだろう・・・」

キリーは詳細を知っているが守秘義務のために言えないので、全員に危機感を煽る為に呆れた表情で言う。

「・・・・・・」

伊達龍之介は黙って訝しげにザインを見ていた。

「…けど、それだけではないですわね?」

さすがにXQもその程度の依頼内容でこのメンバーは無いだろうと問い質す。

「ただの村 。ただの大地人ならね。《月見の里》君たちの中には聞いたことがあるものいるのではないかね?」

ザインは全員の顔を見渡し、頷くものたちをみながら、敢えてラクリマへ問いかけるような視線を向けた。

「…今は確か、希少なアイテムがとれる場所として有名だろう。月にちなんだものがおおく、光輝属性付与や、アンティークとしても好まれていると聞いている。元々は美しい月が見れると言って、プレイヤーにも好まれていたゾーンだな」

ラクリマは思い出しながら答えると

「ふむ 次第点といったところだがまぁ大きく外れてはないね」

ザインの辛口な評価が返ってきた。

「それはどうも」

ラクリマは憮然とした表情になった。

「(うーん、聞いたことないわね・・・。どこかのプレイヤータウンかしら?)」

他のメンバーと違い《月見の里》の事を知らなかったXQは首を傾げて皆に質問する。

「あら…皆さんお詳しいんですね。武器に使えるアイテムの産地ですか?」

「思い出した。レアの種類が多いから、一時期BOTがわらわら居たところだ」

伊達龍之介がぽんと手を叩きながら言う。

「まぁ、今は新たなレシピ開発に躍起になってるギルドも多い。特殊な性質を持つアイテムが多く取れそこ取引が行われる村との関係を取り持つ、いわば点数稼ぎの依頼だね。ちなみにフィールドLv帯は50後半から60前半といったところだね」

やれやれと肩をすくめながらザインは話す。

「ふーん、それでなぜこの面子?君の事だから他に裏があるんでしょ?噂からすると」

キリーは苦笑しながらザインを睨むが、ザインはキリーの言葉に肩をすくめるだけで答える。

「さてどうだろうね。君達をただ信用してのことだとしておこうか」

ラクリマはキリーの隣にすっと移って他のメンバーに聞こえない様な小声で囁く。

「円卓の事もある。あまりほかのやつに勘ぐられるようなことは、言わない方がいいじゃないか」

キリーはラクリマの忠告に苦笑するだけで何も言わなかった。

「ほーれ、だんだんきな臭い方向に話が進んでってるぞー・・・」

やっぱりなというような表情で伊達龍之介

「そんなところで行方不明事件ですか……」

カエデは辛い思い出があるのだろうか、悲しげな表情の中にも早期事件解決しなければという意志が見え隠れしている。

「伊達くんのやる気の出そうな情報を教えておこうかね 行方不明になったのはその村の村長の長女。依頼主は次女でどちらも器量よしとの噂だね」

ザインは伊達龍之介の方を見ながら皮肉気に笑い情報を出す。

「それを早く言いたまえよザインくん」

女性からの依頼と聞き、俄然ヤル気になる伊達龍之介。

「そういうわで伊達くんはやる気をだしてくれているが皆はどうかね?」

「頬が緩んでましてよ、龍之介さん」

伊達龍之介の表情を見て呆れながらXQは注意する。

「おっとすまねえ」

また、キリッと表情を戻す伊達龍之介にラクリマはやれやれと首を振る。

「行方不明事件は他人ごとではありませんしね、だからこそ、ザインさんは私をお呼びになったのでしょう?」

カエデも過去の辛い思いをバネにしてやる気のようだ。

「仕事として受けたからな、今更内容をきいてやめる気はない」

ラクリマも内情を知っているので断る事は出来ない。

「うふふ、素直じゃないんですから。私は兄上様と同じでこの事件を解決したいと思ってます。」

カエデは微笑みながら伊達龍之介の態度を軽く窘めた。

「外交関係で私たち〈円卓会議所属ギルドメンバー〉を利用してほしくないんだけどねぇ。今更だから請けるけどさ・・・」

ため息を付きながらキリーは承諾する。レザリックさんから依頼内容を知らされてから、嫌な予感に焦りは感じても断る事をする気は全くなかった。

「どういう経緯で行方不明になったのかは分かってるのか?」

キリーはザインに状況を確認する。

「残念ながらこちらへと入ってきている情報はいなくなって既に2日が経過していることくらいしかまだ来ていなくてね。現地で詳しくは聞いてくれたまえ」

ザインはやや暗い表情で答える。

「おいおい・・・ずいぶん後手に回ってるじゃないか。この手は早期解決しないと拙いだろうに」

後手後手にまわっている状況に思わず渋面になるキリー。

「すまないね。こちらとしても状況把握すらまだままならない状況でね。ゆえに急ぎで君たちを集めさせてもらったのだよ。さて、みなの承諾を得られたと認識するよ。ではこの書類にサインを。 依頼報酬は前金で100g成功報酬で150gといったところでどうだね?」

