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077 「アフリカにも、中華街ってあるよね」

空港のロビーで、わたしはテレビの画面を眺めている。

この大陸からずっと北のほうにある、極東の島国。

その島国にある首都を、大型液晶ディスプレイは映しだしていた。

その街が、未曾有の大災害と戦術核兵器が誤爆したことにより廃墟となったのは、ほんの一年ほど前だったと思う。

驚くべきことに、廃墟と化したはずのその街はあらかた復興しつつある。

無人で動作する建築ロボットを大量導入し、自動的に復興するシステムを造ったらしい。

信じ難い話ではあるが、自然災害の多いその島国では、必須のものなのかもしりないと思う。

幾何学的である意味無機質に整備されつつも、どこか結晶体のような美しさを持つ街の風景を眺めながらわたしはなぜかこころの痛みを感じる。

なぜだろう。

わたしは、その災害が起こった時に、その街にいた。

当時、USAに籍を持つ大手PMCと契約していたわたしは、情報収集のためその街で仕事をしておりその最中に災害と出くわす。

随分、悲惨な様もみたのだが、こころの痛みはその時の記憶とは関係ないものだ。

むしろ、何かが記憶から失われているような、不思議な気持ちになる。

何か、恐るべきもの。

あるいは、美しく戦慄的なものかもしれない。

そんな何かを、わたしはそこで見たような気がしている。

けれど、それはわたしの記憶から失われていた。

ただの、妄想だとも思える感情だ。

こんな仕事を長く続けていれば、多少こころが壊れてくるのもやむおえない気がする。

物思いにふけるわたしは、ふとおんなの声を聞きとめる。

極東の、島国の言葉だ。

「わたし、肉まんが食べたいの」

ミリタリージャケットにジーンズというラフないでたちをして、挑むような笑みを口元に浮かべた若いおんながいる。

そのおんなの前に立つ、茫洋としてとらえどころがない印象の若いおとこが、サンドイッチの入った袋とコーヒーの紙コップを持ってうんざりしたように言った。

「ここは、中華街じゃない」

「え? 聞こえない。小龍包でも、いいよ」

若いおとこは、無表情のままおんなにサンドイッチの包みを渡す。

おんなはため息をつきながら、サンドイッチを頬張る。

「ハルオの用意してたこのバギュームで生成したバックアップ用の身体、まだ馴染まないの」

咎めるような目をしたおとこを無視して、おんなは語る。

「やたらと、お腹が空くんですもの」

「そんな話をこんなところで、しないでくれ」

おとこは無表情だが、どこか草臥れた口調で言った。

おんなは、少し照れたように笑う。

「ああ、これってしもねただっけ?」

おとこは、諦めたようにため息をつく。

その時、わたしは少し冷たいものを背筋に感じた。

ライダースジャケットを着たおとこが、ふたりに近づいてくる。

猛獣の気配を、纏ったおとこだ。

どうやら、わたしと同業者らしい。

鋼の冷たさを瞳に宿らせ、肉食獣の滑らかな動作で歩いてゆく。

ライダースのおとこは一瞬わたしを見て、あざけるような笑みを浮かべた。

いや、それは多分気のせいなんだろう。

ライダースのおとこは、わたしの前を通り過ぎるとふたりの前に立った。

「モザンビーク行きの空席が三つ出たから、手に入れた」

おんなは、コーヒーを飲み干してにっこりと笑った。

「アフリカにも、中華街ってあるよね」

ライダースのおとこは、軽く舌打ちをする。

「そこかよ、気になるのは」

なぜかおんなは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


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