切なき月の章1<挿絵あり>
貴方は間違っている・・・
優しい心を取り戻して・・・
「・・・・・気持ちが悪い」
月の瞳から涙が零れた。
かつてルー王子とその父カルフォス王と
共に過ごしたこの国は、
穏やかな気持ちで見守っていた
この場所はとても穢れた場所になっていた。
「・・・・・ルー・・・どうして・・・
ルー・・・」
父親の後を継いで優しい王になってくれると
思っていた。
この国を優しく賢く守ってくれると、
そんな風に思って安心して立ち去っていったのに
腐臭を感じる空気
不安と、恐怖で
王都だというのに・・
王都だからなのか町には人の姿がまばらで
皆、下を向いて暗い顔で先を急いでいる。
羽ばたきの音で見上げた月は
そうして瞳につるし上げられた
人間たちを見た。
「・・・・・・あ・・・・あの子に・・・」
穢れの為急速に力が抜けてゆく
体を引きずるように月は進む
慈しんだあの懐かしい愛し子の元へ
「ルー・・・ルー・・・」
一気にカルフォスの部屋までとんだ月は、
堪らずその場で座り込む。
「何者だ!・・・・・・何処から入ってきた?」
心さえも凍ったような冷たい声に
顔を上げることも出来ない月の首筋に
冷たいものが触れる。
「・・・ルー・・・」
「何者だ?・・・・
・・・・・私を殺しに来たのか?・・それとも・・」
やっと上げることの出来た瞳に映った剣を向けるカルフォスの
姿に、痛々しさを感じて月はまた涙を流す。
「ルー王子・・・・父君のカルフォス様に良く似た
懐かしい面影はそのまま・・」
「・・・・誰かに頼まれたか・・・?」
「そのまま・・・なのに・・・いいえ・・・殺しに来たのではありません
・・・私は、貴方を導きに来たのです貴方は間違っています
こんなにも穢れを生み出してはいけません・・・」
「導きに・・・?私を・・・?・・・ククッ・・
穢れ?・・・確かに穢れているよ・・・・
この世界も・・・・私や
私が殺した奴らみたいな蛆虫がいるのだから・・・」
父譲りの朱金の髪を揺らし
まだ青年の面差しとなり始めたばかりの
幼い、冷たいほど整った顔に
可笑しくて堪らないとでも言いたげな表情を浮かべて、
突然、カルフォスは穢れに苦しむ月を押さえつけた。
「おまえも・・・蛆虫の一人に言われたんじゃないのか?
私の子・・・私を殺した後王位を継がせる為の道具を
宿してこいって・・・」
顔は、クスクスと無邪気に微笑んでいるのに
声は冷たく乾いているのに
カルフォスはそう言って
月に荒々しい口付けを落とした。
カルフォスに纏わり付く
怨み、怒り、悲しみと言った負の感情が
月にいっせいに押し寄せその苦しみに
体が小刻みに震えだすのを感じる。
(・・・・もう・・・耐えることが出来ない・・)
泣くような気持ちを抱え
意識が遠のく月は、
何故・・・?何故・・・カルフォス?
無性に何かが分からなくて
必死に心の中でカルフォスに問いかける。
「カルフォス・・・」
声を絞り出す。
「私は、・・・
幼いころに一緒に遊んだ・・・シルです。
・・・そして・・この世界を導き・・・見守る・・
月・・・・なのです・・・」
何物をも信じていない様子のカルフォスに神の慈愛
について説かなければならないと思った月だったが、
「・・な・・に・・?」
驚いた表情をしたその一瞬後カルフォスは
激しい憎悪の表情になり
月の胸にナイフを
突き立てた。
赤い血が胸から噴出す月の肩を
片手で押さえつけ
体の上から月を見下ろしながら
「嘘を付くな・・・
シルなんてとっくに死んだに決まっている
父上が死んだように・・・・
あの頃が戻らないように・・・・」
薄れる意識をかろうじて留めながら
見上げる月を見てクスリとカルフォスは、笑う。
「神なんて私は信じない・・・
月などと・・・私は信じないのだ・・・」