ザインは書類を人数分出して全員にサインを求める。


カエデは書類の端から端まで目を通し裏側も全部チェックしていると、この依頼に関することを口外することを禁ずるって項目に気が付く。

「口外無用……ですか、理由を聞いても?」

「・・・」

伊達龍之介の眉根が一瞬ぴくりと動く。

「知ってのとおり管理する立場というのはなにより面子を大事にするのでね。依頼主の大元である村長からの条件と聞いているよ」

ザインはやれやれという様な表情で説明する。

こぽこぽという音とともに熱せられた珈琲豆が湯の中を踊り香りを漂わせる。

「……そうですか、そういうことにしておきます。」

カエデは納得いかない様な表情になり、再び書類のチェックに戻る。

「・・・つまり、ワケアリってことか」

伊達龍之介は渋面になりながら、カエデが持つ書類を見る。

「…大地人の良家なら、そう言ったこともあるといったことか」

ラクリマはこれ見よがしにため息をつく。

静かな音とともに注がれたお湯がポットの中の茶葉を花咲かせ、店内に芳醇な香りが漂う。

「この程度で怖気づいたりはしませんわ。それにザインさんの頼みですもの。 調査に尽力しましょう」

XQはやる気になってザインを見る。

「…どうあってもこの男はこれ以上情報を吐くつもりはないんだろう。時間の無駄だ」

「あ・・・不審な点はありませんでしたし、大丈夫だと思います。」

ラクリマは呆れた表情で言うとカエデさんがチェックしていた書類を取るとサインする。

「やれやれ、心外だね。私が情報を秘匿したところでなんの得にもならないというのにね?」

ザインは心外だというように眉を寄せて抗議する。

「誰にとっての得か、私にはあずかり知らぬところでね。損にはならんと思う程度には信用しているが」

ラクリマはザインに感慨もなく言い放つ。

「労働には報酬を成果には対価を 。そして依頼には契約をだね」

「・・・ま、美人がらみの依頼だからね、引き受けない理由はありませんよっと」

と伊達龍之介はカエデから書類をうけとるとラクリマに続いてサインした。

「もう、兄上様ったら・・・そうやってご自分を卑下なさらなくても・・・」

と言いながらカエデは皆に書類を渡すと、サインした。XQもキリーも書類を渡受け取るとサインをした。

「現地へ付けば依頼主である村長の次女が君たちを案内してくれる手はずとなっている彼女に詳しい話はきいてくれたまえ」

ザインはサインされた書類を受取りながら話す。

「そうしよう」

ラクリマは頷く。

「また馬車の用意はこちらで済ませてある 出発は今より2時間後ブリッジオブエイジスの待合馬車に行けばわかるようにしてある・・・」

ザインは移動手段と集合場合の指定すると、カエデが尋ねる。

「あ、一つよろしいですか?」

「なにかね?」

「村長さんの長女さんと次女さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」

「少し待ちたまえ」

ザインはそういって手元の資料をめくりながら、

「長女の名はセリア  次女はミナという名前だね。質問は以上かね?」

カエデ:「ありがとうございます。あとは現地で情報は集めさせていただきますね」

「私はない」

「私からもありませんわ」

「ここでどうこう言っても時間だけが過ぎるからな。現地で調べたほうが早いよ」

ラクリマとXQ、キリーは口々に言い放つ。

「そうと決まりゃまずは腹ごしらえだ。カエデ、行くぜ」

「はい。お供いたします、兄上様」

伊達龍之介とカエデが一緒に店から出るとXQが二人を追って出て行った。

キリーは黙って珈琲の香りを楽しみながら飲み皆を見送る、隣にラクリマが残って紅茶を飲んでいる。


「…円卓からの依頼に思う所があるかもしれないが、あの依頼は他言無用だ。わざわざ不信感を煽るのは、どうかと思うぞ」

