番外編 (王子ルー1)ルー<カルフォス>の幼い時
「ルー!!」
恐らく私の生まれて初めての記憶は、
父の泣き顔だったと思う。
父は、泣きながら私を
強く抱きしめてくれた。
母が居ない私に、乳を与えてくれた者が居たはずだが、
物心が付き始めた私の傍には、
『乳母』と呼ばれるその存在は居なかった。
しかし、乳を与えてくれた者に対しても、
何度も変わっていった食事という名の餌を
与えてくれた者に対しても
私は、何の感情も持たなかった。
父以外は誰も私に話しかけなかったので
私自身も、自分が人間であるという事に
気付いていなかったのかも知れない。
いつもどこか具合が悪くて、
喉が焼け付くようだったのを覚えている。
毎日、暗い部屋のベットの上で眠っていて、
青い空や、満天の星空、
そういったものを見たのは、
うっとうしい自分の髪が背中の真ん中に届くようになった頃だったろうか、
時々自分に話しかけて、抱きしめてくれる人が、
やっと自分の父だと、
理解出来るようになった頃だった。
父の腕が温かくて、その温かい腕に抱かれて
見上げた青空や、星空に浮かぶ月の光が眩しくて、
私は、自分が色を見ることが出来たんだと、知った。
ギュッと私を抱きしめて
『済まない・・・・気付けなくて済まなかった』と
泣いた父は、自分自身で私の髪を切ってくれて、
それから、次の戦場に赴くまでの短い期間、
言葉より優先して、食べられるものとそのありか、
食べられないものの匂いと色と、味を教えてくれた。
次に教えてくれたのは、攻撃から身を守る方法、
剣こそ持たなかったが、抱きしめてくれる手が、
私の身体を何度も打ち据えた。
父の瞳から涙が零れ、手が震えていなければ
父の愛情をさえ、私は疑ったのかも知れない。
幼い私は、父の愛を信じ、抱きしめてくれる腕と、
頭を撫ぜてくれる手に温かさを感じていた。
しかし、周りに信じるものがいない父は、
国土、国民の状況、戦況を自らその場に赴くことで、
確かめなければならなかった、
その為に、殆ど王宮に・・
私の傍に、居る事が出来なかった。
父が留守の長い間、
私は、野生の獣のように、あらゆるものの匂いを嗅ぎ、
常に周囲に警戒して、牙を剥いている子どもになった。
しかし、それは、結果として何度も私の命を救った。




