表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/77

074 「焔が生き物のようにその血を飲み込んだ」

スミスの言葉に、わたしは苦笑する。

ナツが聖人とは、呆れた話だ。

しかし、スミスの表情はあくまでも真面目である。

わたしは、肩をすくめた。

「あまり高度は、下げられないぞ」

頷くスミスを横目で見ながら、わたしはヘリの高度を下げていく。

東京は、火の海に飲み込まれ紅く染まっている。

溶岩が海から流れ込んだように、生き物となった焔が街を這いずっていく。

真紅の海から、廃墟となったビルと高架道路が焼け焦げた黒い影となって、空に向かって突き出されていた。

わたしは、黒竜式たちの放つ紅い稲妻が造り上げた光の林を縫うようにして、ヘリを飛行させていく。

降り注ぐ白い灰が舞い散り、ヘリの回りに純白の道をつくった。

ヘリを覆っている光学迷彩フィルムは、浴びせかけられる光に狂ったように反応して水晶のような輝きを放っている。

おそらく、外からこのステルスヘリを見れば、水晶製のジョウロに見えるだろう。

わたしは思わず、口を歪めて笑った。

ファティマの予言。

偶然なのか、運命的な必然であるのかは判らないが、わたしたちはそれを遂行しようとしている。

ヘリは、焔に包まれている街の上を飛ぶ。

その焔は、百一体のゴジラサウルスを中心としていた。

漆黒の龍たちは地獄の中心となり、そこから全てを死滅させる焔が溢れだしていく。

わたしは焔の熱を帯びた暴風に揺さぶられるヘリを宥めながら、龍たちの上へと出る。

スミスは、ナツの死体を抱えてヘリの側面に空いたハッチに向かう。

風が吹き荒れる空に向かって、ナツの左手を差し出す。

真紅の炎、火焔地獄に向かって。ナツの白い左手が差し出された。

磁器のように白い肌を、夕日の輝きを纏ったような血がゆっくりと這っていく。

そして、血が地獄と化した地上に向かい滴り落ちる。

渦巻く焔に向かって血の雫を垂らすことに、一体どんな意味があるのだろうかと思えた。

けれどわたしは一瞬、焔が生き物のようにその血を飲み込んだのを見る。

暴走する黒竜式たちに、何かが組み込まれた。

スミスもそれを感じたらしく、わたしに声をかける。

「もういいぜ、距離をとれ」

言われるまでもなく火焔地獄の上に留まることに限界を感じていたわたしは、ヘリを焔から遠ざける方向に向かわせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