ラクリマは皆が出て行ったのを確認すると小声で不機嫌そうに言ってきた。

「ある程度不信感を煽っておく方が早期解決しようとするだろ。特に伊達とかな」

キリーは苦笑してラクリマを見ながら、

「なんにせよ早期発見が重要ってことさ」

苦笑して珈琲を飲んでいた。

「……あの男の事は、私は噂以上は知らないからな。お前がそう判断したのなら、いい」

ラクリマはこれ以上言っても無駄だと思ったのか黙って紅茶を飲みはじめた。



君たちがザインの用意した馬車へと乗り込むと馬車は一路、月見の里へと向かい出発した。アキバから月見の里へはおおよそ5時間ほどの距離。君たちが里の近くの森へと踏み入るころには日は天中を過ぎ陰り始めていた。


「よろしければ龍之介さんの武勇伝、お聞かせ頂けないかしら?」

XQは馬車の中で噂でしか伊達龍之介という人物を知らないため皆に尋ねる。

「あんたは・・・XQって言ったか。俺の話なんか大したことのないもんばっかだぜ?」

伊達龍之介は戸惑った様な表情でXQをみる。

「私から見れば武勇伝ですわ。…でも、そうですわね。間近で見れるチャンスですもの。私も頑張りましてよ」

「うふふ、兄上様の武勇伝を語らってもらいましょうか?」

カエデも伊達龍之介の武勇伝を聞きたくて援護する。

「武勇伝ねぇ・・・どっちの?」

キリーは呆れた目で伊達龍之介を見て、ため息をつく。彼がひどい無鉄砲でお節介……正義の味方をやろうとするものだから、ほっとけないと腕っぷしの強い(いろんな意味で)女性達が押し掛け女房ならぬ相棒として尽力しているのを知ってるからだ。

「やれやれ、道中くらい落ち着いて過ごしたかったんだけどな・・・」

キリーにジト目で見られ、カエデとXQにせっつかれて、しぶしぶと話し始めた。


馬車が踏み入れた森は陽の光が差し込み明るく歩きやすい獣道も見える。馬車に揺られるがままに道を行く。

日が照らしているとはいえ季節は初冬も過ぎ風が冷たく吹き抜ける。

道行く馬車とすれ違う幾人もの行商人たち。彼らは里で買い取った希少アイテムをアキバやウェストランデに運ぶことを生業としている者達だろうか。


「そういや、XQ。エミールとはどうなった?」

キリーは伊達龍之介の話に飽きたのか少々意地が悪い笑みを浮かべ、わざと爆弾を投下する様な発言する。

「エミール君ですの?天秤祭りで会ってからはずいぶんお会いしておりませんねぇ…」

XQは少々困惑した様な表情で答える。

「なんだXQ、エミールのやつと知り合いだったのか」

伊達龍之介も何度か野良パーティで組んだ事があるのでよく知っている人物と顔見知りだった事に驚く。

「えぇ少し前にご縁(会ったのは戦場だけど)がありまして…」

「エミルも奥手だからなぁ~www」

キリーはXQを気にしてい友人?のヘタレっぷりに苦笑する。

「へぇ、エミールのやつがなぁ・・・w」

伊達龍之介は人の恋路にはあまり興味ないが知人の意外な面を知って思わず頬が緩む。

「エミール様とは付与術師で有名のあの方ですよね?皆さん流石、名を馳せた方々ですね」

カエデは彼が野良で活躍していた事を知っていたようだ。

「…確か、最近黒剣に入った奴だったな」

ラクリマは黒剣騎士団に最近入った付与術師の事をうわさで知っていた。

「そうだよ。野良で腕が良かったので。黒剣<うち>に引き込んだ」

キリーはラクリマの言葉を肯定する。

黒剣騎士団所属とはいえ、息子のreiがアキバに居るため長期間の遠征を避け、書類整理等の雑務を引き受けている。時折フラストレーションの発散のために斡旋所から依頼を受け野良パーティを組む事が多く、その時に知り合ったひょろっとした女性的な顔立ちの付与術師の青年〈エミール〉の腕の良さや顔に似合わず戦闘狂〈バトルジャンキー〉な気質を気に入り勧誘したのだ。

「キリーさんがスカウトしたんですの。ふふっそれは毎日楽しそうですわね」

XQは愛らしい表情で微笑み、異性を惹きつけるが、彼女は恋愛よりも戦闘。戦闘狂〈バトルジャンキー〉気質なので、エミールの淡い恋心を知らずに打ち砕いた様だ。

「かなり腕のたつ付与術師さ・・・もやしだけど」

伊達龍之介は彼の特徴?を端的に言った。

「兄上様、人様を悪しざまにいうのは感心いたしませんよ?」

カエデは伊達龍之介の言い様に眉をひそめ注意する。

「悪しざまっつーか、陰口のつもりはないんだけどな」

妹分に注意され頬を人差し指で掻く様な仕草をする伊達龍之介。

「分かっていますよ?兄上様のそのようなつもりがないことは、でも妹として、兄上様のことを誤解されてしまうのは……」

「良いんだよカエデ、そういうのはさ。人になんて思われようと、俺は俺さ。誤解だろうが6階だろうが好きにさせときゃいい」

「兄上様・・・」

伊達龍之介とカエデの擬似兄妹の会話だが周囲は興味無いので放置された。カエデは伊達龍之介の有り様にじーんと感動している。


「XQは認めているのか?そいつの腕」

ラクリマは噂以上の事は知らないらしくXQに尋ねる。

「勿論。あの子も一流の冒険者ですから」

ラクリマの質問にXQは頷く。

「しかしなぁ、エミールが黒剣かぁ・・・」

伊達龍之介にとっては彼が黒剣騎士団に入ったのが意外な様だ。

「…書類仕事に埋もれてそうだな、そいつ」

ラクリマはなんとはなしに呟く。

「今頃、私の代わりに書類に埋もれてるだろうね」

キリーは笑いながら肯定する。書類仕事の引継ぎ相手が彼だったからだ。


アキバのとある執務室……

モノクルをかけた男性が書類の山と格闘していた。

「へっくし」

彼は誰か噂でもしているのだろうなという様な表情でため息をつき、書類の山を討伐する為に奮起した。


「ふぅん…。お前が認めるなら相応なんだろうな。…D.D.D(うち)のように、というつもりはないが、黒剣のその書類仕事のまわらなさ、どうにかした方がよくないか?」

ラクリマはやや呆れた表情で言う。

「回るんだったらどんなに楽か・・・」

キリーは遠い目をしてため息をつく。

文字を追うと数分で寝るヤツや数字に弱いヤツが多く、レザリックさんと副団長のドン・マスディが執務室から叩き出してしまった経緯があるからだ。

「すぐに、とはいかないだろうが、大地人雇用でも考えておけばいい。信頼できる奴を見つけるのは、骨だろうが」

ラクリマは苦言する。

「頭が痛いのが識字率の低さだね。教育を普及させないと人が揃わないよ」

キリーはため息をついて答える。

大地人のサポーターは結構な数がいるが、読めるけど字が書けないとか読み書き出来ない者達が多く書類整理が追いつかない状況なのだ。

「大手さんは大変なのですねぇ…」

XQはしみじみとつぶやく。

「書類仕事で死んでるのは、海洋機構も一緒みたいだがな。あっちは大手すぎて、らしいが」

「大手のギルドさんには大手のギルドさんの苦悩がおありなのですね」

ラクリマの言葉にしんみりとカエデはつぶやく。

「どこにいっても、何をしても苦労はあるだろうよ…」

ラクリマは遠くを見ながら言った。



君たちがとある冒険者の話題で盛り上がっているうちに馬車は目的の里へとたどり着く。山間にひっそりと開かれたその村の周りには畑が広がり、いくつかの畑では大地人と思わしき農夫があくせく働いているのが目に映る。馬車が村の入口でその歩みを止めた。


「成程、どこも同じですか・・・と、目的の場所についたようですよ。随分と日本的な建物が多い場所ですわね」

XQは馬車の窓から村を見て言う。

「…こういうのを、田舎風景って言うんだろうか」

ラクリマも窓から村の景色を見てつぶやく。

「あ、着きましたね。皆様とお話していると時間もあっという間ですね」

「っと、着いたのか?」

カエデの言葉に、ギルドの書類仕事の状況の話をうとうとしながら聞いていた伊達龍之介は尋ねる。

カエデは馬車からおりて周囲の様子を見ていると一人の少女が駆け寄ってくるのが見えた。



GM:オープニングが終了しましたので、全員に因果力を1点どうぞ。

馬車の中での雑談に出てくるエミールは森宮翔哉氏のキャラクターです。使用許可頂きありがとうございます。


プロローグだけでこの文量……。ミッション部分はどれだけになるのか検討つかないな


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